『さんかく』


 ツイッターで絶賛されてたので、見に行ってみた。とりあえず、矢沢心は殴りたくなった。


 釣具店で働く百瀬は、化粧品販売店で働く佳代と同棲中。友人に勧められてマルチ商法にはまりそうな佳代に、いらついてたその頃……佳代の妹の桃が、夏休みの間だけ、東京の彼らのもとへ泊まりにくることに。わがままな桃に苛立つ佳代だが、その八つ当たりを受けた百瀬は逆に桃に惹かれるように……。奇妙な三角関係が生まれた後、桃は田舎へ帰ってしまうのだが……。


 先輩風吹かして偉そうにすることを好む、典型的ええかっこしいの高岡蒼甫。同棲してる相手は、いかにも二番手臭の漂う田畑智子、名前さえ地味。そこへAKB48(の一人)が転がり込んでくる、と……。
 この絶妙の配役に加え、ほんの小さな小さな出来事の積み重ねが恋とスレ違いを生む状況を、丹念に描く手腕が素晴らしい。見てて、あれこれ考えさせられた。
 いや、いらつくんだ! 「ああっ、それはダメだ! 違うんだ!」「勘違いなんだよ……」「なにやってんだ!」「おめ〜がわりいんだろ!」と苛立ちが駆け巡るんだが、同時に、そう振る舞ってしまう気持ちもわかる。何も言えない。ただ「スクリーンの前の観客のように」事態の推移を見守るしかない。ただし、矢沢心だけは殴りたい。


 ストーリーテリングにおいても、恋愛にまつわる葛藤、ちょっとした心情の動きを丁寧に追っているので、後半に事態が加速していく展開もまったく無理がない。いや、巧いな……。
 「予定調和」を感じさせる部分がないのもポイントだ。作品内で起こった事象のみで全てを表現し、それらがあったが故にかかる結末になる、という必然。ダメ男……ストーカー……無責任なガキを描きながら、それらを断罪するような「思想」を露にするごとき臭みは一切ない。複雑な人の気持ちを描くことに正面から挑み、一定の成功を修めている。ただし友人をマルチに引っ張り込む矢沢心の善意はモンスター的だが……。


 かといって、まったく地味ではないのだよ。各キャストの「華」みたいなものは十全に味わえる。AKBの微笑みは、おそらくファンなら胸の高鳴りを抑えられないだろう。田畑智子の泣き顔に絶頂に達し! 高岡のダメっぷりに庇護欲をかき立てられ! 矢沢心のためならマルチ商法でもどんとこい!(これは違うか)
 さらに、後半さすがにだれかけた瞬間に大流血と柔道技が炸裂し、ちょっとぎょっとさせる。設定だけ聞くと「これなんてAV?」という、どんな妄想やねんという代物なのだが、甘くない現実を突きつけてくれる。矢沢心含め。


 ぐだぐだした説明台詞も、「ポップでキッチュな」(笑)勘違いした過剰演出もない、手堅い作りでありながらダイナミズムに溢れる秀作。特に「いたたまれなさ」が最高だ。思わぬ拾い物、という感じで、今年必見の一本。しかし魔裟斗を敵に回すことになっても、オレは矢沢心マルチ商法だけは許さないよ〜!