”曇天に戦う”『ワンダー・ウーマン』
映画『ワンダーウーマン』本予告【HD】2017年8月25日(金)公開
DCコミックの映画化!
女性だけが暮らす島で育った王女ダイアナ。外の世界を知らなかった彼女だが、島に不時着した男スティーブを助け、彼を追ってきたドイツ兵を戦ったことで、外の世界の戦乱を知る。母親らの反対を押し切り、軍神を倒して世界を救うことを決意したダイアナだが……。
『スーサイド・スクワッド』は一応観たが、本当にひどくてびっくりしたな。今作はそれに対して結構評判もいいじゃあないか……。
主演は『ワイスピ』シリーズにも出ていたガル・ガドット。すでに『バットマンVSスーパーマン』にもワンダーウーマンは登場しているがこちらは未見で、前日譚ということになる。第一次大戦に諜報員クリス・パインとの出会いによって参戦したワンダー・ウーマンことダイアナが、大戦の裏で糸を引く軍神アレスを追う、というお話。
ベースにギリシャ神話があって、かつてゼウスが全ての力を注いでアレスを追放したものの復活が予見されており、ダイアナの母であるアマゾネスの女王コニー・ニールセンは妹である最強戦士ロビン・ライトと共にそれに備えて神殺しの武器を守り続けている。
ドイツ軍に追われて島に転がり込んできたクリス・パインに外界の話を聞いたダイアナは、剣と盾と鞭を携えて、アレスを倒すべくロンドンに向かう。アレスさえ倒せば、戦争は終わるのだ!と力説するダイアナは若干頭の弱い人のように見えて、クリス・パインなどは、ああはいはい、とごまかしている。このダイアナが世界を救うという誇大妄想を捨てて、対症療法的にその場の悪と戦うヒーローに落ち着くまでの話……と言ってしまうと、あまりに夢がないな。
素朴な善意や正義感を発露させてダイアナが戦場へと乗り込むあたりは超盛り上がるのだが、段々と戦場の現実を知ってトーンダウンしていく一方で、クリス・パインや仲間の兵士たちは彼女の活躍に感化されることでバランスを取っている。
第一次大戦が舞台なのだが、もちろんこの後に第二次大戦があって、アレスを倒してもまだ戦いは続くのだ、ということを我々は知っている。別に大仰に語られるまでもなく、戦争が人類の業であり未だ抱え続けている大きな課題であることもわかっているわけで、そこをクライマックスに持ってこられても、どうも弱いのではないか。わかりきっているというか、手垢がついているというか……。
しかし黒幕一人倒したところで戦争は終わらない! と言うのはまあそりゃそうだ、という話だが、やっぱりアレスを倒したら映画は一応一区切りはついてしまう。ドイツ兵が夢から覚めたような顔をしているし……。その黒幕がドイツ側じゃなくてイギリス側にいた、というのは単に巧妙さを示してるだけで、特別大いなる矛盾を描いてるとかではないよな。
これなら、もう少し早めにアレスを倒してしまい、第一次大戦は終結を見るが、にも関わらず第二次大戦が起きてしまう……という展開の方がいいのではなかろうか? そして絶望の中、重火器やタイガー戦車に苦戦するダイアナと……。
アクションも中盤までは良かったのだが、アレスが正体を現して超人同士の戦いになると、やたら横移動するダサいカットが繰り返され、走って行って攻撃する→遠くまで吹っ飛ばされるを繰り返し、その間にダラダラしゃべるのを繰り返すので超テンポ悪し。メリハリがなさすぎて辛い。
「神殺し」が島から持ってきた剣ではなく、ダイアナ本人である、ということもまあわかっているのだが、それをわざわざしゃべっちゃう親切なアレスさんもいったい何なのだろう……。懐柔するなら、一回叩き伏せてからで十分なんじゃなかろうか……。
途中までは面白かったのだが、ロンドンの陰鬱な空とともに段々と鬱屈してきて、ああDCだね……という心持ちに。それでも『スースク』『マンステ』よりは面白いが、やっぱりザック脚本が良くないんじゃない。
『私が生きる肌』の人が、肌死んでて面白かったが、あの人を生かしておいたらまた毒ガス作られちゃうんじゃないの。せっかく今ある分はクリス・パインが命を犠牲にして始末したのに、また普通に作られてしまったら意味ないんではないか。いや、それこそがアウシュビッツに繋がるんだ!ということなのかもしれないが、それならそれでやっぱり現代に行ってから過去を総括するシーンが必要なんじゃないかね。その後のワンダーウーマンが何をしていたのか、この映画を見ただけではよくわからないし、単に博物館に引きこもっていただけのようにも見える。
ガル・ガドットの美しさとフレッシュなイメージでどうにか持ちこたえた感じだが、見ている間はまあまあ面白いものの、終わると不満も噴き出てくるような映画。
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”旅は続く”『西遊記2 妖怪の逆襲』
映画「西遊記2~妖怪の逆襲~」 三蔵法師一行がクモ女に遭遇… 日本版予告編公開
チャウ・シンチーが脚本!
天竺に向けて旅を続ける三蔵たちだが、悟空はなかなか三蔵に心服せず仲違いばかりして危機を招いてしまう。蜘蛛女の襲撃を乗り越えたものの、二人の険悪さは決定的に。どうにか比丘国にたどり着き、九官真人に取り持たれて国王と面会する四人だが……。
『西遊記 はじまりのはじまり』の続編……?と思いきや、キャストは総入れ替えになっているし、チャウ・シンチーはプロデュースと脚本に退いてツイ・ハークが監督しているし、いったいどうなってるの?という感じの映画。
三蔵:ウェン・ジャン→クリス・ウー(『トリプルX 再起動』)
孫悟空:ホアン・ボー→ケニー・リン(『修羅の剣士』)
沙悟浄:リー・ションチン→メンケ・バータル(『孫文の義士団』)
猪八戒:チェン・ビンキャン→ヤン・イーウェイ
段:スー・チー→スー・チー
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と言った感じでガラリと変わっている。特にホアン・ボーさんだった孫悟空が、急にイケメンになっているのが驚きだ。下の二人は、正直前作で台詞もない数合わせだったのでもうちょっと存在感のある面白い人に変えたかったのだろう、という気はするが……?
まあこれだけ陣容が変わっているんだから、普通に続編というよりリブート、パラレルな内容になっているのでは、と見る前は思っていたのだが、あれっ、スー・チー……?
完全に続編だよ! お話はまったくあの続きで、三蔵は未だに悟空に殺されたスー・チーのことを想い続けている。回想や幻影でちょいちょい再登場してくるスー・チーさん……。うーむ、これだけキャストが変わってキャラのイメージまで変わってるのに堂々と続編とは、フリーダム過ぎないか……?
正直、前半は退屈だったが、後半になって本筋が始まると急速に面白くなってくるのな。チャウ・シンチー演出に比べてギャグのコントロールや畳み掛けはうまくいってないが、アクション演出や馬鹿馬鹿しいまでのCGの巨大感の表現などは、さすがのツイ・ハーク節ではないですかね。二人ともむやみに大仏が好きなのがよくわかる。後半はどんどんお約束で盛り上げ、続編ならではの展開を見せる。テーマ曲も全部同じなので、ここはあの技が……!と思ったらやっぱり出てくるわけだ。無論、二番煎じ感も否めないところではあるが……。
今回のゲストキャラ、九官真人を演じているのは仲間由紀恵……あれっ? 出てくる間、ずーっとニヤニヤしっぱなしのキャラで、すごい存在感だ。いつのまに中国映画に……と思っていたらヤオ・チェンという向こうの人気女優なのね。それにしても似ているな……。歳も同じだよ!
『人魚姫』のリン・ユンも出ていて、脇役で出番は少なめだが重要な役。ここは「きみい、ちょっとキャリアを積んでみんかね」とシンチーが出したのであろうか。
スー・チーさんゲスト出演で一応、愛がテーマなのだが、何せ生きてるのは結局孫悟空なので、段々とBL風味に……。
まあ最近のツイ・ハーク映画だと確実に二時間越えなんだろうが、今回は110分にまとまっていて素晴らしいですね。ここは脚本力か……? あまり期待してなかったが、両ビッグネームの個性が発揮されてて面白かった。エンドロール後にはオマケが……いや、ないんだけど……あると言うか……。
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ファイナル・カット以外の三バージョンを一枚に収録した、お得なのかどうなのかよくわからないソフト。
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”何者にも砕けぬ”『エル ELLE』
ポール・バーホーベン監督作!
覆面の男に自宅に侵入され、レイプされたミシェル。過去に起きたある事件から警察不信である彼女は、自ら犯人を探し始める。経営するゲーム会社の内部に、彼女を疎ましく思うスタッフがいることから疑いを深めるが、やがて嫌がらせメールや、家への再度の侵入などが起きる。元夫や友人にもレイプの事実を告げるミシェルだが……。
前作『トリック』は全然ダメだったので、もう新作は期待できないのかなあ、と思っていたら、賞レースもごっそり取ってやたらと評判がいいではないか。主演はイザベル・ユペール、また大真面目な顔をしていて、何を考えているのかよくわからない人の役! この人も初めて観たのは『ピアニスト』で、あのわけのわからなさも含め、いくつになっても最高と言うしかない。近年では『ラブストーリーズ』のワインが本体のお母さん、『母の残像』の死んだ母親役などが多かったが、今作でも離婚して結構でかくなった息子が一人。
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お話はレイプ直後から幕開け、とりあえず猫はまったく防犯の役には立たないな! 家を片付けつつ、病院に行って治療と証拠の採取を行うも、警察にはなぜか連絡しないユペール様。そのまま仕事へ……。
仕事というのはゲーム会社の社長。文芸畑だったのがこの会社を買い取り、なぜかゴブリンが主役のゲームを作っているという謎さ。画面見ても何をするゲームかよくわからないが、PS4だしグラフィックはそれなりだ……。
家族や友人関係がちょいちょいと登場し、段々とこの主人公のパーソナリティが見えて来る。本人は特に語らないんだけれど、若い男と再婚したがってる母親が語る語る語る。過去に主人公の父親がキリスト教に狂い、ご近所の住民25人を惨殺し、終身刑食らって服役中。少女だった主人公はマスコミに共犯関係を匂わされ、50年経った今も殺人者の娘として見られているという……。
まったく心理が理解しがたい話かと思いきや、意外とちゃんと設定が作ってあって、この過去の事件が家族観、男性観などの根っこにあって、警察不信やマスコミ不信にもつながって後々の行動に影響を及ぼしているのだな。
自分と他人をガツンと分けている感じがかなり徹底していて、母親や息子、元夫に対しても全然甘さがなくて超シビア。愛情はないわけじゃないんだが、ついズバズバと物を言ってしまう辺り、どことなく『ロボコップ』が空気読まずに発言している様をも想起させる。息子に子供ができるあたりがなかなか最高で、めちゃめちゃ態度でかい息子の妻とものすごく険悪に。最初から超疑っているのだが、生まれた子供は、あれっ、肌の色が……? まあ可愛い、と周囲が喜ぶ中、「いやいやいや、ちょっと待てよ」と一人で突っ込む!
一人でいる時、レイプ犯を灰皿で殴って返り討ちにする妄想をして、映像は最初犯人の頭をガンガン頭を殴ってる絵面だったのが彼女の顔アップに切り替わり、数秒してニンマリと笑いが浮かぶ。ああ、今とどめを刺したんだな……とわかるあたりが最高ですね。
実際はなかなか犯人は捕まらず、どうも会社の部下に恨まれてるのが怪しい……と思いつつも決め手なし。家の鍵を交換し、防犯グッズショップで催涙スプレーと小さい手斧を買って来る。この手斧の凶悪なデザインにまた笑いをこらえきれないのだが、これの餌食になるのが心配して様子を見にきた元夫なのだから余計に爆笑してしまう。ワハハハ、いやはやかわいそうだなあ……ギャハハハハ!
中盤以降、母親や父親との関係にも変化が現れ、息子夫婦との関わり方もまた変わって来るのだが、短いながらも家族ものとして『マンチェスター・バイ・ザ・シー』をひょいとまたぎ超えるような雄弁な表情を見せるユペール様の演技がすごすぎ。家族や友人のキャラもまた立ちまくりで、この群像劇に近いテイストは……『トリック』だっ! あれも無駄ではなかったのだな。
フランス人の性へのあけっぴろげぶりと、バーホーベンの悪趣味さがいい感じにブレンドしているのだが、画面作りとカット割りがタイトでダラダラしない。バーホーベン映画にハイテクのサーバールームやPS4が出て来ると何やら違和感があるが……。
レイプ犯の正体は、怪しくない人が怪しいという原則で、まあだいたいわかってしまうのだが、展開的にはその後の行動が肝と思う。彼女を過剰に恐れる父親と同じく、レイプ犯が彼女にこだわり続け、何か偶像視していたのではないかと思われるあたり……。
世の中にはやたらと「こうでなきゃ」という規範があり、女性、母親、家族として何がしかの役割を期待されることが多々あるわけだが、いやそんなこと以前に私は私なんですよ、という当たり前のことを素で語り貫き通す。主人公が共感しづらい人物であるとしても、そこは同じなわけだ。
かつて彼女の人生は父親によって一度破壊され、失われたものは回復しないままにここまでやってきた。だが、それでも彼女は彼女であり、レイプという性暴力によってまた傷つけられても、やはり彼女は彼女のままなのだ。そう、ロボコップが欠けた身体で、それでもマーフィーという名を掴んで生き続けるようにだ……。
で、ラストに妙にさわやかな音楽かけて、えっ、それでいいの?という感じで終わるのがまた『スペッターズ』そっくりじゃないですか!
オランダの殺人風車バーホーベンおじいちゃんの健在ぶりを堪能できる一本で、そろそろ八十歳だけど、これはまだまだいけますな。次回作も楽しみ!
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”三人の命知らず”『スキップ・トレース』
ジャッキー主演作!
相棒であるユン刑事を目の前で失ったベニー・チャン刑事は、その後九年、マタドールと呼ばれる暗黒街の黒幕を追い続けていた。だが、上司の理解を得られない上に、捜査中に多数の家屋を倒壊させ停職処分に……。一方、ユンの娘であるサマンサは、マタドールを自ら追う中、コナーという詐欺師と出会う。
レニー・ハーリンが監督、『ジャッカス』のジョニー・ノックスビルが共演ということで、思わず「三人の命知らずが集まった……!」みたいなコピーをつけたくなる。いや、ハーリンは危ないことをやらせる方だが……。
開始30秒足らずで画面上から姿を消すのがエリック・ツァン。ジャッキーの相棒の刑事役なのだが、登場した瞬間から、残り時間30秒の爆弾を身体にくくりつけられており、外そうとするジャッキーに娘と腕時計を託し、海へと身を投げる!
それから九年。ジャッキー刑事は相棒と共に追っていた犯罪組織の黒幕、通称「マタドール」と睨む大金持ちを、相変わらず追い続けてきたが、何の証拠も上げられずにいた上に、大捕物の末に多数の家屋を倒壊させる大失態で停職に。ここは『ポリスストーリー』でも似たような展開がありまして、刑事ジャッキーのお約束ですね。ところで役名はベニー・チャンだが、これは同名の監督からいただいたのであろうか?
一方で、詐欺師ジョニー・ノックスビルがその手がかりをひょんなことからつかんでしまう、というのが二人が出会う発端。大金持ちの経営するカジノで働くファン・ビンビンもそこに絡む……。
さて、エリック・ツァンに託された娘というのは、いったいどんな年頃なのか、とか全然情報がなかったのだが、やっぱりというか何というか、このファン・ビンビンが娘だったのでしたあ! いやいやいや、似てないを通り越してありえないから! ジャッキーの部下の刑事で、地味だがまあまあ可愛い子がいるので、こっちにしておけばまだわかったかな……。
マカオで殺害現場に居合わせたノックスビルさんが、前から因縁のあったロシアンマフィアにさらわれてロシアに連れていかれ、ジャッキーが彼が証拠を持っていることを知ってロシアに行く……という展開もなかなか強引だが、端折りっぷりがすごくて観ている間は突っ込む暇がないのよね。で、中国に戻りたくないノックスビルはジャッキーのパスポートを燃やしちゃって、結局モンゴルを通って陸路で中国に向かうというロードムービーに。
ここから二人の間にバディ感覚が芽生えて行く……というお約束。しかしジャッキーも歳だし、そこまで激しいスタントをしているわけではないが、そのジャッキーにゴミバケツに突っ込まれても平然と転がされているノックスビルのおかげで、なかなかいい絵が撮れているんじゃないか。さすがはスタントを恐れない男だ……。さらに大自然の中で危ないことを撮らせたら天下一のレニー・ハーリンが、ダイナミックかつ手際よい演出で締める。このケミカルっぷりが意外にハマって、なかなか観やすく楽しい映画になりました。
『ウェイバック』と同じルートを辿りつつ、各所の観光映画としても機能し、中国文化もさらっと紹介してみせる商業主義もナイスですね。
最後のどんでん返しも、無理ありすぎだけどあるかもな、と思ってたらやっぱりあったので、笑っちゃったよ。この辺りの感覚は香港映画っぽくもあるし、中華映画っぽいウェットさもある。何か不思議だな……。
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”明日を求めて”『ベイビー・ドライバー』(ネタバレ)
エドガー・ライト監督作!
犯罪組織の「逃がし屋」を務める天才ドライバー、ベイビー。難聴を抱える彼は常にipodを身につけ、音楽をかけながらドライビングテクニックを発揮する。仕事を繰り返しながら、足を洗う時期を模索し続けるベイビーは、ある朝のダイナーで、デボラという女と運命的な出会いをするのだが……?
サイモン・ペッグとニック・フロストの三部作が終了し、『アントマン』を降板した後のオリジナル新作。バランスとしては『スコット・ピルグリム』に近いが、さて中身はどうかな……?
実を言うと、音楽にあまり興味がないので、如何にもオシャレオシャレしたテイスト、選曲についていけるか結構不安であった。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』など、そのせいで全然好きじゃないからな。予告も、なんだこのつまらなさそうなのは……えっ? エドガー・ライト? という感じで……。
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センスあふれるオープニングではまだ不安だったが、徐々に物語にものめり込めて一安心。主人公のアンセル・エルゴートのフレッシュさが素晴らしく、若さゆえの不安定さと、裏腹に抱いている希望……。強盗の片棒を担いでいる「ドライバー」で、現場の荒事には手を染めず運転担当。分け前はすごい金額なんだが、かつて自分をとっ捕まえたギャングのボスであるケビン・スペイシーに大金の借りがあり、そちらにごっそり抜かれている。
ドライバーを続け借金を返し、社会復帰するのが夢で、わずかな分け前を部屋の床下にコツコツ貯めているが、綺麗な身でいてほしい里親には、それさえもよく思われていない。
それでもいよいよ借金返済完了というところまでこぎつけるのだが、ケビン・スペイシーは悪どくて、ベイビーの身内を盾にとってまた仕事を回してくるのである。
このケビン・スペイシーのキャラ、人を雇って銀行強盗をさせるのだが、ドライバー以外はいつも違う面子を集めるのが信条。ベイビーを続けて雇っているのは、腕がいいのはもちろんだが内心ちょっと可愛く思っているのだな。父親的キャラクターの暗黒面を担っているのだが、後半に至っての心境の変化が肝になっている。
銀行強盗をやるチームに加わるジェイミー・フォックスは真性の悪役という感じで、主人公と対極的な存在。こちらは善意の欠片もなく音楽もわからず、ひたすらに主人公の嫌な部分を突いてくる。
そして同じ強盗チームのジョン・ハムとエイザ・ゴンザレスのカップル。ジョン・ハムはジェイミー・フォックスとは対照的に、音楽もわかる男としてベイビーがシンパシーを抱ける男として描かれる。
三者が三者ともそれぞれ、ベイビーが足を突っ込んでいる世界の先達であり、結局のところ足を洗いたいベイビーにとっては、どこかで乗り超えなければならない存在ということになる。そういう意味で、ストーリー的に誰がラスボスになるのかな?と思っていたのだが、これがジョン・ハムだったから、ちょっと驚きでありました。過去からの束縛であるケビン・スペイシーがガーティ的に助けてくれ、対極の存在であるジェイミー・フォックスが無残な最期を迎えたのに対し、最も共感を示してくれていたはずのジョン・ハムが最大の敵になる。『俺たちに明日はない』という映画があるが、ベイビーとヒロイン役のリリー・ジェームズの関係がかの作品を思い起こさせるものに近づいて行く先には、ジョン・ハムたちカップルが「あり得るかもしれない未来」として存在していて、だからこそ決してその道を選んではいけないのだ、ということが今作の哲学として語られる。彼を打ち破ることこそが、真の通過儀礼となるわけだ。
しかし、俺はてっきりジェイミー・フォックスが腹の傷を縫ってムショで復活してきて、もう一立ち回りがあるんじゃないか、と思っていたぜ!
クラシックな物語、寓話としての骨子があり、非常にスマートな作りの映画で、ともすればあまっちょろくご都合主義になりそうなセンチかつロマンチックな話であるにも関わらず、現実的な落とし所(端的に社会復帰……)も常に探っているような、そんな感覚もある。まさにエドガー・ライト自身も一皮剥けたような映画で、やっぱり『ワールズ・エンド』はあの作風へのお別れだったのか、と一抹の寂しささえ覚えてしまう。
ipodなどのガジェットも楽しく、今でもそうだが、もう十数年経った頃にさらに味わいが増してそうな予感もある映画ですね。
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公開時の感想。香港と日本で一回ずつ鑑賞。
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公開時の感想。
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