”二人が仲間になった時”『ガール・オン・ザ・トレイン』(ネタバレ)
エミリー・ブラント主演! 監督は『ヘルプ』のテイト・テイラー。
アルコール中毒が原因で夫に離婚され、傷心の日々を送るレイチェル。電車で「通勤」しながら、停車位置の近くの家に住む夫婦に理想を見出し、彼らの愛情を想像することで心の慰めとしていた。だがある日、その家の妻が見知らぬ男と抱き合っているのを目撃するレイチェル。かつて夫と暮らした家が近くにあることを知りながら、つい立ち寄ろうとするのだが……。
アル中の元妻がエミリー・ブラントで、子供もいる現妻がレベッカ・ファーガソンということで、夫をめぐる三角関係が描かれる。夫役はジャスティン・セローという人だが、この二人に挟まれていると何となくだがトム・クルーズを連想するな……。「次回作のヒロインは君だよ」と言いつつ、両方続編を撮ってバランスを取るみたいな女優のコントロールを計るトムちんですね。
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エミリー・ブラントは電車の車窓からある夫婦の暮らす家を覗き、そこでの夫婦生活を妄想する。その二軒隣には、かつての自分の夫と新しい妻レベッカ・ファーガソンが住んでいて、子供も生まれている。
偶然の目撃者というわけではなく、結構ズブズブの関係者だから意表を突かれたが、電車に乗ってる理由というのもなかなか傑作で、妹の家に転がり込んでいるんだけど、無職なのがばれないようにNYへ出勤しているふりをしている、というのだ。さらに離婚の原因はアル中で、家をゴルフクラブでぶち壊して怒鳴りまくったりかなり危ない感じ。そして電車の中で見知らぬ夫婦に対し爆発する妄想癖……これはやばい! ダメ人間やで! またエミリー・ブラントの取り憑かれちゃってます演技がすごくて、なんだかいい気分にハイになってるところも爆笑ですね。
家に忍び込んで子供を抱えたりしたせいで、レベッカ・ファーガソンにもめちゃくちゃ嫌われてるし、旦那にはむしろ怖がられている。
病気や記憶障害で、主人公で全てを目撃してるはずの人の記憶が曖昧になっており、そのせいで事件の真相がわからなくなってる、というのはミステリ系の映画では非常によくあるパターンで、今回はそのアル中バージョン。だいたい「おまえさえちゃんと覚えてれば……」と思うのが毎回のパターンなのだが、今回は酔ってて覚えてないという話なので、余計に腹が立つ(笑)。やっぱダメだな、アル中は……。ただまあ、「もしかしたら覚えてないだけで自分が犯人?」というのは、候補にはあがるけど滅多にありえないので、これが出てくるミステリは実はあまり切れが良くない。
行方不明になった女はヘイリー・ベネット(『ハードコア』の博士だ!)で、レベッカ・ファーガソン家のベビーシッターに行っていたことも判明。理想の夫のはずのルーク・エヴァンスとの関係は実は冷め気味で、一人真相を追うエミリー・ブラントの妄想はバッサバッサと否定されていくのである。理想の夫婦像の投影は、要は自分の結婚の失敗に対し「それに引き換えわたしときたら……」と自傷的、自己憐憫的になっているということで、理想の夫婦関係を取り戻させたいと願うのは、自身の失敗を回復させたいという願いである。……いかにも妄想癖の人らしく、自己の投影が過ぎて自他の区別が曖昧になっているようですね。
如何せん夫婦関係も冷め気味なので、ヘイリー・ベネットは『X-ミッション』の”オザキ8”ボーディの精神科医にパンツを見せつつ迫ってたりして、かなり複雑なことになっている。警察もちょいちょい動いているがアル中の不審人物であるエミリー・ブラントを疑いつつ、しようもない痴話喧嘩からの行方不明にあまり本気じゃない。妄想癖全開の主人公だけが首を突っ込み続けドツボにはまりまくる。
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正直言って関わり合いになりたくないダメ人間だけど、悪人ではないんですよぐらいのバランスの主人公のキャラが、必要あるのかないのかわからん首の突っ込みっぷりを見せる作劇がなかなか斬新で、文学ぽいというか原作ありきらしいですね。
さらに行方不明だったヘイリー・ベネットの撲殺死体が上がり、妊娠が発覚……でも父親は夫でもオザキ8でもないですよ……。
<ここからネタバレ>
他に男キャラがいない上に、どうも善人には見えない夫が、結局のところ怪しすぎるのである。三人の女性キャラがそれぞれどこかしら、男性、夫、家族関係に依存していて、その結果、この夫に食い物にされているという構図が見えてくる。エミリー・ブラントが会社のパーティで酔って大暴れしたせいでクビになった……という設定の夫だったが、それは単に会社でも女癖悪過ぎたせいだった……ということが発覚。パーティでは暴れてなかったし、さらにアル中はアル中だけど、家のもの壊したり旦那を殴ったりはしていなかったのでした……。本人が酔ってて記憶を失っていたのをいいことに、彼女のせいにして言いくるめていたのだった。
アル中のダメ人間は厳然としてダメ人間なんだけど、それをも食い物にする夫の邪悪さ、薄汚さが急速にピックアップされ、さらにもう弁解の余地もない殺人シーンもバッチリ。ベビーシッターを愛人にして、孕ませちゃったから殺したという救いようのない構図が……。浮気は薄々感づきつつ黙認してたレベッカ・ファーガソン妻も、さすがに真相に愕然。子供のための家族関係の維持という現状が追認できなくなる。かくして二人同時に、「こんな男との結婚に執着してた自分がバカみたい」という認識に至るのであった……。
普通なら離婚だ!ということになるが、なにせ相手は人殺しなので映画的にもこのままではすまんのである。結婚や夫婦関係への執着や抑圧と、そこからの解放を力技でサスペンス仕立てにした映画で、「離婚されて当然のゲス夫」だと地味な離婚話にしかならないところをさらに発展させて、「殺されて当然のカス」にまでパワーアップさせて強引にエンタメにしたような……。同じ「夫の裏側」を描いた映画なら、先の『ザ・ギフト』の方が地味さを地味に感じさせない分、一枚上だな。
ところでクライマックスの構図が、スラムダンク最終回そっくりだったので仰天したよ。いがみ合ってたはずの二人なのに、共通の目的を前に流川が桜木にラストパスを送り、逆転の合宿シュートが決まって……高揚し切った顔で二人が少しずつ歩み寄り、やがて向かい合う……というところが、コルク抜きをブッ込んだエミリー・ブラントと、それをねじってとどめを刺したレベッカ・ファーガソンのその後の向かい合った表情と完全に一致。めっちゃ仲悪かったはずなのにな! 当然この後は、
……と思ったがさすがにやらなかった。惜しい! やったらよかったのに!
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