”分かたれたもの”『ヒメアノ〜ル』
ヒメアノ~ル Himeanole (2016) 実写映画予告編
吉田恵輔監督作!
ビル清掃会社で働きながら、未来に希望を持てない人生に焦りを覚えていた岡田。年上の同僚である安藤に、人は迷いや焦りがあるから生きていけるんだと諭されるが、安藤自身は恋に情熱を傾けているという。安藤が想いを寄せるユカという女への接触役を頼まれた岡田は、彼女が働く店で、高校の同級生であった森田という男と再会するのだが……。
『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』『銀の匙』が一時期立て続けに公開され、いずれも大ヒットとは行かなかった吉田恵輔だが、きっちり下地にはなっていたのかな。今作はまた人気コミックの映画化! 主演はV6の森田剛だっ!
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予告見たら森田剛は悪役で、主演は濱田岳にしか見えないのだけれど、タイトルの「ヒメノアール」のアノールはイグアナ科のトカゲで、ヒメがついてその小さなものという意味。タイトルの出方からしてもこれは主に森田剛のキャラにかかっているわけで、社会の中ではそれだけ彼が小さな存在であることを示している。
濱田岳とムロツヨシ、佐津川愛美の三角関係のくだりは、古谷実の原作漫画の会話シーンが監督のテイストにばっちりはまっていて、居酒屋でのトークのあたりの落ち着かなさなど、まあこう言うのをずーっと見ていたいなあ、と思わせる。この辺りは『ばしゃ馬』からおなじみで、このいたたまれない気持ちにさせる会話シーンはオンリーワンの切れ味があるぜ。
さらに佐津川愛美をストーキングする森田くんこと森田剛が絡んで、事態は四角関係に。言うまでもなく『さんかく』のストーカー、家への嫌がらせ描写を思い出させる。さらに唐突にも暴力シーン、惨殺シーン、レイプシーンが飛び出し……内容は全く違うが『銀の匙』でポイと屠畜シーンを放り込んでくる手際も連想させたところ。これは全てにおいて吉田恵輔作品の集大成になっているんではなかろうか。
しかし、ねちこく人物描写できる人は、結局なんでも撮れるのだな、と思わせるバイオレンスシーンの完成度が素晴らしい。躍動感とぎこちなさの双方が存在する生身の肉体のぶつかり合い。生々しい流血。カメラワークの不穏さも手伝って、嫌な空気感が全開だ。
森田剛の演技が素晴らしいのだが、SMAP解散騒動を思い起こせば、一見明るく楽しげに振舞っているアイドルが実は独立もままならない事務所の奴隷である、なんてことは明らかであり、V6も無論例外ではない。さらにそのジャニーズ事務所の特異性を鑑みるに、森田剛もジャニーさんのケツの穴を舐めたことがあって当然なわけで、そう考えると屈辱的な体験に端を発したと思しき今作の狂気描写も、あながち現実の彼と乖離しているとは思えないのである。それが演技にリアリティを与えているんだろうなあ……。
濱田岳の安定感は言うに及ばずだが、ムロツヨシはちょっとオーバーに感じたところ。目を合わさず能面のような表情で録音された台詞をしゃべってるような感じは、確かにコミュニケーションに難のある人の特徴だが、ちょっと表情豊かで面白い彼の個性と合わなかった感がありますね。
ところで、ムロツヨシ絡みのシーンは後半に撃たれちゃうところが意味深で、なんか股間を撃たれてるように見えたり、病院で変わらぬ友情を誓ってから目を閉じ、外で濱田岳が泣き崩れるものだから、もう死んでしまったんじゃないかという気さえしてしまう。
原作ではついに交わらない両者が邂逅するクライマックスはやはり映画ならではで、道を違えてしまった者たちの悲哀も感じるところ。
ここまで言及してなかったが「麦茶」のくだりには『麦子さんと』の存在がちょろっと感じられたね。やはりああいう「お母さん」や「田舎」「家」が、監督の原風景なのかな。このあたり、急に情緒的にウエットになって、森田剛もおっさんなのに高校生役で、映画の狙いではないのだろうが、それがまたより気持ち悪くて良し! ラストで感動とか言われても「えっ」となってしまうのだが、そう受け取らなければこれはこれであり。
哀しくもおぞましく、一切の描写に妥協がない素晴らしさ。やはりこの監督は信用できるな……田舎ネタ以外はね! 今後も過去に逃げ込まず、都会の砂漠で映画を作り続けていってほしいものである。
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