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”道は開かれている”『シング・ストリート』

映画


「シング・ストリート 未来へのうた」予告編

 ジョン・カーニー最新作!

 1985年ダブリン。不況による父の経済的失墜のあおりを受け、次男のコナーは荒れた吹き溜まりであるシング・ストリート校へと転校を余儀なくされる。どうにか日々をやり過ごしていたコナーだが、ある日、学校前で出会ったモデルを名乗る少女を口説くため、バンドを結成することに……。

 前作『はじまりのうた』を終えて、故郷ダブリンに戻り自伝的映画を撮ろうとしている監督。今作は無名キャストで揃えたことを聞かれ、キーラ・ナイトレイをボロクソに!
chateaudif.hatenadiary.com

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 そして、その後、叩かれまくって即平謝り! ダサい! ダサいよ!


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 言わんでもいい本音をうっかりぶちまけてしまった、というところで、現場ではよっぽどムカついてたんだろうな。『はじまりのうた』という映画自体が、まさにスターと商業主義への批判の視点があるので、そんな映画の現場で主演女優は真逆のスター気取り! どういうことだ!と余計腹立たしかったのかもしれないが、清く貧しく美しく、という映画の発想も少々幼稚だったので、監督自身がその幼稚さを発露してしまったとも言えるかもしれない。図らずも映画の中の思想対立が、キーラと監督を合わせ鏡にして実社会に噴き出たような、なんとも形容しがたい出来事でありました。

 そんなこんなでハリウッドに懲り懲りした監督(でも平謝りしたんだから、またアメリカで撮りたいんだろうけど)、今回は原点回帰でダブリンにカムバック! 舞台は80年代、引きこもりの兄に薫陶を受け、恋と音楽に邁進する少年を描いた自伝的映画。デュラン・デュランのPVを見て、彼らはアメリカ進出してこちらにいないから、地元のTVじゃPVを流しているんだと語られる冒頭から、こりゃあ相当アメリカへの憧れは強いな、ということも伺える。アメリカをバカにしかしてないバーホーベンじゃあるまいし、やっぱり平謝りもやむなしか。

 両親の離婚間近で、学費が安いからという理由で下町の高校に転校させられた主人公、普通の子のようで、結構マイペースでクソ度胸ある奴で、イジメにも校則にもまったくびびらず、自称モデルの女の子を口説くために早々にバンドを結成する。ギター、キーボード、ベースにドラム、マネージャー……同好の士はきっちりいるものだが、80年代のアイルランドの閉塞感がちょいちょい描かれていて、才能があっても海を渡ったロンドンには行けずにくすぶっている連中が多いことが語られる。
 家出と独立に失敗した兄という存在を目の当たりにし、主人公は自分にもそのコースが待っていることを薄々感じている。そして両親の離婚、別居が近づく……もう居場所はなくなる。
 モデル志望の女の子ラフィーナも同じで、でかい家に住んでる……と思ったら身寄りのない子の保護施設だよ! これまたいずれは出なければならない場所。

 成功しようと思ったら障害だらけの人生、親兄弟など先行してくすぶっている負のモデルの存在には事欠かない。その中で心が折れて安全な選択をし、結局は同じようにくすぶった存在になっていくのか否か。
 このプロットと、恋愛相手と恋愛そのものが乖離せず、二人の共通の問題、そして未来としてクローズアップされていく。

 最初のPVのド下手だけど味がある感じがまたすごくいいのだが、その後から歌も演奏も加速度的に上手くなってくる。途中の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』オマージュのシーンの完成度が素晴らしい……のだが、ここは主人公の空想の完成版PVで、実際のところはダンスも服装も決まってないし、家族や校長、ラフィーナさえもきていないちょっと寂しいことになっている。その他のシーンは一応「本当に起きていること」として描いているが、ラストの海のシーンなどのやや荒唐無稽かつ隠喩に満ちた感も含め、虚実ないまぜのファンタジックなテイストを少々残しているとみていいかな。
 自伝と言うことで「信用できない語り手」込みで考えると、もちろんここまでいい話ではなかったに決まってるだろうが、監督はこの3年後、19歳ですでにミュージシャンとしてデビューしてるんだな。さらにお兄さんはすでに亡くなったそうで、悲しいな!

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、50年代に帰ってパンチ一発で世界は変わるのだが、今作でも『カラー・オブ・ハート』と同じく両親は仲直りしないし、ステージが終わっても何も変わってはいない。だからこそ、未来へ向かって旅立つのだ。
 『ブルックリン』に続き、またも海を渡られてしまうアイルランドが、あまりよく描かれずなかなかに気の毒ではあるが、今はどうなっているんだろうな。

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 シンプルな話で全体に甘いところも多々あるが、楽曲の素晴らしさとセンスでカバー。それほど深く描きこまないながら、愛すべき脇役たちも良いですね。バンドメンバーが無駄にスローで歩くあたりも最高だし、それぞれの家族も良い味を出している。
 相棒のエイモン君のポール・マッカートニー感もいいし、ヒロインの役者の設定よりもうちょい年取ってるところがまた背伸びした感があって逆にハマってますね。

 もう一回見るかというと、youtubeに上がってるクリップとサントラでいいことにしちゃうが、非常に面白かったですね。

Sing Street - Drive It Like You Stole It (Official Video)

SING STREET - THE RIDDLE OF THE MODEL Music Video Clip

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