”偽りある者”『光をくれた人』(ネタバレ)


ファスベンダー&ヴィキャンデルが夫婦役…映画『光をくれた人』予告編

 デレク・シアンフランス監督作。

 1918年、オーストラリア西部。戦争の英雄として帰国したトムは、心に深い傷を負い、孤島の灯台守の仕事を引き受けてひっそりと暮らし始める。だが、対岸のバルタジョウズの街で出会ったイザベルという女性に惹かれ、彼女もまたトムを愛し始める……。

 ヒゲなんか生やしているファスベンダー、第一次大戦を戦った兵士で、殺しに疲れてど田舎に孤独に引きこもろうとする男。田舎っつったらムラ社会でかえってしんどいんじゃないか、と思ったら、ぴったりの仕事がありました。孤島の灯台守! 前任者は奥さんが逃げ出し、自分は精神を病んで飛び降り自殺……。
 「大丈夫です、孤独になりたいんで……」が、「僕は一人ものだし、別にそんな風に死んでもいいんで……」とも聞こえる鬱な感じのファス。村の人は「まあ、やってくれるならありがたいし……」と、厄介ごとを片付けたい感ありありなのだが、ただ一人、彼に熱い視線を送る女がいた……!

 快進撃中のアリシア・ヴィキャンデルが村の有力者の娘役。三ヶ月、灯台守の試用期間を終えて村に戻ったファスに興味津々。彼女自身も戦争で兄を亡くしていたが、あまりくよくよせずに明るく振る舞う女。「若さ」やな……孤独でありたいファスベンはこういう女はちょっとしんどいんちゃうか、と思ってしまうところなのだが、本当は孤独なんて求めていなかったのだね……。お手紙にめっちゃ情熱的な返事を書くファス、恋に落ちる二人……。

 味気ない孤島生活も急に色づき(色気づき)、若干困惑気味の両親を余所にイチャラブがスタート! 心機一転、ヒゲを剃ってもらうファス。男性ならわかると思うが、舌で唇の裏を押して皮膚を張ることで剃りやすくするあのアクション、側から見るとすごい間抜けなツラになるんだが、それをめっちゃ嬉しそうにやっているファス。綺麗にヒゲも剃れて、「赤ちゃんみたい」と言うヴィキャンデルちゃん。

 貴様ら……いい加減にしろよ……!

 撮影も最小限のクルーで、この二人をほぼ孤島に閉じ込めて合宿状態でやった結果、実際にも付き合い始めてしまったということで、『ブルー・バレンタイン』と同じ手法で逆の結果。

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 さて、二人の生活の当然の経過として、妊娠が起きるわけだが、ファスが暴風雨の夜に灯台にこもってる間に、最初の子が流産! 妊娠、出産における男の役立たずっぷりがなかなか強烈で、まあ他のことは何とか出来ても、直接は関われないからな……。また病院も何もないところだから、夫は「誰も頼れる人いないから何かしないといけないけどやっぱり何もできない」という状況に放り込まれる。

 どうにか危機を乗り越え、さあ二人目を妊娠……なんだが、この先の展開も予想はついているわけでひたすら重い! 風景や映像が美しいだけに、流産シーンは血がどっと出てくるだけでなかなか生々しい。
二つ目の名前もない小さな墓標が切なく、またまた無力感でいっぱいのファス。そこへ難破した小さなボートが……。乗っているのは泣き叫ぶ赤ん坊と、男の死体……。
 この子は私の子よ!と言い出すヴィキャンデルちゃん、『真夜中のゆりかご』的な狂気を思わせる感じで、いやいやそれはダメだよと最初は言ってるファスも段々押し切られ、その父親らしき男の死体を始末……。
 そもそもこのボート、それなりに足のつきにくそうなところから来てるのかと思いきや、島の対岸から出ていたことが明らかになり、なかなかのリアリズムですね。

 久しぶりに村に帰るとじいちゃんばあちゃんが大喜びで、「君に似てるな!」とか言われて内心どよーんとなっているファスベンダー。そこで墓参りしつつ夫と娘の安否を祈るレイチェル・ワイズに出会う……。

 ここからが本題という感じで前振りが長かったが、二人の夫婦関係と子を失った流れをしっかり描いておかないと、それこそ単なる誘拐ものになっちゃうわね。『ブルー・バレンタイン』に続き、夫婦間における男女の認識のずれとすれ違い、子供に対する考え方の違いなどを描きつつ、罪を背負った男の贖罪に物語は発展する。

 因果応報的な捉え方というか、夫の方は戦争で殺しを繰り返して罪悪感に囚われていて、結婚して幸せになろうなんてそもそもそれが分不相応であると思っている。さらにその上に誘拐と死体遺棄までしてもう完全にアウト……!
 妻の「兄を失くしたり不幸なことも色々とあったけど、自分は幸せになるべき」という信念と真反対なのね。で、妻は夫に対しても「彼、ひいては私たち」は幸せになるべきと思っていて、それが今まで彼を救ってきたのだけれど、度重なる流産によってそれが揺らぎ、天恵的に現れた「娘」を奪おうとする側になった夫を、今度は敵認定してしまう。
 また罪を告白しようとするファスも、手紙送ってみたりガラガラだけ送り返してみたり超遠回しで、優柔不断な「未必の故意」の告白という感じでなんとももどかしい。
 が、完全にバレてからは「妻にも言うことを聞かせた」と全てを引っかぶり、「偽りある者」として牢獄へ……。「父親の方にも、まだ息はあったんじゃないか? 君は戦争で人を殺してるよね?」とか尋問で言われて、それ自体はものすごい言いがかりなんだけど、本人の中では「ああ、やっぱり俺のしてきた殺しに意味なんてなかったんだ」と嫌という程突きつけられてしまう。またまた自殺願望が顔を出す反面、自分が投獄されてもそれは妻を守ることにつながるから、というヒロイズム。が、「娘」を「奪われた」ヴィキャンデルちゃん、「父親は君の夫がとどめさしたんじゃないかね?」と言われて、「そうです」と言っちゃう……ああ……ひどすぎる……それはない……あんまりだよ……。
 が、それでもファスベンダーは全てを背負い、一人審判の地へ向かおうとするのであった……。半分は「あ〜そうそう、どうせ俺なんて……」みたいな投げやりさがあって、『X-MEN アポカリプス』の死んだ目も少々入ってるのだが、もう半分はあのお手紙に象徴される熱情が密かに燃え滾っているのであった。で、また最後にもう一度手紙を送るファス……。

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 ライミ版『スパイダーマン』もそうなんだが、こういうなんかもうダメでしょという女に対して命賭けちゃうところがカッコいいんですよ。ただキルステン・ダンストのMJは家庭環境のせいで金持ちのイケメンについフラフラしちゃうのだが、一作目冒頭のバスのシーンに象徴されるように、ここぞというところではなぜか絶対にピーターを見捨てない。そこのところに彼女の本質が現れているのだな。で、今作のヴィキャンデルはどうかといいますと……?
 ……って、あの港に走っていくところとか、これはほぼ『スパイダーマン2』なんじゃないか……? その後の話は『3』も入ってると言えるか。

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 ファスベンダーが大変かっこよくて、髭剃りの間抜け面から十八番の涙ポロリまで堪能できますよ。今年のベストハズバンド映画にも入りそうですね。原作ありということで、重いテーマを抱えつつも、救いと温かみのある映画。邦題の『光をくれた人』は、夫にとっては妻であり、妻にとっては娘である感じが、やっぱり夫婦間の断絶を感じつつも、まあまあそれでええねん、と思わせましたね。