"燃えよ闘志、覚醒せよ天才"『ハナ 〜奇跡の46日間〜』


映画『ハナ 奇跡の46日間』予告編
 卓球映画!


 韓国で空前の卓球ブームが巻き起こる中、女子のエースであるヒョン・ジョンファは宿敵である朝鮮のリ・プニから勝利をもぎ取るも、「万里の長城」と呼ばれる中国の壁を破れないでいた。千葉で開催される世界大会に向けて準備を進めていたジョンファたち韓国チームだが、突如、朝鮮との合同チーム結成が命ぜられる。生活習慣も価値観も何もかも違う朝鮮チームとの練習が始まる中、ジョンファは団体戦のダブルスの座を賭けて、再びリ・プニと対決するのだが……。


 最強中国を相手に、ライバル同士だった南北朝鮮チームが手を組んだ! って、これ、ほんとにあった話なんですね。時は1991年。今より遥かに南北統一の機運が高まり、現実感を伴って感じられた時代。
 南の女子チームのエースがハ・ジウォン。『TSUNAMI』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100930/1285842121)と『第7鉱区』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111120/1321796944)観たけど、どっちも面白くなかったから印象に残ってねえや。で、北のチームのエースはペ・ドゥナ。『クラウド・アトラス』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130406/1365157013)も記憶に新しいですね。いきなりこの二人が試合するシーンから始まり、試合はハ・ジウォンが辛勝。しかしそこで力を使い果たし、決勝では中国チームに惨敗を喫する。表彰台の上でじりじりと散る火花……!
 いやあ、本当にスポ根ものって分かりやすいな! 関係性が人目で分かり、単純な勝ち負けに熱くなる。
 で、ハ・ジウォンの家庭環境など紹介しつつ、日本で開催される国際大会に向けて準備していたら、突然の南北合同チームの結成をテレビで知る! 現場の意向無視! こないだ就任したばかりの監督も、朝鮮チームの監督が総監督になるためまたコーチに格下げ!


 韓国チームと朝鮮チームは、それぞれ男女四人ずつで、合同チームは全員参加で合計十六人(他に補欠もいるかな)。映画では女子チームがメインで、先の両エースに加えてそれぞれのチームのナンバー2が登場。明るくて恋愛体質の韓国チームナンバー2をチェ・ユニョン、地味で国際大会初参加の朝鮮チームナンバー2をハン・イェリが演じる。それぞれが妹分に当たる存在なのだが、両チームともそうした共通点を数多く持ち、なおかつ相違点も多々あるために、自然とそれらが互いに引き立てあうように。
 初の顔合わせシーンで、ダラダラした韓国チームと、規律正しい朝鮮チームの対比が描かれるところなど、いかにもという感じだが、全体的に描写はやや大袈裟かつ戯画的。主にそれは朝鮮側の描写に顕著で、「同志」と大仰に呼び合うあたりや、都会慣れしない生硬さ、結果が悪かったり規則を破れば「収容所行き」になるという噂など、我が国の報道における「僕たちの知らされてる北朝鮮」のイメージそのまま。果たして、これがどこまで実態に即したリアルなものか、というとちょっと疑問符もつくのだが、そうした中で、朝鮮チーム側の心の機微が描かれるからこそ、逆に引き立つのだとも言える。


 見ていて『タイタンズを忘れない』を久しぶりに思い出したのだが、あれも白人と黒人が合同チームになる話。最初はいがみ合ってるのだが、まああっという間に仲良くなってしまい、アメリカ野郎どもは単純だな……と思ったのだが、アジアも例外ではなかった……。卓球という認め合える共通点をそもそも持っている上に年齢も近いし、こちらもすぐに仲良くなる。いや、そもそもこうなることが普通で、本来はいがみ合い、差別し合うことの方がおかしなことなのだろう。お互いのことなど何も知らないままに……。


 卓球の試合って、なかなか素人目には技術や作戦的なことがわかりづらいものだと思うが、映画でもかなり単純化し、ゲーム性の部分ではポイントの動きや団体戦の順番などに絞って描いている。精神論、コンディション、実況で盛り上げ、団体戦のオーダーで駆け引きする。
 ハ・ジウォンペ・ドゥナが、試合ではそれぞれ感情を表に出すタイプと、冷静な卓球マシンということで対照的なのだが、どっちもツンデレキャラでもあるのだよね。それぞれのシングルスでは好対照だが、ダブルスでは共通点が息の合うポイントになるあたりの切替も光る。
 しかしまあ、割合最後まで火花散らしてるエース同士に対して、早々と仲良くなるナンバー2コンビにもそれぞれ見せ場があっていいのだよな。朝鮮チームのナンバー2、役名はスンボクで、呼び名は「同志スンボク」、地味過ぎるルックスと大舞台に弱い上がり症っぷりがいい味出し過ぎ。しかしエース曰く「実力は私以上」……。初戦から上がり症が災いして団体戦の苦戦の一因になってたのが、負けられない最後の大舞台で、ついにその天才が覚醒する!


 試合の描かれない男子チームはただの応援団のようになっているのだが、女子チームの試合は見せ場の連続で、決勝まで怒濤の盛り上がり。終盤のチーム解散危機がほぼクライマックスのようなヒートアップぶりなのだが、その後もこれでもかこれでもか、試合が終わった後もまだまだこんなもんでは終わらんよ、とばかりに豪快に泣かせ演出を連発! 何とか踏みとどまっていたが、ラストは号泣ですよ!
 ヘルメットみたいな髪型で卓球マシーンを演ずる、ペ・”ザ・ウォーズマン”・ドゥナが素晴らしくて、今回ですっかりファンになってしまったわあ。病気を隠していて、戦える時間が限られているあたりもウォーズマンっぽいな(笑)。日頃は頼りになるのだが、ちょっと守ってあげたくなるようなところもあって……。自分が年下だと知ったハ・ジウォンが「オンニ(韓国語で、親しい目上の女性に対する「姉さん」的な呼称)とでも呼んでほしい?」と挑発するが、ラストではしっかり……。いやあ、実の妹に小遣いをあげたり、チームメイトたち妹分を引っ張り続けてきたけど、ほんとは自分もこんな姉さんが欲しかったんだよ!


 朝鮮側の規律に代表される、国同士のしがらみや断絶の歴史をいかに乗り越えるか、という重要なテーマを、相手がチームメイトにせよ監督にせよ役人にせよ、そこはもう丁寧にコミュニケートし、自分の気持ちを言葉にして語りかけ、理解してもらうしかないのだ、という真摯さで固めたところも良かった。希望はその先にしかない。もちろん、これは韓国と朝鮮という二国だけの話ではなく、その歴史に深く関わっている日本にとっても何ら他人事ではないよ。
 そして、団体戦の「勝って後につなげる」という形式もここにつながってるんですね。例え今すぐなし得ないことでも、小さな勝ちを積み重ねていこう、ということ。


 ベタベタなことを実力ある人たちが大真面目にやり切るのが一番面白いんだ、という見本のような映画。もう一回見たいが、公開規模がしょぼかった……。早くソフト出して欲しいな。

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