”その曲の魂”『はじまりのうた』(ネタバレ)


 キーラ・ナイトレイ主演作!


 シンガーソングライターのグレタは、共作していたミュージシャンの恋人デイブに裏切られ、不慣れなニューヨークで失意のまま友人宅に転げこむ。強引に連れ出されたライブハウスで、これまた強引に一曲披露させられるも客の反応は良くなく、失意に拍車をかけることに。だが、居合わせた落ちぶれたプロデューサーのダンは、一人胸打たれ、アレンジの構想に取り憑かれていた……!


 自分が設立した会社で干されているプロデューサーと、ミュージシャンの恋人に捨てられた作曲家志望の女が偶然に出会い、意気投合してアルバム作りに励む……。
 二人の「負け犬」が出会うことで人生をやり直す機会をつかみ、立ち直っていく……という定石通りの話。……なんだけど、儲け主義に走る音楽業界への批判がこめられていて、業界内サクセスストーリーにはなっていない。アーティストとして純粋に曲作りをしていたのが、人気が出ると金儲けに走り、売れるアレンジを施して曲自体を捻じ曲げて行ってしまう……。髭なんか生やし、曲をパクリ、浮気までして……。
 成功して、金を儲けて、あいつらを見返すんだ……!というのではなく、あくまで曲を、アルバムを、過程を楽しみつつ商売のフォーマットに囚われずに作っていこう、という話で、最初から売る気のなかったキーラに、プロデューサーのマーク・ラファロもだんだんと感化され、かつての志を取り戻していく。
 その中でも、ラファロは家族、キーラはメジャーデビューした元恋人との関係に悩み、その葛藤を越えることでより曲作りのビジョンを明確にしていくようになる。


 マルーン5アダム・レヴィーンが恋人役で出演していて、映画主題歌への起用からトントン拍子でスターになっていく様をほとんどセルフパロディかという勢いで演じている。ダサメガネをやめてヒゲを生やすというベッタベタなビジュアル作り。もらった曲もポップアレンジで違う代物に変えてしまう。このスターダムの見本のような姿を批判的に描き、そういった成功の犠牲者になるキーラの、見返したいけど同じ道は歩みたくないという姿に説得力を持たせる。
 マーク・ラファロも今やそういった「ヒット作」を何年も見出せず、会社をクビになる寸前まで追い込まれている状態。かつてあった絶大な権力、業界への顔も失われており、わずかなコネを残すのみ……。そんな彼が、最後のチャンスに見出したのが、売れることに興味のない頑固なアーティストである、というところ……。


 言うなれば「清貧」の話で、それ自体はいいことであるし、アーティストとしての矜持を貫く格好よさがないわけではない……んだが、それは無数の無欲と善意とボランティア精神、そして溢れんばかりの才能と、やっぱりしっかり業界へのコネがあるから成立した話なのよな。結局はコネじゃん、結局キーラ・ナイトレイがかわいいからじゃん、と言われないために、偶然歌いました! 偶然プロデューサーに出会いました! 偶然機材持ってました!と大量の偶然が重なり、ポール・ポッツさんが下心もなく寝床や車や労働力を提供してくれる。
 逆算すると、ラファロさんが落ちぶれて権力無くしてるあたりまでもが、とんとん拍子でデビューさせずにそういう「清貧」シチュエーションを成立させるためのエクスキューズのように思えてくるのである。


 そもそもショービジネスである映画で、ショービジネスである音楽業界の中の「清貧」を謳う……って、無理なくやろうと思えばまるで針の穴を通すような手つきが必要とされるし、この映画はまあまあ頑張っていたがそれでもちょっと能天気さは否めない感じですね。終わってからサントラ検索したら、普通に1400円ぐらいしたしな……1ドルじゃないのかよ! アダム・レヴィーンはノーギャラで出たらしいけど、結局曲が売れればお金入ってくるんでしょう。


 ラスト、結局会社はクビになり、恋人ともよりを戻すことなく、映画が始まった時点と大して変わらない立ち位置にいる二人。束の間のロマンスの香りも今は遠く……。けれど、本人たちの心の持ちようは大きく変わっている。それこそが音楽の持つ力、アーティストの物作りの素晴らしさなのだ、というオチもいいのはいいのだが、しかしなんとはなしに好きになれない映画でもありました。穴だらけだけど嫌いになれない、というのなら良かったのだがね……。第二弾としてポール・ポッツのCDも出せばよかったのに!

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