”何百曲でも、何千曲でも”『スティーブ・ジョブズ』
スティーブ・ジョブズ伝記!
1984年、Macintosh発表会直前。「ハロー」と挨拶するはずのMacが動かず、ジョブズはいつもの通り激怒。マーケティング担当のジョアンナはカットするように説得しようとするが、ジョブズは撥ねつけ、聞く耳を持たない。そこへ元恋人のクリスアンが5歳の娘を伴って訪ねてきて……。
数年前にアシュトン・カッチャー主演で同タイトルの映画があったが、普通ちょっとでも変えそうなものなのに、全く同じタイトル。やっぱり知名度があるがゆえに、いじると中途半端な印象がつきまとうからかな。
しかし、監督はダニー・ボイル、脚本アーロン・ソーキン、主演にマイケル・ファスベンダーと、こちらの方がかなり豪華だな。ちなみにファスベンダーとアシュトン・カッチャーは同い年、ついでにウォンビンとオレも同い年だよ。
一口にスティーブ・ジョブズ伝記と言っても、ただエピソードを羅列してもダラダラするだけなので、必然的に重要エピソードのみを切り取っていくことになる。もちろんそれはアシュトン版もやっていたのだけれど、今作はより大胆に舞台劇チックに、
1984年
Macintosh発表会
1988年
NeXT Cube発表会
1998年
iMac発表会
の、まさに発表会開始直前の数十分ずつを切り取る。PC史における超重要な一コマの直前に、スティーブ・ジョブズと彼に関わった人たちの悲喜こもごもが集約されていた……!という、大胆すぎな要約。さすがに全体の流れというか、基礎知識としてジョブズの歩みをもう少し知っておかないとわかりにくいので、Wikipediaなり自伝本を読むか……アシュトン・カッチャー版を観ておこう! そういう意味ではあの映画にも存在価値はあったのである……。
84年からジョブズさんはテンション全開。発表会を直前に控え、スタッフを叱咤し、より良いステージを実現しようとする……と言うとまあ聞こえはいいのだが、補佐役のケイト・ウィンスレットの抑えを振り切って、あれやこれやと細かいところに口を出し、えっ、それは必要なの?というこだわりを発揮。舞台監督のサラ・スヌークさんに「非常灯を消せ!」と無茶振り。いや、消防法と言うものがですね……。
とはいえ、このこだわりあってこそのMac、imac、iPod、iphone……。拡張性なんてクソだ!と言い切ってセス・ローゲンと口論し、その拡張性を売りにしてヒットしたapple2を認めず、そのスタッフへの謝辞を入れてくれと言われても速攻断る。
まあ確かに付き合いづらい人格破綻者なのだけれど、何が人の心をつかむか、何が時代を先取りするか、実のところ「知っている」のはこの男しかいないのは、歴史が証明するとおり。昨年のホーキング博士、イヴ・サンローランと同じく、周囲の人もそのことを知っている。だから付いていくしかないのだな。そして、彼を切り捨てることこそが最大の失敗であることが、次のNeXTの発表会において証明される。
chateaudif.hatenadiary.com
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しかしまあ、そういう「アート」の領域では許容できても、人間の世界はそれだけではないのだよな。
訪ねてくる元恋人と娘。もはやDNA鑑定で94.14%の確率で自分の子だとされてるのに、まったく認知しようとしない往生際の悪いジョブズさん。頑なに娘と認めず、「一人で話すと気まずいから君も来てくれ」と巻き込まれた見るからに母性溢れてそうなケイト・ウィンスレットも呆れ顔。こりゃあ人間のクズやで!
娘のリサちゃんは5歳。どうしてコンピュータに「lisa」って名付けたの?と聞かれてジョブスさんは、偶然だ! Local Integrated Software Architectureの略だよ!と言い張る! そこまでして認知したくないのか……!
このlisaとリサの真相に関しては、後にインタビューでジョブズ自身が語っており、実際にこの映画のような親子のやり取りがあったわけではないのであろう。これこそまさに脚色術ですね。
三幕目、いよいよimac発表会の直前。ああ……俺も買った奴や……と思うと(正確には次のモデルの紫色だけど)、急速に親近感が増し、リアルな手応えが感じられる。その後、Appleの発表会こそリアルタイムでは見なかったが、新商品をワクワクしながら待っていた記憶がダイレクトにこの発表会に重なる。
リハーサル、かつてないしっくり来た感じに大喜びのジョブズさん。非常灯が消えてるよ! でかした! 最高! この瞬間の彼を見たいがために頑張ってしまうスタッフは完全にドMだな。
しかしながら、そろそろ大人になった娘との関係は悪化する一方で、恨みつらみをぶつけられてタジタジのジョブズさん。みんなに「もういい加減にしろよ」と言われ、ついに娘への一歩を踏み出す。発表会? 1分待て! もう1分待て!
これまた実際のところ、こういうやり取りがあってみんなが持ってたiPodが生まれた……!というわけではないんだろうけれど、それをこんな感動的なエピソードに仕立て上げちゃう脚色力、演出力、演技力……うーん、こんなジョブズみたいないやな奴にこんなに感動させられるなんて! ビクンビクン! となってしまうよ。
途中で挿入されるコーラの人を口説くところも、まあ大変美しい思い出のように描かれていて、なんだこのセンス……。アシュトン版にも同じシーンがあったはずなんだがな……。
そしてまたも時代を動かす発表の寸前で映画は終わるわけだが、3回目の「apple2のスタッフに謝辞を」と要求して突っぱねられたセス・ローゲン。やっぱり会場に残ってたりして、「ああ……嫌なやつだけど、やっぱりカッコええわ、こいつ……」とでも思っていそうな、腹立ちとリスペクトが半々ぐらいの複雑さを表現。
生ける伝説ホーキング、不死身のサンローランに対して、この天才は夭折してしまったわけだが、それもまたこの人の繊細さ、危うさに似つかわしいようにさえ思えてくる。キレッキレの映画で堪能しました。
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