kindle狂想曲 倉阪鬼一郎編

 日本で唯一の怪奇作家と今でも名乗っているのであろうか。一時期よく読んでいた作家さん。最初に読んだ抱腹絶倒のエッセイ『活字狂想曲』でその社会不適応者ぶりを披露していたが、今はファンの方と結婚して妻子持ち、トライアスロンに精を出しているというから、世の中わからない。

 その『活字狂想曲』と、『田舎の事件』シリーズ三作が幻冬舎

活字狂想曲

活字狂想曲

田舎の事件

田舎の事件

不可解な事件

不可解な事件

学校の事件

学校の事件


 講談社からバカミス系の新作が次々と出ております。

 旧著では『赤い額縁』と『白い館の惨劇』がやっぱり目を惹くなあ。

赤い額縁

赤い額縁

白い館の惨劇

白い館の惨劇


 最近は時代小説もかなり書いてるようですね。

kindle化されていない本

 残念ながらかなり多くて、講談社ノベルスでも出てないものが多いし、ホラー短編集、文庫書き下ろし問わず電子化されていないものがかなりあるよ。一番好きなのは『大鬼神』かな。

大鬼神―平成陰陽師国防指令 (ノン・ノベル)

大鬼神―平成陰陽師国防指令 (ノン・ノベル)

42.195 (カッパノベルス)

42.195 (カッパノベルス)

迷宮Labyrinth (講談社ノベルス)

迷宮Labyrinth (講談社ノベルス)

緑の幻影

緑の幻影

”kindleを止めろ!”『ゴーストバスターズ』


映画 『ゴーストバスターズ』予告1

 あの名作をポール・フェイグ監督がリメイク!

 コロンビア大の物理学者エリンに持ち込まれたのは、なんと幽霊の調査依頼? かつて親友のアビーと共著で出した幽霊研究本が世に広まっていたのだ。無断で出版していたアビーを数年ぶりに訪ねたエリンだが、調査への参加を約束させられてしまう。エリンとアビー、アビーの相棒のジリアン・ホルツマンと共に幽霊を映像に収めに行くのだが……?

 主人公の性別を女性に変更した、珍しいリメイク。クリステン・ウィグメリッサ・マッカーシーを主役コンビに据え、ケイト・マッキノンとレスリー・ジョーンズが左右を固める。
 オリジナルは一作目は見たが、『2』は見てないような気がする……?

 大学の終身在職権を目指すクリステン・ウィグだったが、若気の至りで同級生と出した「幽霊」発見の著書が、絶版にしたはずなのになぜか市場に再び出回っていることを知る。まともな研究者の名声が地に堕ちる前に止めようとするが、出しているのはやっぱり元同級生のメリッサ・マッカーシーで、彼女はいまだに幽霊の研究を続けていた。知らない間にkindle版まで出されていて、幽霊研究を一時的に手伝うことを条件に、差し止めしてもらうことに……。

 若い頃は親友だったが、今は疎遠になっていて……というのは女性の友情に限らず、よくあるパターンで、しかも一方が昔の夢にしがみついていて、同じ夢を抱いていたはずのもう一人はリアリストに「転向」している、というのはその中でも特に物悲しいやつではなかろうか。エドガー・ライトの『ワールズ・エンド』もそうだったが……。幸い(?)今作では「幽霊」が実在するので、リアリストになった側が昔の想いを取り戻すことが良きこととして描かれる。

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 平凡な容貌で、保守的になってしまっているクリステン・ウィグに対して、メリッサ・マッカーシーがさぞ狂気的なキャラになっているのかと思ったが、ここで彼女と組むマッド・サイエンティストのケイト・マッキノンが登場。この人もガチのコメディアンで、演技というよりギャグ担当。これがおなじみの変なメカを次々と持ち出して、見せ場をかっさらってくる。その間にはさまって、いまいちメリッサのキャラが立っていない。『SPY』でも「平凡な中年女性」としての面を持ち、常識的な感性のキャラだったが、今回はちょっとそれが裏目か……。
 が、もう一人、肉体派のレスリー・ジョーンズが加わり、メンバーが揃って武器の試射などやり出すと、急激にメリッサの面白さも増してくる。キャラ立ちが弱いのはそのままとしても、やっぱり「デブが変な動きをする」面白さはまた格別なのだ。思えば『SPY』も大半はその面白さが担っていたわけで……。走るデブ、転ぶデブ、飛ぶデブ……。

 電話も取らないバカな秘書役としてのクリス・ヘムズワース、確かに大変バカで、顔と身体がいいから許されるという役回り。しかしただただこういう役なのかと思いきや、実はメインの悪役も身体を乗っ取られることで兼任していたので、当初の触れ込みより意外に美味しい役だったのかもしれない。

 事件が本格的に動き出したり、メンバーが揃ったり、クライマックスが起こったりするのがなぜか一歩一歩遅めな感じで、常に少々もどかしい感じを抱えさせられた。もうこうなるしかない、というシンプルな話運びなのに、展開する一歩手前で常に停滞する感じで、そうなるとギャグも少々もどかしい。
 「ゴーストバスターズ」結成以後も、名声が高まるかと思えば邪魔が入り、なかなか疎外感が解消されない。それもクライマックスの大破壊につなげるためだろうが、終始エンジンのかかりが遅い印象だったな。

 まずまず面白かったが、少々食い足りない印象。カメオ出演も、まったく前作と関係ないキャラとしてだったりするとかえって冷めるんだが……。3Dでお祭り感覚で見ないと、ちょっと弱いかもね。

”許されて留まる”『ヒマラヤ』


『ヒマラヤ~地上8,000メートルの絆~』予告

 ファン・ジョンミン主演作!

 ヒマラヤ最高峰に幾度も挑み続けてきた伝説の登山家オム・ホンギル。学生時代に助けてやったことのある無鉄砲な新人ムテクをけむたがりながらも鍛え続け、ついには新たな世代の登山家として認めるようになる。自らの膝の負傷により、引退の決意を固めたホンギル。だが、その先で悲劇が待っていた……。

 8000m級山岳を制覇した、実在の登山家オム・ホンギルを描いた物語。8000m級山岳は14峰あり、映画はその道のり半ばの頃から始まる。仲間の死体を運んで降りようとした学生登山家を叱り飛ばしたオープニングから数年、新たな8000m級への登頂を企画していた頃、チームの一員としてその時の学生ムテクと仲間が加入してくる。

 確かに根性はあるかもしれないが、その甘っちょろさは山では命取りだ! と怒りまくったファン・ジョンミン、猛特訓を課すのだが、ぎりぎりながらもクリアされてしまう。
 今回のファン・ジョンミン、やってることが山登りなだけクールを心がけているのだけれど、実態としてはやっぱり熱い人情家というキャラ。最初は結構イライラしているのだが、段々と弟分ぽくなってきた彼が可愛くなって、放っておけなくなってはいつも連れ回すという格好に。

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 韓国映画なので、基本はウェットかつど熱くメンタル重視な話……なのだが、そうは言っても実話ベースなので、あまりその範囲も逸脱できず。韓国映画の割には、むしろ淡々とした部類、ファン・ジョンミンだけど狂人度は低く抑えた部類になっているという……。
 『エベレスト3D』ではないが、やっぱり山はむごく恐ろしい場所であり、主人公曰く「山を征服するなどおこがましい。我々は山に、1日過ごすことをやっと許されるだけである」というテーゼを貫く。
話の基本形はスポ根もので、引退の迫ったベテランが自らの進退の際を悟り、自ら育て上げた有望な後継者に託す……という綺麗な物語があるのだが、ああ、山は無情、後輩であるムテクが先に壮絶な死を遂げるのであった……。
 老いも若きもヒマラヤの猛威の前では大した差ではなく、一つの判断ミス、わずかな天候の変化が生死を分けてしまう。

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 そして、かつて仲間の死体を運ぶことにこだわったムテクをあれだけ叱責した主人公が、今ここで彼の死体を回収すべく登山を計画する……。幾度も繰り返してきた登頂では、それぞれ登山用具のスポンサーがついて、半ば彼らのために登るようなことになっていたのだが、登頂直前で死体を拾って引き返すという、全然宣伝にならない登山なのでそれらもなし。あまりに無謀かつ今までと言行不一致すぎ、さらに弟分だけ贔屓しすぎ問題まで浮上し、全然メンバーが集まらない。そもそも自分が引退発表したので、それまでの仲間もみんなカタギの仕事についてしまっているという……。さあ、この逆境の果ての結末は……?

 実際のオム・ホンギル氏の偉業は、日本にはあまり情報が入ってきていないようで、文献なども翻訳されていないようでもったいない。さすがに実話ならではの重みがあり、しっかりと堪能できました。

翼ある闇 kindle鮎最後の事件 麻耶雄嵩編

 昔良く読んでた新本格もの、もう欠かさず読んでるのはこの人ぐらいになっちゃったな……という麻耶雄嵩。ロジカルさを追求することで、どんどんけったいなシチュエーションを生み出していく作家ですね。ストーリーもそれに合わせてひねくれた展開になっていくが、別に作者の底意地が悪いわけではなく、あくまでお話としてやっている感が強いですね。

 さて、デビュー作『翼ある闇』他の「メルカトル鮎」シリーズを中心に、近年の作品はだいたい電子化されています。

隻眼の少女

隻眼の少女

あぶない叔父さん

あぶない叔父さん

kindle化されていない本

 如月烏有を主人公にした『夏と冬のソナタ』『痾』『木製の王子』が揃って電子化されず、後発の『あいにくの雨で』や『メルカトルと美袋のための殺人』が出版社を変えて出ているあたり、あの続きを書くつもりはないということかなあ……一時は代表作だったはずなのに、悲しい! 存在そのものが第一作のネタバレになっている『名探偵木更津悠也』も欲しいところです。

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

夏と冬の奏鳴曲(ソナタ) (講談社文庫)

痾 (講談社文庫)

痾 (講談社文庫)

木製の王子 (講談社文庫)

木製の王子 (講談社文庫)

名探偵 木更津悠也 (光文社文庫)

名探偵 木更津悠也 (光文社文庫)

今日の買い物

シン・ゴジラ音楽集』CD

シン・ゴジラ音楽集

シン・ゴジラ音楽集

 関連グッズ祭りの中で、とりあえずサントラ購入。伊福部ミュージックは最高だなあ……。

『ファイティング・マスター』DVD

 ジャッキーコレクション。無名時代の出演作。


『ドラゴンファイター』DVD

ドラゴンファイター [DVD]

ドラゴンファイター [DVD]

 ジャッキーコレクション。これらはBD化することはあるまい……。

”俺が、俺たちがX-MENだっ!”『X-MEN アポカリプス』(ネタバレ)


映画「X-MEN:アポカリプス」予告E

 『X-MEN』シリーズ、ついに完結!

 紀元前3600年、エジプトを支配していた最古のミュータント・アポカリプス。1983年、彼を崇める邪教の調査を行っていたCIAのモイラ・マクタガート捜査官は、儀式に侵入したことでその封印を解いてしまう。復活し、現代の文明を堕落した弱きものと見なしたアポカリプスは、自ら選んだ四騎士と共に世界の破壊に乗り出す。一方、新たな学園の運営に余念のないチャールズは、ジーン・グレイの見た悪夢によってアポカリプスの姿を目の当たりにし……。

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 『フューチャー&パスト』でミスティーク=レイブンによって「より良き選択」が為され、未来が変わって10年の後。舞台は80年代。すっかり立ち直ったチャールズは学校を再開。そこに集まって来るジーン・グレイにスコットたち。レイブンは傭兵として各地を回りミュータントたちを地道に助けており、エリックは名を変え家族を持ちひっそりと暮らしていた……だが、そこで起きる謎の地震……。

 エン・サバ・ヌールと呼ばれた古代のミュータントが、エジプトの砂の底から蘇ったのだ……! オープニングはその彼、アポカリプスが兵士の裏切りによって地の底に沈められるシーンから。再生能力を持つ肉体に移るための儀式の真っ最中、ピラミッドを崩壊させる仕掛けを起動させられ生き埋めに……。うーん、何だこの仕掛けは……いったい誰が何のために、わざわざ作ったものをぶっ壊す仕掛けをわざわざ作ってたのだ?

 現代になって砂の上には街が築かれ、未だCIAの一員であるローズ・バーン演ずるモイラさんが謎の教団を追ってやってくる。地の底で繰り返される謎の儀式に潜入するモイラ。開けっ放しの入り口から太陽の光が入り込み、それにピラミッドの一部が反応してアポカリプスが復活する……!
 えっ!? おまえかよ!と突っ込んじゃったね。てっきり『フューチャー&パスト』で歴史が変わった影響があるのかと思ったら、単なるうっかりが原因だった……。ドラゴンボールで言うと、ウーロンでも亀仙人でもヤムチャでもいいが、弱い奴が余計なことをしたばかりに大変なことが起きる、というパターンね。

 復活したアポカリプスおじさんが、街をウロウロしてカルチャー・ギャップを味わう、という展開がまあまあ長い。オスカー・アイザックはあまりでかくないよな、と思いつつ、黙示録の四騎士が新たに結集する。
 それと並行してレイブンとナイトクローラーの出会い、学園におけるスコットとジーンの出会いなどが描かれ……。
 登場人物と場面転換が多すぎ、さらにもういちいち説明まったくしない、完全にシリーズファン向けな作り。ジーン・グレイはすでに学園に来ていて、『ファイナル・ディシジョン』で描かれた若作りスチュアートとマッケランによる有名なスカウトシーンは描かれず……そりゃそうだよ、まだマカヴォイとファスなんだから。

 もう知ってるでしょ!?というマニアックさ任せの端折りっぷりはいいが、エリックの新たな家族のくだりが完全に新設定なのに同じぐらいあっさりしているように見えてしまったのがちょっとつらいな。
今回のエリックのキャラは『ファースト・ジェネレーション』で復讐を終え、『フューチャー&パスト』で敗北して、完全に燃え尽きてるんだよな。指名手配から逃れて隠れているだけで、もはや悪のカリスマとしての存在感はなく、仮面を脱いだフランクのようである。
 さらに新たな家族をも失い、またも復讐心に取り憑かれる……んだけど、実際のところなんだかグズグズしていて、そこをアポカリプスに付け込まれる。しかし四騎士に加わり、世界を破滅に向かわせようとしつつも、目が死んでいて鬱病演技みたいなアプローチをしているファスベンダー!
 今シリーズのエリックは『ファースト・ジェネレーション』ですでに完成されたキャラで、チャールズと表裏一体の存在なのだが、セバスチャン・ショウへの復讐は終わり、テーマ的対立がレイブンの選択によって決着がついているせいで、かなり存在意義が薄くなってしまっているのだな。そういう意味では不幸な役回りだったが、ヴィランではなくヒーローとしてのマグニートー像にかなり寄ったとも言えるね。

 その点、前作から主役化したレイブンは、ジェニファー・ローレンスのオスカー女優としての貫禄も合わせ、すっかり指導者的ポジションが板についていますな。俳優の成長とシリーズ内での立ち位置がシンクロした良い例になれた。

 アポカリプスは肉体を移動するたびに、その肉体の能力を身につけていく、という設定。最初はその移動の能力だけを持ったミュータントだったのだろうが、何回移動しているのか、今作ではいくつもの能力を披露。フィールドを張っての瞬間移動、バリアーになる高熱の力場、土を操る、ミュータントの潜在能力を引き出す、金属の装備品を作る、テレビにアクセスして過去の電波から放送を見る、そしてオープニングで身につけた再生能力(加えて不老?)などなど……。多彩だが、思いの外、自分の身を守る能力が多いのは、支配者として長く君臨することを目標としているからか。
 直接の破壊は部下の四騎士に担わせ、やたらと攻撃的な能力を揃えている。四騎士は肉体の移動の儀式の最中の無防備になる時間帯の守護も兼ねているので、特に強力でなければならない。ただ、それほど強力な忠誠関係があるかというと怪しく、強い能力を与えたという一点に依存している。
 このあたり、詰めが甘いっちゃあ甘いけど、感覚が昔の人なのね。強いものが支配し、代わりに力を与えれば、弱いものはついてくるというシンプルな支配体制で生きてきた彼には、弱くても、人と違っても、だからこそ助け合って生きていくという、現代の人権思想は決してわからないし、その間で生き抜いてきた現代のミュータントの気持ちは絶対に理解できないのだ。

 そのアポカリプスが次に狙った能力は、史上最も強力なテレパスであるチャールズであり、彼を手に入れれば、目標の世界支配が容易になる。
 チャールズがセレブロを使う→アポカリプスを探知→アポカリプス、チャールズの居場所を知る→テレポート、とまあ展開が早いな! 脳がオーバーヒートしていてあっさりさらわれるチャールズ。止めようとしたハボックだが、ビームをかわされ地下のハンクの力作のエンジンに誤爆し、屋敷丸ごと大爆発……! だが、そこに超音速で駆け込んできた男がいた……!
 あまりに前触れなく出てきたからびっくりしたぜ、クイックシルバー! 前作をよりパワーアップさせた演出で、屋敷中の生徒たちまで全員救出! すごすぎ、早すぎ。ただ、唯一爆破のすぐ側にいたハボックだけは救えなかった……。どれだけ速くても万能ではないし、時間を戻すことはできないのだ……。

 さてその頃、目のビームをグラサンで止められるようになったスコットと、ナイトクローラージーンはショッピングモールにこっそり出かけていて無事だったのだが、帰ってきて大惨事に直面。そこへストライカーたちが現れ、レイブンたちをさらっていってしまう。行った先にはウェポンXに改造されたあの男が……。
 このストライカーとウルヴァリンの下り、丸ごといらないんだよな。今回の話に全然関係ないし、単に飛行機をゲットしただけで終わってしまう……。ウルヴァリンというキャラクターが時系列でこの後の第一作に出るから、そこへのつなぎ……。前作ラストでミスティークが絡んでるのを匂わせてたのに、そこがなかったことになってるのだな。あの後、改造されちゃったけど色々あって助けました、ぐらいの台詞を入れておけば、このくだり丸ごとカットできたと思うが……。

 核ミサイルを宇宙に放り出して各国を無防備にさせた後、カイロを襲い自らのピラミッドを建造するアポカリプス。チャールズを使って世界中に宣戦布告するとともに、エリックの能力で地底の金属を揺さぶり、世界中の建造物を破壊しようとする。
 立ち向かうのは、レイブン、ハンク、スコット、ジーン、ピーター、カート、モイラ……。エンジェル、ストーム、サイロックが急襲をかけ迎え撃つ。

 ブライアン・シンガーのアクション演出は若干もっさり気味だが、抜群に見やすく位置関係も把握しやすいし、相変わらずの顔アップの切り取り方のうまさで話の流れを切らないのがいいですね。

 ここでも死んだ目で黙々と地球破壊の作業に没頭するエリック。もはやライバルキャラの面影はなしだ! そんな彼を見ていられないレイブンが説得を試み、さらに彼を父と知るピーターも駆けつける。エリックが彼のことを息子と認識しているかは明示されないし、互いに言わないのだが、二人の危機に何かしら感じるものはあるらしい。こぼれる一粒の涙……。

 クイックシルバーの超スピードも足を止められて封じられ、レイブンの不意打ちも致命傷を与えるにはいたらず。どんどん追い込まれていくメンバー。意識が繋がっているのを利用し、精神世界で反撃を試みるチャールズが、腰の入ってないパンチで殴りまくる! 自分の脳内に引き込めば勝てる!というところで思い出したのはターセム・シンの『ザ・セル』だな。ヴィンセント・ドノフリオの脳内では何もできなかったが、自分の脳内に誘い込んで反撃し、圧勝するジェニファー・ロペス
 が、そんなセオリーがあったにも関わらず、チャールズの脳内なのにお構いなしで巨大化してくるアポカリプス! だめだ、強すぎる!

 前進するアポカリプスがチャールズらに迫る……が、飛来した鉄骨がそれを遮り止め、一つのマークを形作る……決して鉤十字ではない、「X」のマークを! エリック裏切ったああ!

「違う。俺は仲間を裏切っていた」

 暗黒の未来を待たずして訪れた、かつて一つだった二人の共闘。こやつがこんなにブレブレにならなければ、こんなに事態は悪化しなかったはずだが……まあいいか!
 作中で『ジェダイの復讐』が酷評され、「シリーズ三作目なんてダメよ」みたいに言われてそりゃあ『ファイナル・ディシジョン』のことか〜!と思ったのだけど、よく考えるまでもなくこのエリックはダース・ベイダーだわな……「父さん、助けて!」とルークに言われて裏切っちゃうあの……。シンガー、本当は『ジェダイの復讐』大好きなんじゃないの……いや、そりゃあ二作目の方がダークでいい映画だけど、でも俺は『ジェダイの復讐』がやりたかったんだ! という……。同じ映画を引き合いに出して、一方で『ファイナル・ディシジョン』をぶった切りながらもう一方の『アポカリプス』ではオマージュしちゃうという、なんだこのダブスタは! ちょっと正気とは思えない。

 しかし、力を引き出されたはずのエリックの攻撃も、アポカリプスに対しては足止めにしかならない。
精神世界でチャールズを圧倒しつつ、エリックとサイクロップスの同時攻撃をものともしないアポカリプス。モイラさんが「かなわない」と改めて強調するのがいいですね。
 だがしかし、どれだけの能力を持とうとアポカリプスは一人、そしてチャールズには、仲間が、X-MENがいる!
 圧倒的に優勢なラスボスの「おまえはわたしのものだ」に対し、ボコボコにやられながらも「おまえは勝てない」と啖呵を切るチャールズの「信念の人」っぷり(あまりに劣勢なので「だが断る by 岸辺露伴」を思い出したところ)、そして立ち位置ブレブレになりながらも、その信念にいつも惹かれていたエリックが突き立てる「X」。俺たちが最も好きなことの一つは、自分で強いと思ってる奴に対して「NO」と断ってやることだっ!

 そして、かつて(かつて?)暗黒の未来『ファイナル・ディシジョン』において、スコットとチャールズを焼き滅ぼした紅蓮の炎が今また噴き上がる。ただし、今度はチャールズの伝えた希望そのものとなって。すべてを超える「不死鳥」が、真なる覚醒の時を迎える!

 アポカリプスは数々の能力を身につけてはいるが、現代にはまた新たな世代のミュータントが生まれており、チャールズとエリックの能力はかつての彼の想像を超えたものだった。そしてその二人をも超えるさらなる新世代の力の持ち主も、また生まれていた。それこそがジーン・グレイ……!

 ブライアン・シンガーって本当にX-MENが大好きで、あの『ファイナル・ディシジョン』に対してものすごい心残りを抱いてたんだな……! エリック、スコット、ストーム、ジーンと四人がかりで超必殺技を順番に叩き込んでフルボッコにするという、少年漫画の王道的見せ場でもって『ファイナル・ディシジョン』、じゃなかったアポカリプスを粉々に打ち砕き、忘却の彼方へと葬り去った。しかし嫌な後味はなく、フェニックスの炎のイメージも合わさって、あの大駄作と言われた映画さえも浄化されて天へと還って行ったようなそんな清々しさが残ったよ……。

 理屈としてはもう前作ラストで片付いていたと思うんだが、それで安心せず『ファイナル・ディシジョン』をチリになるまで殴り、あの暗黒の未来に俺のX-MENは絶対につながらせないというシンガーの静かな決意……!

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 シリーズの再構成がその見事さも含め、前作をはるかに凌ぐ「俺の俺の俺の俺の」というエゴに満ちていて、ある意味彼こそがアポカリプスのように見える。いや、もちろん本人の中では自分がX-MENなんだろうが……。
 『ファイナル・ディシジョン』が滅多打ちにされてる一方で、『ファースト・ジェネレーション』は「そのまんまやん!」と突っ込んでしまうぐらいにそのまま過去映像として使われていて、「え? 僕の映画ですけど何か?」みたいな図々しさも感じてしまう。まあそれだけ使うということはリスペクトも多分にあって、シンガーの中ではマシュー・ヴォーンもX-MENの一員なんだろうな。

 映画全体としては中盤の場面転換の多さや不要なシーンに加え、80年代の世界情勢があまり反映されていないし、世界崩壊の危機の割にはスケール感が感じられない。せっかくチャールズが世界に「弱いものを守れ」と呼びかけたんだから、各地のミュータントが街を守る展開とかあったらよかったかもね。また前2作と同じく、報道陣や各国の軍が周辺から見守る、という体裁が取れたら統一感があったように思う。
 ただまあ、前作の時点で暗黒の未来は回避されているので、世界はすでに少し「まし」になっているというのが前提なのな。ここでまた未来への絶望を匂わせても繰り返しになるし、あくまで希望を守るために戦うのだ、というのが今作の違いでもあり、今作限りのテーマとしては弱い部分でもある。
 モイラの記憶を最後に戻したのがその象徴で、あのキューバの浜辺では描けなかったミュータントの男と人間の女の未来が、この少しだけましになった世界では信じられるようになったのだ。

 学園は再建され、エリックはまた静かに去る。チャールズと彼が主役であった時代は終わり、新たな世代が動き始める。ラストのセンチネル登場シーンには、未来があの暗黒に再びつながったとしても、今度こそ本当に揃った俺のX-MENは決して負けはしない!というものすごい自信が溢れていて白目を剥きました。俺が、俺たちが、X-MENだ!
 この豪快な大団円感は、そのいくばくかの独りよがりっぷりも含め、オレの中で『ダークナイト・ライジング』、そして『ジェダイの帰還』に並んだな……。10年前、『ファイナル・ディシジョン』に対して抱いた不満と苛立ちが、まさかこんな形で昇華されることになるとは驚きだわ……。

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 映画としては前二作の完成度に及ばないが、「悲運のミュータント」ではなく「スーパーヒーロー」としてのX-MENへの回帰を意図し、アメコミらしく、というよりもむしろドラゴンボールZ劇場版のような、なんだかおかしいテンションに仕上げた快作でありました。まだ『ウルヴァリン3』もあるけど、第一作から始まった6部作がついに完結を迎えたのは非常に感慨深いな。お疲れさまシンガー、ありがとうマシュー・ヴォーン、そしてさようならブレット・ラトナー……。

X-MEN (字幕版)

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X-MEN 2 (字幕版)

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今日の買い物

レッド・ドラゴン 新・怒りの鉄拳』BD

レッド・ドラゴン 新・怒りの鉄拳 [Blu-ray]

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 ジャッキーコレクション。完全にコレクターズアイテムだな……。


『蛇鶴八拳』BD

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『笑拳』BD

クレージー・モンキー/笑拳 [Blu-ray]

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