ルシフ様の2019年読了本

2019年の読書メーター
読んだ本の数:45
読んだページ数:10699
ナイス数:17

月の骨 (創元推理文庫)月の骨 (創元推理文庫)感想
デビュー作ほどのインパクトはなかったが、イマジネーションと現実を混在させたような世界観は健在。夫婦の会話や互いの関係を書いたシーンだけずっと読んでおれそうな筆致も素晴らしいし、そこから繋がるラストも号泣ものなんですが……。
三部作の一本目ということで、続きにも期待。
読了日:01月03日 著者:ジョナサン・キャロル
ブラック校則ブラック校則
読了日:01月06日 著者:荻上チキ,内田良
炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))炎の眠り (創元推理文庫 (547‐3))感想
読んでて突然「ストロー」の下りで泣いてしまった。相変わらずこういうところがいいんだ……。
オチにも関連するが、クライマックスでは主人公のやることが確かに怖くて、『ジョジョ』のボヘミアン・ラプソディ回も思い出したところ。
読了日:01月06日 著者:ジョナサン・キャロル
空に浮かぶ子供 (創元推理文庫)空に浮かぶ子供 (創元推理文庫)感想
創作にまつわる狂気、というと簡単すぎるのだが、ラストの一歩手前で知らず知らず毒され切っていることに気づいた時は、我知らず鼓動が大きくなりましたわ。映画ネタも面白い。
読了日:01月17日 著者:ジョナサン・キャロル
作家の収支 (幻冬舎新書)作家の収支 (幻冬舎新書)感想
淡々と、サラッと書いてあるがゆえに「自慢かよ!」と言いたくなるが、書ける人、稼げる人というのはこういうものなのだろうな。この人ならではの稼ぎ方も面白いが、一般的データも参考になる。
読了日:01月18日 著者:森博嗣
友達以上探偵未満 (角川書店単行本)友達以上探偵未満 (角川書店単行本)
読了日:02月09日 著者:麻耶 雄嵩
ババァ、ノックしろよ!ババァ、ノックしろよ!
読了日:02月09日 著者:
フランス人ママ記者、東京で子育てするフランス人ママ記者、東京で子育てする
読了日:03月02日 著者:西村・プペ・カリン
エデン(新潮文庫)エデン(新潮文庫)感想
数年ぶり、2回目に読んだわけだが、その間に『弱虫ペダル』を全巻読み、ツール・ド・フランスも総集編を通して見るようになったおかげで(笑)、入り込み方が全く変わったわ。楽園を駆け抜ける勝負師どもへの賛歌。
読了日:03月06日 著者:近藤史恵
殺人鬼にまつわる備忘録 (幻冬舎文庫)殺人鬼にまつわる備忘録 (幻冬舎文庫)
読了日:04月06日 著者:小林泰三
我らが影の声 (創元推理文庫)我らが影の声 (創元推理文庫)感想
過去が追いかけてきて、自分の凡庸さ、卑劣さをバッサリと断罪していく恐怖。誰だってそんな高潔ではいられないのだが、卑近さゆえの罪は必ず代償を求める。
キャロル版『IT』とでも言うべきストーリーだが、読後感はおなじみのアレ……。
読了日:04月16日 著者:ジョナサン・キャロル
夢を見続けておわる人、妥協を余儀なくされる人、「最高の相手」を手に入れる人。 “私"がプロポーズされない5つの理由夢を見続けておわる人、妥協を余儀なくされる人、「最高の相手」を手に入れる人。 “私"がプロポーズされない5つの理由
読了日:04月22日 著者:仲人T
奴隷商人サラサ~生き人形が見た夢~ (光文社文庫)奴隷商人サラサ~生き人形が見た夢~ (光文社文庫)感想
作者初のシリーズものということだが、印象としては上中下巻の中巻? エログロな題材を生真面目に描き切る筆致は、一冊で終わらずこうしてストーリーを展開させるとより生きるのかもしれない。今作では完結しないが、この引きこそが明日もしれない奴隷の運命そのものか、とも思わせられた。
読了日:05月24日 著者:大石 圭
ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編1 盗賊たちの狂詩曲 (富士見ドラゴンブック)ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編1 盗賊たちの狂詩曲 (富士見ドラゴンブック)
読了日:05月25日 著者:山本 弘,グループSNE
ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編2 モンスターたちの交響曲 (富士見ドラゴンブック)ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編2 モンスターたちの交響曲 (富士見ドラゴンブック)
読了日:05月25日 著者:山本 弘,グループSNE
ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編3 終わりなき即興曲 (富士見ドラゴンブック)ソード・ワールドRPGリプレイ集スチャラカ編3 終わりなき即興曲 (富士見ドラゴンブック)
読了日:05月25日 著者:山本 弘,グループSNE
二重生活 (角川文庫)二重生活 (角川文庫)
読了日:06月17日 著者:小池 真理子
お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門お砂糖とスパイスと爆発的な何か—不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門
読了日:06月23日 著者:北村紗衣
因業探偵~新藤礼都の事件簿~ (光文社文庫)因業探偵~新藤礼都の事件簿~ (光文社文庫)
読了日:07月16日 著者:小林 泰三
愛は、こぼれるqの音色 (TH Literature Series)愛は、こぼれるqの音色 (TH Literature Series)感想
 「欠落を抱えたイケメン」というこの世で最も美味しい者を主人公に、「女性向け」を謳うSFでありながら、大藪春彦ばりのキレッキレのノワールが展開される表題作に悶絶!
 一方で中編『密室回路』で示された救いも心地よい。確かにこれは著者の現時点での到達点なのかも……。

読了日:07月18日 著者:図子 慧
スティグマータ(新潮文庫)スティグマータ(新潮文庫)感想
文庫で再読。ツール・ド・フランス真っ盛りのこの時期に読むのが、やっぱり最高ですね。『エデン』再読の際にも思ったが、この期間の読み手である自分の変化が大きく、ロードレース部分への没入度が桁違いになった。
読了日:07月19日 著者:近藤史恵
みかんとひよどり (角川書店単行本)みかんとひよどり (角川書店単行本)感想
山の寒々とした舞台で幕を開けながらも、そこに秘められた豊饒さを都会と対比しながら描き、それぞれ違う人生を浮き彫りにさせる。シンプルながら、近年ますます冴え渡る作者の眼差しと筆致に酔う一本。猟師の人は、ちょっとかつての整体師さんを思い起こさせるな。
読了日:08月10日 著者:近藤 史恵
嘘は罪 (文春文庫)嘘は罪 (文春文庫)感想
不倫浮気不倫浮気不倫浮気不倫浮気不倫浮気不倫浮気の十二本からなる短編集。お題固定で十本ネタ出ししてください、と言われて勢い余って十二本も書いたような代物で、90年代の価値観ってこんなだったっけ、と思いつつも、名匠の技巧が楽しめる。
読了日:08月19日 著者:連城三紀彦
新ロードス島戦記 序章 炎を継ぐ者 新装版 (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記 序章 炎を継ぐ者 新装版 (角川スニーカー文庫)感想
新章がスタートする、という事なので、読んでいなかったこの「新」に手をつけてみることに。これはその中でも序章で、物語の前段に当たる部分。蛇足なんじゃないの?という危惧は読む前から抱いているわけだが、果たして……?
読了日:08月25日 著者:水野 良
あなたに贈る×(キス) (PHP文芸文庫)あなたに贈る×(キス) (PHP文芸文庫)
読了日:08月27日 著者:近藤 史恵
溺れる女 (角川ホラー文庫)溺れる女 (角川ホラー文庫)
読了日:08月30日 著者:大石 圭
アルスラーン戦記11魔軍襲来 (らいとすたっふ文庫)アルスラーン戦記11魔軍襲来 (らいとすたっふ文庫)感想
10巻読んだのが20年前だが、全く気にせずに読む(そもそもこの巻が出たのも14年前とか……)。対魔物戦とか、ここだけ読めば割合面白くなりそうな気がするのだが、今後の展開やいかに……。
読了日:09月14日 著者:田中芳樹
アルスラーン戦記12暗黒神殿 (らいとすたっふ文庫)アルスラーン戦記12暗黒神殿 (らいとすたっふ文庫)
読了日:09月14日 著者:田中芳樹
5分でわかる10年後の自分 2030年のハローワーク5分でわかる10年後の自分 2030年のハローワーク感想
書かれた趣旨とは全く違うかもしれないが、来年に転職(というほど大げさなものでもない)を控えたおっさんとしても、大変示唆的で勇気づけられる内容を含んだ一冊。fuck失業!
読了日:09月17日 著者:図子 慧
新ロードス島戦記1 闇の森の魔獣 新装版 (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記1 闇の森の魔獣 新装版 (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
新ロードス島戦記2 新生の魔帝国 (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記2 新生の魔帝国 (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
新ロードス島戦記3 黒翼の邪竜 (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記3 黒翼の邪竜 (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
新ロードス島戦記4 運命の魔船 (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記4 運命の魔船 (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
新ロードス島戦記5 終末の邪教(上) (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記5 終末の邪教(上) (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
新ロードス島戦記6 終末の邪教(下) (角川スニーカー文庫)新ロードス島戦記6 終末の邪教(下) (角川スニーカー文庫)
読了日:09月23日 著者:水野 良
アルスラーン戦記13蛇王再臨 (らいとすたっふ文庫)アルスラーン戦記13蛇王再臨 (らいとすたっふ文庫)
読了日:09月27日 著者:田中芳樹
アルスラーン戦記14天鳴地動 (らいとすたっふ文庫)アルスラーン戦記14天鳴地動 (らいとすたっふ文庫)
読了日:09月27日 著者:田中芳樹
屍人荘の殺人 屍人荘の殺人シリーズ (創元推理文庫)屍人荘の殺人 屍人荘の殺人シリーズ (創元推理文庫)感想
大変面白かったが、映画版はビジュアルが寒いことになりそうだ。ラストの決め所の呼吸も小説ならでは、と言う気がするね。脳内で補完が効くからな。
読了日:10月04日 著者:今村 昌弘
皆殺し映画通信 骨までしゃぶれ皆殺し映画通信 骨までしゃぶれ
読了日:10月04日 著者:柳下 毅一郎
ボーダー 二つの世界 (ハヤカワ文庫NV)ボーダー 二つの世界 (ハヤカワ文庫NV)感想
老夫婦モチーフが多いな! ちょっとびっくりしてしまうぐらいロマンチックで、吐きそうなぐらいに甘くて、とてもとても気障で……それゆえに恐ろしい話ですね。
『モールス』の続編である短編も、マジかよ!と思ったね。映画『ボーダー』ももちろんオススメ!
読了日:10月19日 著者:ヨン アイヴィデ リンドクヴィスト
ノスタルジア (双葉文庫)ノスタルジア (双葉文庫)
読了日:11月12日 著者:小池真理子
ゴースト・スナイパー 上 (文春文庫)ゴースト・スナイパー 上 (文春文庫)
読了日:12月08日 著者:ジェフリー・ディーヴァー
ゴースト・スナイパー 下 (文春文庫)ゴースト・スナイパー 下 (文春文庫)感想
ハイテクを恐れず作品に取り込んでくるシリーズで、狙撃者の古臭いイメージもあっという間に今は昔……。しかし医療技術も最新のものを描かんといかんせいか、右腕が動きエアロバイクまで漕ぐようになってしまったリンカーン・ライム先生。次は左腕か、と思われたが、これを回避する理屈の豪腕っぷりにもなかなかびびらされたわ。
読了日:12月08日 著者:ジェフリー・ディーヴァー
ゲーム・オブ・スローンズ:コンプリート・シリーズ公式ブック ~ウェスタロスとその向こうへ~ゲーム・オブ・スローンズ:コンプリート・シリーズ公式ブック ~ウェスタロスとその向こうへ~
読了日:12月15日 著者:マイルズ・マクナット
吸血鬼吸血鬼
読了日:12月31日 著者:佐藤亜紀

読書メーター

エマ・ストーンよ、永遠に。『ゾンビランド:ダブルタップ』に寄せて

 その女優、エマ・ストーンとの出会いは『ゾンビランド』だった。荒廃しゾンビが彷徨う世界で、妹と共に生き抜く詐欺師姉妹の姉、ウィチタ役。のちに『EASY A』(小悪魔はなぜモテる?)、『スーパーバッド』と鑑賞。いつだったか、誰かがこう呼んでいるのを聞いた……。

ゾンビランド (字幕版)

ゾンビランド (字幕版)





「オレたちのエマ・ストーン



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ゾンビランド』より

 「オレたちのエマ・ストーン」とは何か? それは上記三作を観たところの印象によると、まあだいたいこんな感じだ。
 華のある美人なんだけど、親しみやすくて、「オレたち」つまり、しょーもないボンクラ男子の話も聞いて笑ってくれて、なぜだかいつも寄り添ってくれる存在。それでいてしっかり自己像を持っていて、自分の意志で一緒にいてくれる。ある意味、ファンタジーの具現化、善意の塊のような存在。ボンクラにとっての理想のパートナー像かもしれない。
 甘っちょろい設定だな、いねーよ、こんな女!とぶった切るのは簡単だが、彼女のキャラクターはそう言いたくない絶妙なところを突いてくる。『ゾンビランド』では男を騙す詐欺師役ということで、冷たい人間なのかと思わせるが、故郷が滅んだことを知ってショックを受ける主人公に、胸を突かれたような顔を見せる。ごくごく平凡な同情心、良心の表現だが……いや、この瞬間に欲しいものって、他にあるか? こんな平凡な優しさこそが、この世界で何より尊いんじゃあないか。このキャラクター性は、他作品にも共通する。


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ラ・ラ・ランド』より

 そんな定番とも言えるキャラになった「オレたちのエマ・ストーン」だが、その言わば最終回となったのがデイミアン・チャゼル監督の『ラ・ラ・ランド』だった。自分の店を持つとか、そんなわけのわからない誇大妄想を抱いたボンクラ男ライアン・ゴズリングを好きになって、並んで歩いてくれるエマ・ストーン
 しかし、悲しいかな、彼女には女優という夢があり、二人はそれぞれの夢のために道を違える。もうオレたちとは一緒にいてくれない。時は流れ、夢は夢でなくなり、ゴズリンは自分の店を持った。そこへ夫と共に訪れるエマ・ストーン。もしかしたら、二人が一緒にいられた未来があったかもしれない。だが、現実がつながっているのは、そうでないここだ。言葉をかわさず再び別れる二人。
 だけど、あそこで去り際に振り返ってくれるのが、やっぱりエマ・ストーンが「オレたちのエマ・ストーン」である所以なんだね。他の女優だったらシリーズを時々考えるが、あそこで振り返ってあの表情を見せる優しさ、甘さこそがエマ・ストーンなんですよ。例えばキャリー・マリガンだったら、振り返らずに店の外に出て、そこでやっと一粒涙を零すだろう。ガガ様だったらゴズリンの曲が終わった瞬間にはステージにいて、すかさず一曲決めるはずだ。ブリー・ラーソンなら……おっと話がずれた。思考実験は尽きないが、あのラストのあの味はエマ・ストーンでないと出せないんである。


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バトル・オブ・ザ・セクシーズ』より

 そして続いてやってきたのが『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』、これは史実、設定からして、まったく「オレたちのエマ・ストーン」とは関係ないことがわかっていた。エマ・ストーンが演じるビリー・ジーン・キングは、自らのセクシャリティ、テニス・プレーヤーとしての矜持を賭けて戦う。彼女の選んだ彼女の人生だ。「オレたちのエマ・ストーン」は今、「エマ・ストーンエマ・ストーン」になって、初めて自分自身のために戦っている。その戦いに「オレたち」の介在する余地はない。
 ……だけど、それは本当に関係ないのか? 今までずっとエマ・ストーンに寄り添ってもらった「オレたち」だからこそ……今こそ応援すべきじゃないのか? オレたちは今こそ「エマ・ストーンのオレたち」となって、自分の戦いを始めた彼女を支えるべきじゃないのか? 襲いかかるのはスティーブ・カレル。この男もまた自らの誇りを賭けている。重い打球に苦戦するエマ・ストーン。映画館の客席、否、コートの観客席で、自然と応援する声が出る。

エマ・ストーン! エマ・ストーン! エマ・ストーン


 その声援に応えるかのように、急角度のダンクスマッシュが決まり始め、時代遅れの恐竜を圧倒する。この日のために走り込んできた、アスリートのスタミナが尽きることはない。いけ、いけ、エマ・ストーン
 作中では、あの後に別れる夫の人が、あるいはこの心情に最も近かったのかもしれない。彼もまた愛されることなく道を違えるが……それでも束の間、かけがえのない瞬間があったのだ。



 こういった後日談を経て、オレたちとエマ・ストーンの物語は、完全に終わったわけですよ。彼女は自分の道を歩き始め、きれいに終止符が打たれた。ちょっぴり物悲しくて、でも素晴らしいラストだった。いい関係だったんじゃないかな。

 しかしそこで『ゾンビランド:ダブルタップ』が来てしまうわけなんです。
 まさかの続編は、前作から10年、作中でも10年。もうアビちゃんとか言ってられないぐらい、アビゲイル・ブレスリンもすっかり大人になっている。もちろん、オレたちのエマ・ストーンも10年歳を取った。そしてオレたちの分身ことジェシー・アイゼンバーグもまた……。
 いや……なんか心配になっちゃうんですよ。これはつまり『ラ・ラ・ランド』では「夢」として描かれた、もう一つの未来なわけです。「オレたちのエマ・ストーン」と10年経ってもまだいっしょにいられる未来。でも10年経ってオレたちは、「オレたちのエマ・ストーン」と……果たしてそんなにうまくやれてるんだろうか? 関係は、始めるよりも続けて維持していく方がずっと難しいと言われます。10年という年月が経って、「オレたちのエマ・ストーン」もまた、変わってしまったんじゃないか。
 いや、「オレたちのエマ・ストーン」が変わらず「オレたちのエマ・ストーン」のままだったとしても、オレたちは今、その優しさに値する人間であるのかな。あれから、何か成長できているのかな。甘えるばかりのどうしようもない人間になってしまっているんじゃないかな。そんな結末を避けた『ラ・ラ・ランド』はどうしようもなく正しいんだけれど、でも、それとは違う未来もあったんじゃないか……その答えが、もしかしたらここにあるんじゃないか。

 そんなわけで観てきました『ダブルタップ』。
 いや……なんかすいません、ほんと。10年経っても相変わらずコロンバスことジェシー・アイゼンバーグは、口だけの頼りないヒョロヒョロモジャモジャした男で、目覚ましい成長なんてまったくしておりません。もちろん悪い奴じゃあないですが、意思も弱くて半端に傷つきやすい、ただの男です。10年経って、二人の関係もちょっとマンネリなんだが、そこで今さらプロポーズする外した感……。
 しかしそんな相変わらずの男に対し、たまにカリカリするんだけど、やっぱり帰って来てくれるエマ・ストーンの、10年経っても変わらぬ少しも気取らない感じな……。
 ああ……なんだろうな、「いつもありがとう」……これしか言葉が見つからない……。きみがいるから、この世界には価値があるんだ。これからもずっとずっといてください。フッ、これを手放すとは、やっぱりバカな野郎だったな、ゴズリンは……!

 エマ・ストーンありがとう、ありがとうエマ・ストーン! アカデミー賞も取って、役の幅も広がって、本当に素晴らしい女優になったけど、同時に定番キャラもアップデートされ、「オレたちのエマ・ストーン」は今作でも健在だった。10年経っても変わらないもの変わったものを、作り物じゃなく確かに見せてくれた。これはリンクレイターの『ビフォア』シリーズにも匹敵する表現ではないかね。こうなると、また10年後が見たいな。10年後も大して変わらずにウダウダ喧嘩してんのかもしれないけど……でも、やっぱりいっしょにいたいね。

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ゾンビランド:ダブルタップ』より

ご無沙汰しております。最近やっていたこと

 実際のところ、映画感想も遅れがちな上になんだかマンネリだったので、思い切ってサボろうと思ったら随分と気楽になってしまいました。まあそのうち、また書くこともあるかもしれません。
 さて、サボってる間は本を読んだりしていましたが、最近はポッドキャストの編集のお手伝いなどやっておりました。
 去年、動画編集をこっそりやって遊んでいたのですが、お友達のペップさんがスタッフを募集していたので、じゃあ次は音声の編集もやってみるかと思い立ったのがきっかけです。

 今回は「ツイシネ」の『イコライザー2』回を編集しています(しゃべっているわけではありません)。他の回も面白いので、皆さん聴いてみてください。

twcn.pw

ツイシネ( #twcn )Podcast【映画のポッドキャスト】

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ルシフ様の2018年読了本

2018年の読書メーター
読んだ本の数:35
読んだページ数:10918
ナイス数:4

今夜もカネで解決だ今夜もカネで解決だ感想
予習のつもりで読み始めたが、結局当日を過ぎてしまった。50歳超えたらマッサージチェア買ってもいいかな。
読了日:01月08日 著者:ジェーン・スー
殺人鬼教室 BAD殺人鬼教室 BAD感想
積んでいたのを何気なく読んで見たら、思いのほか面白くてびっくり。作者の中では理に落ちる部類だと思うが、世界観に引き込まれて一気読み。
読了日:01月12日 著者:倉阪鬼一郎
ミステリークレイフィッシュ (双葉文庫)ミステリークレイフィッシュ (双葉文庫)感想
船上を舞台にした密室劇。このコンビの本も久々に読んだが、かつての切れはもうないか……。
読了日:01月29日 著者:飯田譲治,梓河人
IT企業という怪物 組織が人を食い潰すとき (双葉新書)IT企業という怪物 組織が人を食い潰すとき (双葉新書)
読了日:03月08日 著者:今野晴貴,常見陽平
ヒッキーヒッキーシェイク (幻冬舎単行本)ヒッキーヒッキーシェイク (幻冬舎単行本)
読了日:04月21日 著者:津原泰水
激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録 (文春e-book)激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録 (文春e-book)
読了日:04月26日 著者:町山 智浩
ユニクロ帝国の光と影ユニクロ帝国の光と影感想
8年前の本だが、ワンマンぷりを指摘された社長がまだ居座っているので、結果的に古びていない本になっている。ブラック企業を読み解くにも面白い。
読了日:04月27日 著者:横田増生
ユニクロ潜入一年 (文春e-book)ユニクロ潜入一年 (文春e-book)
読了日:04月28日 著者:横田増生
インフルエンス (文春e-book)インフルエンス (文春e-book)
読了日:04月28日 著者:近藤 史恵
女奴隷の烙印(らくいん) (光文社文庫)女奴隷の烙印(らくいん) (光文社文庫)感想
最近はシリーズ化を目指しているという話の大石圭だが、今作もその一つとなりそう。主人公姉妹の名がサラサとアリアなのは、『ゲーム・オブ・スローンズ』のような長寿シリーズになれという願いをこめてであろうか? シリーズ化したらいつもと変わらないキャラがまた違った動きを見せそうで楽しみでもある。
読了日:05月06日 著者:大石 圭
アラフォーからのロードバイク 初心者以上マニア未満の<マル秘>自転車講座 (SB新書)アラフォーからのロードバイク 初心者以上マニア未満の<マル秘>自転車講座 (SB新書)
読了日:05月15日 著者:野澤 伸吾
図解 ワイン一年生 (SANCTUARY BOOKS)図解 ワイン一年生 (SANCTUARY BOOKS)
読了日:06月15日 著者:小久保尊
スウィングしなけりゃ意味がない (角川書店単行本)スウィングしなけりゃ意味がない (角川書店単行本)感想
凄まじい情報量と身体性でナチス政権下のハンブルグを一息に駆け抜ける。戦争文学だが、踊り、歌い、演奏しているかのようなリズム感。それは歩くということでも生きるということでもある。
読了日:08月01日 著者:佐藤 亜紀
別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)別冊映画秘宝 決定版ツイン・ピークス究極読本 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)
読了日:08月02日 著者:高橋ヨシキ,滝本誠
わたしの本の空白はわたしの本の空白は
読了日:08月05日 著者:近藤史恵
ウンディネ (ハルキ・ホラー文庫)ウンディネ (ハルキ・ホラー文庫)
読了日:08月07日 著者:竹河 聖
春から夏、やがて冬 (文春文庫)春から夏、やがて冬 (文春文庫)
読了日:08月20日 著者:歌野 晶午
GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)GODZILLA プロジェクト・メカゴジラ (角川文庫)感想
まさに『WWG』とでも呼べるアニゴジ前章だが、二作目にて最高潮! 流れるような筆致で書き綴られるオタク設定、一体どれだけガイガンが好きなんだ……!
読了日:08月25日 著者:大樹 連司(ニトロプラス)
恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より― (ジャンプジェイブックスDIGITAL)恥知らずのパープルヘイズ―ジョジョの奇妙な冒険より― (ジャンプジェイブックスDIGITAL)感想
第5部もアニメ化ということで、読んでなかったこれを予習で。色々とつじつま合わせに頑張っている感もあるが、意外に面白くて、やっぱり5部が好きだなあ、と実感。
読了日:09月02日 著者:上遠野浩平,荒木飛呂彦
七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)七王国の玉座〔改訂新版〕(上)(氷と炎の歌1)
読了日:09月15日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部 宏之
七王国の玉座〔改訂新版〕(下)(氷と炎の歌1)七王国の玉座〔改訂新版〕(下)(氷と炎の歌1)
読了日:09月16日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部 宏之
夫婦で歩んだ不妊治療夫婦で歩んだ不妊治療
読了日:09月20日 著者:矢沢心,魔裟斗
モニター越しの飼育 (角川ホラー文庫)モニター越しの飼育 (角川ホラー文庫)感想
時々あるパターンなのだが、もう一山欲しいところであっさりと終わってしまった……。えっ、人は殺さないの?
読了日:09月20日 著者:大石 圭
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(上)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(上)
読了日:09月22日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部宏之
王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(下)王狼たちの戦旗〔改訂新版〕(下)感想
ドラマとは違いも多いが、こっちのラムジーの登場シーンには完全に騙された! 最悪ですね!
読了日:09月25日 著者:ジョージ・R・R・マーティン,岡部宏之
剣嵐の大地(上) 氷と炎の歌 3剣嵐の大地(上) 氷と炎の歌 3感想
「穢れなき軍団」回は、文章でも最高だな……なんという名調子。
読了日:10月02日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
剣嵐の大地(中) (氷と炎の歌 3)剣嵐の大地(中) (氷と炎の歌 3)
読了日:10月05日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
剣嵐の大地(下) 氷と炎の歌 3剣嵐の大地(下) 氷と炎の歌 3
読了日:10月05日 著者:ジョージ R R マーティン,岡部 宏之
乱鴉の饗宴 (上)乱鴉の饗宴 (上)
読了日:10月07日 著者:ジョージ R R マーティン,酒井 昭伸
乱鴉の饗宴 (下)乱鴉の饗宴 (下)
読了日:10月08日 著者:ジョージ R R マーティン,酒井 昭伸
竜との舞踏 上 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 上 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月08日 著者:ジョージ R R マーティン
竜との舞踏 中 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 中 氷と炎の歌 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月09日 著者:ジョージ R R マーティン
竜との舞踏 下 (ハヤカワ文庫SF)竜との舞踏 下 (ハヤカワ文庫SF)
読了日:10月11日 著者:ジョージ R R マーティン
震える教室 (角川書店単行本)震える教室 (角川書店単行本)感想
なかなか端正なゴーストストーリーのようですなあ、と半分タカをくくって読んでたら、『呪怨』ばりに物理的に殺しにくる奴が急に来て、悲鳴をあげたわ。怖い怖い、もう!
読了日:11月22日 著者:近藤 史恵
「最前線の映画」を読む(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)「最前線の映画」を読む(インターナショナル新書) (集英社インターナショナル)
読了日:11月29日 著者:町山智浩

読書メーター

ルシフ様の映画映画ベストテン

 ワッシュさんの毎年恒例ベスト10企画に参加します。

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 今年は映画映画ということで、なかなか思いつかず悩みましたが、好きなところから10本!

1.喜劇王

喜劇王(廉価版) [DVD]

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 チャウ・シンチーが売れないエキストラを演じる一本。シンチー映画初体験のインパクトもあったが、戯画化された映画作りの裏側が面白い。
 って言うか、まさかの続編が公開だよ!

2.七小福

七小福 [Blu-ray]

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 ジャッキー、サモハン、ユン・ピョウの京劇時代を描いているが、この頃の師の教えは三人の映画作りにも受け継がれている。

3.ヴィジット

 シャマラン初のPOVにして、映画作りを通して自己言及する映画。

4.エド・ウッド

エド・ウッド (字幕版)

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 バートンの映画愛が爆裂する。

5.その男ヴァン・ダム

 ヴァン・ダムが映画を通して自分語り!

8.女優霊

女優霊 [DVD]

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 これは撮影したはずの映像がじわじわおかしくなるシーンが怖いのよ。

9.桐島、部活やめるってよ

桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]

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 ゾンビ映画映画!

10.ザ・プレイヤー

ザ・プレイヤー [DVD]

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 最後のカメオ出演が面白いので。


1.喜劇王(1999 監督:チャウ・シンチー リー・リクチー)
2.七小福(1988 監督:アレックス・ロー
3.ヴィジット(2015 監督:M・ナイト・シャマラン
4.エド・ウッド(1994 監督:ティム・バートン
5.その男ヴァン・ダム(2009 監督:マブルク・エル・メシュリ)
6.イングロリアス・バスターズ(2009 監督:クエンティン・タランティーノ
7.スクリーム(1997 監督:ウェス・クレイヴン
8.女優霊(1996 監督:中田秀夫
9.桐島、部活やめるってよ(2012 監督:吉田大八)
10.ザ・プレイヤー(1993 監督:ロバート・アルトマン

“オレはアレだ"『ボヘミアン・ラプソディ』


映画『ボヘミアン・ラプソディ』日本オリジナル予告編解禁!

 フレディ・マーキュリー伝記映画!

 二十世紀最高のチャリティコンサートとして知られるライブ・エイドのステージに立つ、「クイーン」のメンバーたちとフレディ・マーキュリー。彼らの出会い、数々の名曲の誕生、愛と確執……全てはステージ上で結実する。

 自分はまったく洋楽に無知で、クイーンとフレディの名前と、いくつかのめっちゃ有名な曲は聞いたことがあるかな、という程度。あ、吉良吉影のキラー・クイーンの元ネタだってのは知ってますよ。
 まあそんな感じだったのだが、ブライアン・シンガーの遺作(死んでないけど、まあ今後メジャーでは撮れないかもだし)ということで行って参りました。
 FOXのファンファーレで遊ぶのはシンガーらしいよなあ、と思いつつ、フレディの後ろ姿から始まるオープニング。

chateaudif.hatenadiary.com
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 登場した瞬間からすでに歌の上手いフレディの、ブライアンとロジャーとの出会い。ボーカルに逃げられて意気消沈してる二人の前でフレディが歌って見せて……えっ、なに、もう泣けてきたんですけど……。
 ブライアン・シンガー男児への性的虐待で訴えられてるし、現場じゃ腐れパワハラ野郎であるという噂も絶えない男なのだが、どうして撮る映画は毎回こうも優しいんだろうな。この後も三回ぐらい泣けてしまったが、役者の表情、クローズアップの切り取り方が抜群によくて、何とも言えず染みるのである。

 ゲイとしても知られる監督シンガーがフレディ・マーキュリーを撮るということで、ちょっとは歴史的な文脈を押さえておかないと楽しめないだろうか、と思ったが全くの杞憂。音楽でつながったメンバーの関係と、破天荒ながら裏にマイノリティとしての寂しさを抱えたフレディのキャラクターを中心に、ライブエイドに始まりライブエイドに終わる構成で一気に駆け抜ける。確執やすれ違いはありつつも、クイーンの音楽だけは不変で、反目していた家族さえもいつしか認めあうことになる。揉めることもあるが、「音楽性の違い」では争わない。実に清々しい。

 ただこの洋楽音痴のノンケ男であるオレからしてみても、実話、実在の人物ベースの伝記としてはあまりにも「引っかかる」部分がなくて、もうちょっと破綻したところもあったんじゃないの? そういうところも含めてフレディの魅力だったんじゃないの?とも思ったところ。乱脈な暮らしぶりや金遣いの荒さなどはさらっと流される程度で、性関係なども悪い男といい男が妙にわかりやすく出てきて、あまりに図式的と言うか……。「映画」でありすぎていて、現実はこんなにわかりやすくフラグを回収しないからこその実話なんじゃないの。
 シンプルにソフィスティケートされた「マンガ・世界の偉大なミュージシャン フレディ・マーキュリー編」を読んでるみたいな感覚で、『博士と彼女のセオリー』や『サンローラン』のような、実在の人物が物語的なお約束を逸脱し始めるような迫力には乏しい。

chateaudif.hatenadiary.com
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 ただまあ、結局これはブライアンら残ったメンバー他、現存する関係者が関わり許諾して作ったものなので、史実と違ったとしても、彼らが酒でも飲みつつ「フレディはなあ、ほんとにいいやつだったんだよ。寂しがりやでな……。俺たちはいつも音楽で通じ合ってた家族だった。あいつがエイズを告白した時に、俺はな……」とか何とか語るなら、それはウンウンと聞いたらそれでいいんじゃないかな。またそのうち別のクイーンの映画も作られるかもしれないし、史実に忠実なのはその時でも……。

 楽曲は本当に最高で強くて、安直に使った『スーサイド・スクワッド』の予告がバカみたいに思えてくるな。今回は歌詞もほとんど対訳がついてて、コアファンでもなく語学力もない身には非常にありがたかった。なんだかんだで好きな映画で、爆音映画祭ででももう一回見たいし、UHD買って家でも大音量でかけたいところだな。
 ライブエイドでは別に泣かなかったのだが、職場の映写窓から見たら袖や舞台下にいるスタッフ気分で見られて楽しかった。あとはあの病院の医者や患者もテレビで見ていっしょに「エ〜オッ!」やってれば良かったのになあ。

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)

“これが地獄の業火だ”『テルマ』(ネタバレ)


【公式】『テルマ』10.20公開/本予告

 トリアー甥ことヨアキム・トリアー監督作。

 ノルウェーの田舎町で両親と暮らしてきたテルマは、大学に行くためオスロで一人暮らすことになる。だが、両親の抑圧と監視は離れても続いていた。同級生アンニャとの出会いと恋が、両親の異常な監視とテルマの秘められた力をやがて浮き彫りにする……。

 あの無表情でいるだけで笑えてくるイザベル・ユペールさん出演『母の残像』が監督一作目で、二作目はこちら。アメリカ映画ではないのでキャストは共通せず。前作は『メランコリア』ばりの野ションベンシーンが印象的だったが、今作でも発作を起こした主人公がいきなり失禁し、オシッコへのこだわりを見せつける。どうしても入れたいけど重要なところでは使えないから最初に入れた、という趣の、性癖を感じさせるシーンだったなあ。

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 主人公は超能力の持ち主らしく、発作を起こすと同時に怪現象が起きる。最初は念動力っぽいのだが、生き物を操って呼び寄せるようでもあり、瞬間移動まで起きて、これはちょっと相当凄まじい能力なんじゃないか、という気がしてくる。消えた人が再び出てくるまで時間があったりして、もはやテレポートですらない。

 彼女が子供の頃、父親は一度彼女を殺そうとしたという鮮烈なシーンがオープニングにあり、過去に何かしらあったことが示唆される。成長して以降続いているのは執拗な監視だ。母親からの毎日の電話、フェイスブックによる交友関係のチェック……。そして原理主義的なキリスト教の価値観の押しつけ……頻繁に挿入されるのは魔女狩りのイメージで、なかなか露骨だな……。医者の癖に天動説やら神は七日間で世界を作った的なことを言い出すあたりも最悪なのだが、娘の手にロウソクの火を押し付けて「地獄の業火は決して消えない」と教えるあたりなど、正味、頭がおかしい。
 で、そのことを初めて「おかしい」とはっきり言ってくれた女の子を好きになってしまうのだが、能力は彼女の意思さえコントロールし始める。女の子のそれ以降の行動はすべて力によって操られたものと言えるのだろう。あの言葉だけはきっと本物だったのだろうが……。

 父親には発現していないが、どうも祖母も過去に同じような現象を起こしたらしく、薬漬けで老人ホームに入っていることが明らかに……。
 制御が効かないという点でのみ見ると、作中の発作で表現される癲癇とその患者を隠喩しているとも取れる。悲劇として語られる赤ん坊であった弟の死に関しては意見が別れるところで、病ゆえの事故とも取れるし、欲望を実現化する能力の悪しき側面とも思える。
だからと言って、母親や娘を薬物によって自由を奪い葬り去るのか、という話でもある。この父親の抱く「使命感」そのものが、まさに「魔女狩り」の元凶だったのではないかな。
 母親は息子を亡くしたことでショックで投身自殺を図り、両脚が動かなくなって車椅子生活をしている。それゆえに夫に依存する状態になっているのだが、夫が自分のやっている事に迷い傷ついている時に「あなたは悪くないのよ」と言ってあげる姿は、『ミスティック・リバー』でショーン・ペンの妻を演じたローラ・リニーの役回りに似ているな。これは過ちなのではないかと怯える夫を、正しいことにしておかねば都合が悪くなるという立場からの「永遠の嘘」で補強してあげて、それによって自らの立場をも守ると言うか……。

 そんな父親を「神」として「地獄の業火」で裁き、母親の脚を「キリスト」として癒してみせる姿は実に痛烈な皮肉になっていて、そんなものはそもそもいないのだと突きつけているかのようだ。作中の台詞でもあるが、「神=悪魔」であり「魔女=キリスト」であると言い切るような展開はなかなか大胆で、他の何者でもない「テルマ」なのだ、というタイトルにもつながってくる。

 冒頭とラストのドローン撮影がなかなか鮮烈で、まさに「神の視点」のようにも見える。『フォーガットン』ではまさしく空から見ている者の目線だったわけだが、話の内容では「神も悪魔もおらんわ、ボケ!」と言っているようで、やっぱり見ているものはいるのかな、とも思わせる。
 ラストで戻ってきた女の子も、絵面だけ見たらハッピーエンドと取れるものの、どこかしらイマジナリーフレンドのようにも見えるし、もしかしたら改めて「創造」されたものなんじゃないの、という気さえする。神かよ!
 力があろうがなかろうが、病だろうがそうでなかろうが、結局、自分は自分として生きるのだ、そうあるべきなのだ、というメッセージを親殺しと共にお届けする快作だが、そこには単に痛快なだけではなく、弟殺しも含めて絶大な力と共にその業を引き受けるか否か、という問いかけも含まれている。自由とはかくも厳しいのだ……。

フォーガットン [DVD]

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