”天から降りてきた君”『キャロル』


映画『キャロル』予告編 90秒ver

 パトリシア・ハイスミス原作!

 1952年の末……デパートのおもちゃ売り場でアルバイトするテレーズは、娘の誕生日プレゼントに人形を買いに来たキャロルという夫人と出会う。手袋を忘れていったキャロルに届けに行ったことがきっかけで、急速に深まる二人の仲。テレーズは婚約者との破局を選び、キャロルもまた自らの離婚を間近に控えていた……。

 ケイト・ブランシェット様とルーニー・マーラたんの恋愛もので、大変美しい映像の映画である、ということで観に行ってきました。

 冒頭、レストランで何やら意味ありげな顔で見つめ合う二人、声かけた男の微妙な場違い感、これはなかなか繊細な映画であるな、と思いつつ、果たしてこのおしゃれ感覚についていけるのか?若干不安になりました。
 フォーマットは割合普通の恋愛もの。デパートでの出会いも平凡っちゃ平凡だし、目と目が合って深まる思い……など、シチュエーションとしてはありきたり。
 しかしまあ我らがルーニー・マーラたんの儚げさと、それと裏腹な自己主張力が相変わらず全開で、何でもないシーンでも輝くわ。いやいやサンタ帽をかぶるあたりを皮切りに、「旅行行こうよ」とうるさい婚約者をいなす……。最初のシナリオではまだセックスしていない彼に対して手コキしてやる、というシーンがあったそうだが(部屋で寝てたシーンあたりか?)、男を楽しませるシーンは不要ということでカットされたそうな。この婚約者、口を開けば「旅行」で「旅行=セックス」しか頭にないことが丸わかりで実に恥ずかしい。ぜひともクラフト隊長にお説教していただきたい。

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 『ソーシャル・ネットワーク』や『Her』でも顕著であったのだが、一見儚げで守ってあげたくなる容姿なんだけど、実は男なんて全然必要としていないのがルーニー力なのだが、ここは現代や近未来ではなく1950年代。女を所有して当然と思っている男がゴロゴロしているのである。いや、そういう中ではこのコンニャク者野郎なんて人間的にはまだマシな方なんであろうが……。
 そしてまたルーニー本人もそんな自分に気づいていない、何だかギャップを感じてはいるけど、どうしていいかわからないあたりがリアル。そんな優柔不断な彼女が、自分が何を欲しているか知るきっかけとは……。

chateaudif.hatenadiary.com
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 一方のケイト・ブランシェット様。別にわざわざ偉そうにしているわけではないのだが、相変わらずのゴージャスさ。なんだが、手袋を忘れ銃はいざという時に決して火を噴かない若干のドジっ娘属性を備えてしまった女。今回の名言「天から降りてきたよう……」も思わず口走っちゃった感が強く、後先考えず突っ走る欲望に正直な女なのであった。
 破綻した結婚生活に対する見切りはとっくにつけていて、あとは親権をどうキープするかに意識が行っているのだが、旦那ちゃんは未練タラタラ。と言うか、失くしそうになると急に惜しくなる症候群であり、決定的に離別となると今までどうにか我慢してた憤懣が爆発しそうになる。いつもいつもオレに逆らいやがって……! 約束を反故にし、あの手この手で嫌がらせして付け回して、後世にストーカー行為と称される醜態を……。

 この男たちのアウトっぷりも手伝って、急速に深まる二人の仲。やがて二人は旅へ……。
 ここからの展開はちょっと『テルマ&ルイーズ』を想起させ、まさに自己解放の過程ではあるのだけれど、銃が結局火を噴かないのと同じく、彼女らが暴発に向かって爆走していくことはない。
 ケイト様の離婚&親権問題に対して、ルーニーが実際のところ他人事目線なのが効いていて、ケイト様もそれに対して不満を抱かず、逆に話すと冷静になる感じ。このあたり、ルーニー・マーラのキャラも相俟って「子供? ああ、あの子ね、ふーん……へえ……そう……」みたいな関心なさそうな感じが超自然だ! いや、確かにまったく関係ないのはないのだが、お互いそう割り切れるものなのであろうか。なんとも大人の距離感がキープされていて、旅はやっぱり一時の逃避であり、事態は落とし所を探る方向へと推移していくのである。

 ルーニーちゃんが欲しい! でも娘にも会いたい!を両立せんとするケイト様は親権を放棄し、面会権のみを望むという妥協案を持ち出す。そこまで折れたのをさらに潰そうとすることはできない旦那……! 「これ以上を望めば裁判で醜い争いになる。私たちは醜くないはずよ」というケイト様のお言葉が胸に刺さる。が、旦那ちゃんに一片のプライドと損得勘定が残っていたからよかったものの、裏目に出ていた可能性もあるわね。誰もが理性的な落とし所に収まってくれるなら苦労はしないわけで……。

 で、恋愛に関しては、「裁判が片付くまで少し距離を……」とか言い出しちゃうケイト様が結構虫がいいと思うのだが、ここで決してエゴを発揮しないルーニー。ラストも含めて実になんとも美しい、大人の恋愛ね、という映画でありましたが、やっぱり『アデル』みたいに、恋愛っちゅうもんはもっとずるく浅ましくエゴと本気汁にまみれるべきじゃないかね!という気もするのでありました。

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 お話上は背景が1950年代であることは抜きにして語れないのだけれど、リアルな時代の風俗が描かれているかというとそうではなく、巧みに脱臭されソフィスティケートされている感あり。いい映画だが、ちょいとバランス的には受けつけない、虫のいい感じが好きになれないのでありました。