”鳴り止まない目覚まし時計”『麦子さんと』


 2014年一本目は、吉田恵輔監督作品!


 パチンコ店で働く兄と二人暮らしの麦子。生活費を稼いでいる、と偉そうな兄だったが、実は麦子が幼い頃に出て行った母・彩子が、父の死後、月々の仕送りをしていたことが判明。さらに、生活が苦しくなったと言って彩子が部屋に転がり込んでくる。母という実感の持てないまま暮らし始めた三人だが、やがて憲男が彼女との同棲のために出て行ってしまい、麦子は彩子と二人暮らしを強いられる……。


 昨年の『ばしゃ馬さんとビッグマウス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20131126/1385466331)に続いての公開。着々とメジャーになりつつありますな。まあ今作も客入りはいまいち臭いが……。


 声優志望でアニオタの堀北と、その兄のパチンコ屋で働く松田龍平。さらに、離婚して出て行った母親の余貴美子の親子の物語。
 相変わらず、ダメな人間のセコさ、侘しさと、それが類型的にならないだけの人間味の混ぜ方が序盤から冴えていて、これは今作も期待できそう、と思ったのだが、後半、お話が田舎に移ったあたりから急激に胡散臭くなっていく。
 ダメな人に見えた母親の行動には、娘への想いが詰まっていて、本当は娘も母親に会いたかったのだ……というのを着地点にする、という、何とも王道の泣かせ話なのだが、「死んだお母さんの思い出」という文句のつけづらいものを、さらに果てしなく美化していく展開にはうんざりしてしまった。しかもその根拠として、何十年も会ってなくて若い頃しか知らなくてなおさら美化している田舎者に説教させるあたりには、ちょっとぞっとしたわ。いやいやいや、こいつら何にも知らんやんか。生きてた時に感じたウザさは離れて暮らしてたのが急に同居したがゆえのもので、間違いなく本物だから。それをまあ兄貴ならともかく知りもしない人間が諭すかね。


 むしろ、亡き母を理解するにあたっては、東京に出てきてからの恋と挫折、出産の物語の方が遥かに重要だと思うのだが、そこを綺麗にすっ飛ばして、人生のほんの一部でしかなかった「美しかった過去」ばかり語ってしまうのはズレ過ぎだろう。まして、歌っていた時よりも妊娠していた頃が「もっとも美しかった」と作中人物に語らせてさえいるのに。母の人生を追う旅として、田舎はささっと納骨済ませて次に行けば、もっと掘り下げられただろうに。
 「母親」と「田舎」がこうも持ち上げられるあたり、作り手にとって、この二つは本当にセイフティゾーンだったんだろうね。映画作りに失敗して帰っても暖かく迎えてくれる地だ。今思えば『さんかく』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100806/1281103464)や『ばしゃ馬』にも、そんなところが仄見えていたな。都会はマルチ商法あり枕営業あり老人介護ありの砂漠だけどな!


 堀北真希は実年齢通り二十代前半の役だと思うが、キャラ造形があまりに幼いので、まあこんな紋切り型の説教臭さでも諭されてしまう。いやー、酒に酔ってるシーンのそう見えなさ加減は筆舌に尽くし難かった。半ば、悪魔の証明だね。たぶん、これ以上深みのある役を演じるのは無理があったのだろうな……。龍平視点なら、もうちょっと違ったドラマがあったのではないか。
 終盤はもはや吉田恵輔「らしからぬ」レベルでベタな描写が連発され、あのビンタシーンの安っぽさには思わず「えーっ」と声が出そうになったし、思い出の歌流して、なおかつ古い目覚まし時計まで引っ張ってきたあたりでは、「お、おう……」とドン引きしてしまいました。
 おまけに最後は、前作でケチョンケチョンにした「夢」につなげちゃうって、何か悪い冗談としか思えない。ラストは銀行口座、さらにガムテープで時計も修理……もう勘弁してくれよ! ベタな泣かせの大洪水かよ!


 題材を変えたら、急に筆致が鈍った感がありありで、正直、期待が大き過ぎたせいかポカーンとなってしまった。今まできっと過大評価してしまっていたのだろう。まあ堀北真希主演が最初から決まってて、それに合わせて書いたのかもしれないね。それがきっと、メジャーになるということなのだろうな……。


 あーあー、せめて銀行口座に残ってたのが七万円ぐらいだったらよかったのに。まあここまでボロカス書いといてなんですが、それでもそんなに悪い映画ではないです。今までが良過ぎただけで、ごく普通のレベルですよ。
 しかしまあそんなわけなんで、もはや『銀の匙』は何も期待せずに観に行くことにする。

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