”芋畑に賭けて”『オデッセイ』
リドリー・スコット監督作!
人類3度目の有人火星探索は、18日目の嵐によって中止。ルイス船長は全員に引き上げ命令を出す。だが、撤退の最中、強風で飛来したアンテナの直撃を受けて、マーク・ワトニー飛行士が行方不明となった。失意の中、火星を脱出する残りのクルー。だが、ワトニーは奇跡的に生き延びていた。次の船が来るのは3年後……。
事故によって死んだと誤認され、火星にたった一人取り残された男、マット・デイモン! 植物学者としてのスキルを駆使して、残り少ない食料を補うべくジャガイモを育て始める。酸素は作れるが、問題は水と土。バクテリアを育てるべく、排出された他の乗組員のウンコを分解して土に変えることに……。マット・デイモンがジェシカ・チャスティンやケイト・マーラのウンコをいじっているとだけ書くと、大変なスカトロ趣味のようだ。
舞台が火星ということだが、すでに有人着陸に成功して久しく、幾度か調査が送り込まれているという設定。登場するロケット、基地、画面周りの小道具の新しさと古さの融合が絶妙で、現在の我々が使っているものそのものから、未来ものSFとしては古びて見えるものや、普通に宇宙開発の現場にありそうなものを混在して並べ、リアリティを演出する。
なんとなく、見ていて現実の人類はすでに火星に到達しているんじゃないか、まだだとしてもそろそろなんじゃないかと錯覚してしまいそうになった。火星自体のビジュアルは赤っぽい砂漠で、普通に空気もありそうに見えるが、そりゃあまあ地球でロケしてるからな。
ジャガイモで命永らえているマット・デイモンが探査車を動かしていたのを、地球でモニターしてるNASAスタッフが気づき、最初はアナログな方法で交信を開始する。最後までこの迂遠なやり方か、と思ったがちょっとずつ複雑なことを伝えて通信手段を回復させていく過程が面白い。
マット・デイモン嫌いだし、相変わらず自意識の感じられない顔と演技をしとるなあという感じなので、ワトニーというキャラクターの面白さは充分には伝わってこなかったのだが、ショーン・ビーン他地球組や、ジェシカ・チャスティン船長他の火星離脱組で賑わってくると、俄然面白さもテンポも増してくる。
当然のように軋轢や意見の相違もあるのだが、大元の意見として「見捨てるのもやむなし」とか「彼のせいで大多数が迷惑を被る」とかいう人は一人もいない。助けること自体は決まっていて、あとはどうやるか、ということのみ。そんな中で物資補給用の船の打ち上げが大失敗するのだが、必死のスケジュールをこなしたメンツを責めるものもいない。さあ、次はどうするか?
異様なポジティブさが全編を貫いていて、誰もが彼を助けるという一方向へ邁進していく。これは意図的なもので、誰にでも生きる権利があり助かりたいと思う気持ちがあり、それを尊重する価値観をすべての人が共有すべきである、という意思の表れだろう。
妻子や恋人もいない一人もので変わり者の植物学者一人であろうとそれは同じであり、宇宙空間といういつ死んでもおかしくない過酷な環境に人類が出ていくからこそ、確認しておかねばならない原則であるとも言える。
まあマット・デイモンはもっと人の悪意に揉まれるべきじゃないかね、と思いますがね。中身は小狡い人間に違いないんだからね……(偏見)。
ビジュアル的には『ゼロ・グラビティ』や『インターステラー』に一歩譲るが、原作と発想の面白さをリドリー・スコットが手堅く仕上げた良作。
chateaudif.hatenadiary.com
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それにしても、火星クルーになんとなくいるだけのケイト・マーラの、相変わらずのスイングしなさはいったいなんなのだろう……。マット・デイモンがカリスマ性溢れるスターに見えてくる華のなさだ……。
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