”被害者の会を結成せよ”『ゴールデン・スパイ』


 2013年の映画締め!


 中国の歴史的秘宝である水墨画が博物館から盗まれた! 日本のヤクザとイギリスの犯罪組織の手が伸びていることを知った香港警察は、特殊工作員を派遣する。だが、その前に謎の美女が現れ……。


 今冬の中華映画祭りの内の一本として公開された映画。『ゴッド・アイ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140107/1389096517)と並んでアンディ・ラウの主演作でもあり、今年『101回目のプロポーズ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131030/1383142756)が公開されたばかりのリン・チーリンの共演作でもある。内容はいかにもバカバカしそうな、お色気ありのスパイものっぽかったので、これだけキャストも揃ってるんだし、まあお祭り感覚で楽しく見られる内容ではあるだろ、と思って観に行ったんですね。
 いや……しかし……まさか今年のアジア系映画の中ではぶっちぎりのワーストを更新するとは……まったく想像していなかったよ……。隣に座っていた夫婦者の集中力が切れる瞬間が、はっきりとわかりました……。


 まあとにかくあらゆるシーンに脈絡がなくて驚く。場面転換こそ矢継ぎ早に何回も何回も繰り返され、しかもあらすじ通り国際的に、世界の大都市を巡る……んだけど、まずそれらは背景を合成しただけのCG。セットとの使い分けがあまりにも露骨過ぎる。さらに場面転換に前振りがほぼなく突然移動し、その場で特に何をしたというわけでもないのにまた移動し、しかもまた戻ったりするので、CGとセットであることも含めてその場所にいるという現実感も作中での意味も一切感じられない。


 そこをどういう意図で行動しているのか皆目つかめない主人公たちと、格好だけはエキセントリックな悪役が、なまじややこしい話にしてるだけにどこにあるのかもわからない水墨画を奪い合い、それぞれ一度は手に収めたりするもののあっさり手放したりして、もうこちらの理解を超えるレベルで争奪戦を繰り広げる。いやあ……もうどうでも良くなってきますね、しまいには……。


 車で建物に突っ込んだら、勢い余って奥の方の水族館みたいな巨大水槽に突入して、アンディ・ラウ泳いで脱出、しかしその直後の銃撃戦では別にびしょ濡れというわけでもなく、しかも水槽云々は一切関係なかった、というあたりが、まあなんとなく今作を象徴しているというか、心に残ったシーンでありますね。
 小学生が工作で家の模型作ったら、全体像も考えずにどんどん増改築していって、統一感のない奇怪な建物ができてしまったような感じで、その場その場で思いつきのシーンや演出、台詞を足していって、後先のこともそこまでの整合性も一切考えていないかのよう。映画というより、まるで思いつきで一枚絵を足していった紙芝居。統一が取れてないという意味では、リレー小説的でもあるな……。


 「支那豚があ!」という本来なら神がかってるはずの名言も飛び出したのに、うっかり聴き流しそうになるレベルの笑えなさ。日本描写ですが、わざとらしい日の丸鉢巻に加えて相撲取りまで出るという、有る意味レトロなまでの間違いっぷり。これも抗日ドラマ的要素も適当にぶちこんどけ!という感じで、いい加減に突っ込んだんだろうけど、ああ……映画自体がもうちょい面白ければ、笑えたんだろうがなあ……。


 リン・チーリンのコスプレ三昧他、名もなき女優さんの尻や脚はたくさん拝めましたが、うーん、なんかキャラも立ってない人らを演出も伴ってない映像で眺めたところで、そりゃあ何のありがたみもないんですな。まあそれでも、ラストにぶら下がって襲ってくる愛人軍団はまだ面白かったの方かな。それらもすべて、謎のフェンシング対決の意味のなさつまらなさで吹っ飛びましたけど……。


 いやー、中華映画祭りも、ちょっとアベレージ下がってきたよな……。前回は『TAICHI』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130820/1376909845)二作と『画皮2』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130827/1377599626)ということで事実上二作品、一方は続編ものということで安全牌だったから良かったものの、昨冬の『狼たちのノクターン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130114/1358159451)で裏切られて以来、ちょっと身構えてきたわけだが、今回はそれを決定づける強烈な一撃! 興行的フックがあるから、とチョイスされただけで、質はまったく伴っていないという、中華映画祭りというブランドの失墜を招く代物だ! これでもはや今企画は「未体験ゾーンの映画たち」inチャイナと呼ぶのが相応しいものとして、注意を払うべき対象になったな……。
 でもなあ、このキャストだったら観ちゃうよなあ。いっしょに公開した『ゴッド・アイ』が面白かったのもあるし、その流れで見に行って被害が拡大したのは、かのチャウ・シンチー製作だからということで多数が見に行ってしまった『少林少女』事件を思い出すね。まあオレは観なかったけど……。中国でも死ぬ程不評だそうで、それはそうだろうと思うよ!