"パンチパーマだけどいい人ですよ"『チャイルドコール 呼声』


 ノルウェー・ホラー!


 八歳の息子アンデシュと共に、郊外のマンションに越してきたアンナ。別れた夫や、監視員に親権を取り上げられることを怖れているアンナは、息子を過保護気味に扱っていた。別の部屋で寝かせるために、緊急用のチャイルドコールを買って来たアンナは、それを息子のベッドに据え付ける。ある夜、息子ではない子供の声がそこから聴こえたことで、アンナはマンションのどこかで虐待があるのではと疑うのだが……。


 『ミレニアム』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100210/1265815121)、『プロメテウス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120703/1341287707)のノオミ・ラパスさん主演映画。
 ちょっと期待していたが、まとまりに欠ける映画であったな。主人公のラパスさんが、息子と引き離されることを恐れるシングルマザー役なんだが、チャイルドコールから聞こえてくる同じマンション内の悲鳴のことを気にかけ、その謎を探り始める……。えっ、でも延々と「息子だけが大事! そのことで頭いっぱい!」ってネタ振っといて、息子には異常ないのになんでよその事件に首突っ込み始めるの? この始発点からしてまずおかしい。


 全体に描写に整合性が欠けていて、主人公が何かを「幻視」した場合、それは単に「本物」だったり、あるいは「幻覚」であったり、実は「幽霊」であったり、中身が全部バラバラなのが苦しい。整理して「幽霊」由来のものでまとめてれば、もう少し印象も違ったと思うが、単に支離滅裂になってしまっている。重要なシーンの幽霊及び事件がらみと、枝葉の部分の幻覚がそれぞれ全く関係がないのが痛い。単にミスディレクションのためのミスディレクションになっている。


 過去の事件と現在の事件が、意外な共通点で重なる……というところを見せたかったのだと思うが、サプライズがラストに二つとも来るように同時進行で進めたのが失敗だろう。ノオミ・ラパスさんのヒステリー演技が冴えてしまったのも逆にマイナスで、「すべては幻覚にすぎないかもしれない」という恐怖をミスディレクションに据えるのではなく、そんなこと夢にも思ってない人に設定しちゃったほうがまとまっただろうになあ。


 さらに、そうしてラパスさんの視点そのものに信頼性をおかないために、別に主人公格の人をもう一人用意しなければならなかった結果として、パンチパーマの人が登場してくる(クリストファー・ヨーネルさんね)。
 観てる間中、パンチパーマが気になってしようがなく、「北欧では果たしてパーマはかけるのか、あてるのか」「ヤーさん的なイメージを持たれないのか」とかずっと考え込んでしまったけど、結局この人も解決役というか尻拭いに終始してしまい、ラパスさん主導の幻覚描写を支えるために存在してしまったような感じであったね。さらに見ている内にこれはパンチなのか、あるいは天然パーマなのか、という疑問まで湧いてきて、見終わった後で、同じ回に来ていたid:rino5150氏と、


オレ「あれってパンチパーマあててるんかな?」
rinoさん「いや、天パじゃないですか?」


と意見交換しましたよ。
 答えを知りたい人は『隣人/ネクストドア』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130525/1369393676)へ進む。


 結局、最後まで整理がつかないまま、ラストもバタバタと風呂敷をたたみ、一時にすべてが解決するようなカタルシスもないままフィニッシュと相成った。色々と盛り込んではみたけれど、整理下手で失敗した印象ですね。


 さて、今作の問題点の解消の仕方としては二つあって、


1.バッサリと要素を整理して、短くまとめる。
2.エピソードの配置を入れ替え、解決の見せ方を変える。


 複雑な構成が難しければ、どちらかがいいんじゃないかな。というわけで、


1を選んだ人は『隣人/ネクストドア』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130525/1369393676)に進む。
2を選んだ人は『クロユリ団地』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130527/1369651146)に進む。


 往年のゲームブック的オチでした。