"全てを捨てた者だけが"『ダークナイト・ライジング』(ネタバレ)


映画『ダークナイト ライジング』第3弾予告編映像

ダークナイト ライジング (字幕/吹替)

ダークナイト ライジング (字幕/吹替)

 先行上映一回目、109箕面IMAXシアターで観てきました。


 闇に落ちたトゥー・フェイス=デントの罪を引き受け、バットマンが行方をくらましてから8年の月日が流れた。だが、新たに制定されたデント法の下で平和を維持しているゴッサムに、新たな悪夢が迫る。マスクで顔を覆った巨漢ベインの指揮で、秘かにゴッサム地下水道が作り変えられる。その目的とは? 目撃したゴードンが重症を負ったことで、隠遁していたブルースは再び動き出すのだが……。


 以下、完全にネタバレしています。オチまで書いてますんで。


 さすがはIMAX! 冒頭の空撮の迫力も音響もすげえ! 飛行中にこうやって引っ掛けて吊り下げたら飛行機は実際にこうなるのか、ということはともかくとして(笑)、実機を使ったリアルさで押し切ってしまう。
 ノーランって本当に高低差の演出が好きだなあ、という印象で、前二作のエレベーターや落下シーン、言わずとしれた『インセプション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100719/1279541086)や、『プレステージ』の奈落など、人や物体が画面の中で立体的に動く気持ちよさを重視している感あり。
 オープニングはベインの顔見せということで、伏線を貼ることに終始。彼とその部下の実態も匂わされる。


 舞台はゴッサムへ。8年後ということで、前作以降の状況がざっと説明。「デント法」という法によって犯罪者は押さえつけられ、街は平和が続いているという状態。この「デント法」がいかなる物かは不明瞭だが、後のアン・ハサウェイ逮捕後の扱いなど見るに、重犯罪者は裁判前でも長期間刑務所に拘留が可能になるような物なのかな。前二作で登場したマフィアたちが今回はまったく登場しないのは、おそらくこの法でつながれているからだろうし、バットマンが飛び回らなくても良くなるぐらいだから、抑止力含めかなりの実行力を伴った強権的な物なのだろう。
 「真実」を知るゴードンは苦悩の面持ち。そして真相を知るもう一人は……。


 ブルース・ウェインは完全に引きこもっているのだね〜。てっきりチャラ男モードで遊び呆けるふりぐらいは続けているのかと思いきや、裏の顔がなくなった以上、表の顔を演ずるモチベーションも失ったということか。再登場シーン、杖をついて老け込んだ姿をさらして、私室から一歩も出ないような生活をしていることを匂わせる。メイドを装った謎の女のスマートさと機敏さに対すると、まるで老人のようだ。この辺りにはちょっとぎょっとしてしまった。8年は短い歳月ではない。人を老いさせるには十分な時間だ。『ザ・ファイター』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110331/1301579597)を思わせるやつれようで、病院に検査を受けに行って、膝も肘もボロボロで頭を打った後遺症もあることが明らかに。
 ベインの出現に、それでもバットマンとして復活することを決意するのだが、アルフレッドには引退を迫られる。バットマンになることに取り憑かれ、それに依存している。死んだレイチェルを言い訳にして、新しい人生を求めることから逃げている、と。
 ここらあたり、『ザ・ファイター』もそうなんだが、ボロボロになってるのに引退しない辰吉や桜庭のことなんかも思い出したね。周囲から見れば十分やり切ったように思えても、自身の中に燃焼し切っていない感覚があって、それは誰からも理解されることはない。アルフレッドや、ついに目にすることのなかったレイチェルの手紙に従うならば、もうやめていいのだろう。だが、しかし……。


 ゴードンが負傷し、警察が弱体化した中で、証券取引所を襲うベインとその手下。ハイウェイの暗がり、照明が翳った中に、より闇の濃い部分がある。犯人を追走する警官二人、ベテランの方だけがその正体を知っている。
 8年ぶりの復活。テレビでそれを観た者はそう感じるが、しかし観客とわずかな人間だけがそのバットスーツの下の肉体には危うさが秘められていることを知っている。バットマンはもはやかつてのバットマンではないのではないか……。だが、だからこそ、そうしたリスクを背負ってもなお立ち上がるバットマンの姿に胸打たれる。待っていたのが前作ラストの再現のような、パトカーと警察犬の追跡であったとしても……。
 ここのシーン、IMAXで観たら背景は黒、マシンも黒、乗ってる奴も黒いのに、ハンドル握ってる手がアクセルで動くのが鮮明に見えて、ちょっと感動した。


 勘の鈍り、肉体の衰え。新マシン「バット」によって脱出し、完成した地下基地も健在だが、会社は傾きフォックスも自由に動けないでいる。さらに証券取引所襲撃の真の目的によって、ブルースは破産に追い込まれる。
 まあ破産したと言っても秘密口座に隠し財産ぐらいあるだろうし、当面は困らないよね……と思ってたら、核融合炉開発の一大プロジェクトが終了危機に! ぎゃ〜! うまく使えばクリーンエネルギーだが、悪用されるととんでもないことになるのはなんでも同じ。信用できる人間に託さなければということで、モーガン・フリーマン=フォックスと、今回新登場のマリオン・コティヤール=プロジェクトに出資していたミランダに任されることに。
 ミランダがアルフレッドの去ったブルースの屋敷にくるシーンは、横からのアングルがとんでもない巨乳でびっくりさせられてしまいました。これはデカプーもなかなか振り切れないわけだよね。ブルースを満たすつかの間の安心感。だが、バットマン包囲網は確実にその輪を縮めていたのだった。


 ブルース・ウェインバットマンという存在は、その根暗な性格に対して、有り余るほどの金持ってたり、ダメ人間なのにアルフレッドたち仲間に恵まれていたりすることが、やっかみ混じりに語られがちなんだけど、今作ではその「恵まれた部分」が一枚一枚剥ぎ取られていってしまう。金もなく身体はボロボロ。ブルースが家族を持つことという夢を語ったアルフレッドは出て行ってしまい、ゴードンは倒れ、会社も失い……。ある部分は計略で、ある部分は彼自身の持つ性質ゆえに、またある部分は社会の情勢によって失われるのだが、このじわじわと追い詰められて行く感覚が半端ない。目の前でダムの亀裂から水が漏れているのだが、塞ぐ術がないような……。


 ネックレスも車も取られた怪盗キャット・ウーマンことセリーナ=アン・ハサウェイに協力を求めるブルース。この人、散々泥棒して前科だらけなんだが、いまだに安アパート借りてゴッサムに留まっている。金持ちが嫌い、と言うか、弱い者いじめが嫌いなんだな。知り合いに対しては面倒見がいい人。ガキのピンチを放っておけない人。世の中が変わらないことに諦念を抱きつつも、「今、ここ」で踏みとどまっている人。
 冒頭、観客と共にヨボヨボになってるブルースに最初に会うのが彼女なんだが、そこが大きな肝だったんだね。ブルースの「友達」に会って、嫌ってたはずの金持ちの裏の顔を知って、その正体も知ってしまい、自分でも気づいてなかったけど彼を「理解」してしまった。搾取する側の大金持ちと鼻持ちならない正義ごっこの蝙蝠野郎がイコールで結ばれた瞬間、その印象が180度変わってしまった。
 ベインに挑む彼を罠にかけ、しかし彼がフルボッコにされているところを目にした時、「放っておけない対象」に彼が入ってしまってたことに気づくのだよね。


 あらかじめ決定づけられた敗北を喫したバットマンは捕らえられ、奈落へと放り込まれる。……って、ここはどこだ……アフリカ……?(追記:インドだそうです)


 バットマン敗北と共にゴッサム包囲網も完成し、ウェイン社までが抑えられ、新会長ミランダもフォックスも捕まってしまう。ゴードンは相変わらず入院中で、残ったのは……熱血刑事ジョセフ・ゴードン・レヴィットだあああああ! いち早くバットマンの正体に当たりをつけていた彼だが、ブルースとも連絡が取れなくなり孤立無援の状態に。いや〜、この頼れる者はJGL一人っていう状況の、「いや、実質誰も頼れないってことじゃね?」という圧倒的な頼りなさ。だめだ……終わった……という感覚に拍車をかける。
 降参したミランダ他役員によって核融合炉は起動し、冒頭で連れ去られた博士によってあっさりと核爆弾に変えられてしまう。ここらへん、超適当と言うか雑と言うか「はい、できた!」「止められるのは私だけ」という台詞だけ発してあっさりとお役御免。いや〜、アクション映画の核爆弾はこうじゃないとな!
 ベインと「影の同盟」との関係も、一部不明瞭ながら明らかになっていて、ゴッサムを占拠した彼らは爆弾とリモコンを誇示しつつ、市民へ反抗を呼びかける。一見、ジョーカー的な行動のようでいて、先に出たベインの「愚民」という台詞からわかるように、これはブラフに過ぎないのだよね。デントの正体が暴露され、刑務所が開放され、アジテーションに乗せられたものは自警団となり、他の市民は事態の収束を待って息を潜めるばかり。橋は落とされトンネルは塞がれ、街からは脱出不能。警官は地下に閉じ込められ、残るはJGL……。ブルースは奈落の底で、それをテレビで見せられる。
 ここらへんの絶望状況の畳み掛けから、一気に物語が動いてくる感じ。短期的に伏線を張り矢継ぎ早に回収して勢いを持続する演出は、『メメント』にも通じる。


 JGLがゴードンを助け出したところで、やっとちょっとほっとする。おっさんのくせに怪我治るの早いよ! しかし、最初の演説で引っ込めた原稿でデントの正体を大暴露していたことが明らかになってしまう。いや〜、あの原稿のシーン、嘘まみれの空っぽな原稿を書いちゃったのに耐えられなくて引っ込めたのだとばかり思ってたけど、まさか暴露&辞職原稿であったとは。それにしてもデントさんのことをいい人だった時代の功績とかなかったように怪物扱いで悪く書きすぎで、また気の毒になってしまったね。まあ息子を殺されそうになって相当印象悪かったのだろうが……。


 ブルースもゴードンも、ここまでの戦いの中で良きことの中にも過ちを犯していて、それが結局は後から追いかけてくる。ある意味凡庸な二人が、大きな秘密を背負い仮初めの平和を維持してきたけれど、そのつけがとうとう回ってくる。警察に対する信頼は決定的に失われ、自警団や傭兵の暴力性に拍車をかける。
 さらにウェイン社から引き上げられたバットモービルが全台数、敵に回ってしまう。この前作のメカが量産されて敵に回るっていうシチュエーションは、ロボットアニメや『アイアンマン2』でもおなじみだね。


 捕まった人たちは偽裁判にかけられ、追放(氷の張った川を歩かされる)か死刑(氷の張った川を歩かされる)かを選ばされる。ここで裁判官役がまさかのスケアクロウ! おまえか! ここでおまえなのか! この前後から、前二作からのネタの拾いっぷりがエスカレートしてくる。美味しいところ持って行き過ぎのキリアン・マーフィ、サービス的な出演だったが、この街でこのスケアクロウはずーっとこうやって立ち回り続けるのではなかろうか。


 奈落の底のブルースは、今更腕立て伏せなんか始めて、唯一ラーズの子だけが脱出できたという崖登りに挑戦する。ここでサントラの「バサラバサラ! デシデシ!」の意味もわかる。別に深い意味のない「ヤンマーニ」みたいなコーラスかと思ってたわ(またわかりづらい例えを……)。意味を聞いて見ると、ははーん「イノキ、ボンバイエ!」みたいなものだったのだね。
 ベイン戦の惨敗に一時めげかけていたが、整体で背骨を治してもらい復活したブルース。マスクが弱点なのも聞いたし、再戦に意欲満々。しかしそのためには、ラーズの子であるらしきベインが登った崖を登り切らねばならない。ここで幻のリーアム・ニーソン登場。最後に立ちはだかる敵はやはり「影の同盟」だったのだ。
 死への恐怖を力に変えるために、ついに命綱を外して登るブルース。なぜ落ちるのか? 這い上がるためだ、という言葉と共に、かつて井戸で自分を助けてくれた父の手が蘇る。そして、恐怖の根源であった蝙蝠たち……。いや〜、ここでドワーッと泣けてしまったよ! 『ビギンズ』を見直したのはこの瞬間のためだったのだ!
 「死中に活」というと、漫画なんかじゃおなじみのテーゼだよね。渾身の崖ジャンプを成功させ、脱出したブルース。え〜と、で、結局ここはどこなんだ……。ゴッサムまで歩いて帰れるのか?


 ゴッサムでは反撃作戦が立案されていたが、見事に失敗しゴードンも捕まってしまう。またJGLだけかよ! その頃、どさくさ紛れで釈放されてたキャットウーマンは、ガキをいじめてる自警団気取りのバカを成敗しておった。登場する度に人を殴ってて、ソフト出たら何人殴ってるか数えてみたら面白いかもしれない。武闘派キャラだね〜。脱出も不可能な中でとどまっている彼女の前に現れたのは……ブルース! 早いよ! もう帰ってきたの?
 アフリカインドから文無しでどうやって帰ってきたのか、氷張った川をどうやって渡って街に入ったのかはまったく謎なんですが……。解釈を試みるなら、ど金持ちだから、破産はしても偽名で動かせる隠し財産ぐらいヨーロッパあたりに用意してあるのだろう。で、ウェイン邸と秘密基地のゴッサムにおける位置関係がよくわからんのだが、最後に滝に飛び込んで格納されたはずの「バット」が、いつのまにかビルの屋上に移動していたので、おそらく滝の基地はゴッサム包囲網の外にあって、夜間にこっそり無灯火ステルスモードで飛んできて街中に着陸したんではないかな。
 前回裏切られたのに、再びキャットウーマンに協力要請するブルース。と言っても、ポッドでトンネルの封鎖をこじ開けて脱出口を作ることぐらいで、あとは好きにしていいし、セリーナが欲しがっていた個人情報を抹消するソフトもあげる、という。


 起動した核爆弾は、起爆スイッチがある他に、もともと不安定で時間がきたら自動的に爆発する。その日にちも迫っている。
 市民の誰かが起爆のリモコンを持ってる、というベインの言葉をゴードンさんはあっさりと「ハッタリだ」と言うのだが、ここには当然「ジョーカーじゃあるまいし」というのが続くんだろうし、そのジョーカーでさえも自分の起爆スイッチは別に持ってたからなあ。
 JGLを助けて地下道の警官を救出、死刑判決で氷の川を渡らされそうになってたゴードンも救出! ここで導火線に火をつけて、橋の上に炎の蝙蝠が爆誕! まあなんというハッタリで、これを昼からブルースが秘かに準備していたと考えると笑えるのだが、ここはまさに『プレステージ』の奇術師の文脈につながるハッタリイズムだよね。ファンに楽しんでもらうためには、地味な下準備と仕込みが欠かせないんだよ!


 いよいよ最後の決戦だが、ここからがまさかの五面作戦。警官隊は正面から激突、ゴードンは核爆弾の起爆阻止、キャットウーマンバットポッドに乗ってトンネルを破り脱出口の確保、JGLは孤児院の子供たちと住民を橋から避難、そしてバットマンはベインを倒してミランダを救い起爆スイッチを奪うこと……。ここは『インセプション』の終盤とも被る多重バトルだが、総力戦、文字通り猫の手も借りたい戦いである感じがよく出ていたなあ。
 砲撃で脱出口を開き、あとは一直線にトンズラもできたはずのセリーナ。だけど……なんかもう放っておけなくなっちゃった! 反転して走り出すキャットウーマン。ちくしょうっ、いい奴だなおまえ! ここでまた泣けた。
 暴徒と警察の激突シーン、警官が制服で決め決めだったりして、なんじゃこりゃ警察讃美かとも思ったのだが、橋に向かったJGLと孤児院バスは止められて橋を落とされてしまう。なんという融通の効かなさと保身! ここでJGLもゴードンの言っていた矛盾に気づかされることになる。
 さて、ゴードンはちょっとは傷の痛そうなシーンぐらいあるかと思ったが、もう完全に治ってたね。こちらはダミーの三台のトラックを捕まえるのに手こずる。


 ベインと再び激突したバットマン、今回は同じ試練を乗り越えたということで精神的に余裕があり、さらに弱点のマスクをカッターで切り裂くことに成功! しかし相変わらず格闘アクションは普通の出来だなあ。一作ごとにマシにはなっているんだが、牛の歩みの如きだね……。それでもパンチ一発で柱をぶち壊すベインだが、マスクからの麻薬が切れて万事休す、ついにバットマンに追い詰められる。
 だが、ここでミランダのまさかの裏切り。崖を飛び越えたラーズ・アル・グールの子は、実は彼女、本名タリアだった。すべては最初から仕組まれていたのだ……! 演出がヒロインとしてマリオン・コティヤールよりアン・ハサウェイの方になんとなく思い入れてしまうようになっていたが、やはりそういうことであった。奈落で子供を助けていた人物の方がベインであったことも明らかに。


 そしてリーアム・ニーソンラーズ・アル・グール、まさかの私情が爆発し、『バトルシップ』と同じキャラだったことが判明!


ベイン「娘さんと結婚させてください!」

ラーズ「NOだ」

ベイン「ありがとうございま……ちょっ、お父さん、僕は娘さんの生命を救ったんですよ!?」

ラーズ「それとこれとは別。破門!」


 ごめん、『バトルシップ』よりずっとひどい奴だったね! ご大層な思想を掲げてる奴に限って、裏ではこういうせこい真似してるんだよ。みんな、気をつけようね!


 正体が割れた途端にオーラのなくなるベイン! こやつは見た目怖いだけのマッチョな傀儡に過ぎなかったのだ〜。これが演出のマジックか。ゴードンの活躍で起爆こそ寸前に阻止されたが、リミットは迫る。爆発を止めるためには爆弾を原子炉に再び戻さなければならない。
 知的なところさえも吹っ飛んだベイン、いきなりバットマンを殺そうとしてしまう! キャラ劣化しすぎだろ! その瞬間、バットポッドの砲撃を受けて吹き飛ぶ! キャットウーマン参上〜! うーむ、スケールこそ違うが、一作目で初代レイチェルにスタンガンでやられたスケアクロウ並の扱いの悪さ。ヒロインにやられるところも同じ。二番手ヴィランの結末はこんなものか……。


 爆弾を炉に戻そうとチェイスが繰り広げられ、バットモービルバットポッド、空飛ぶバットの総力戦が展開。ここでのバットの飛ぶシーンは気持ちが良かったね〜。


 やっとたどり着いたと思ったのも束の間、炉の安全装置はすでにぶち壊されており、地下施設は水が流れ込んでアウト。「ふはははは、我々の勝ちだ……ガクッ」とお亡くなりになったマリオン、超うぜえ〜!
 爆弾をバットにつなぐバットマン。そう、これまで伏線で連呼してきましたが……自動操縦はないのだ! それなのに、それなのにおまえは行くのかああああ! 時間は迫ってるけど、キスは忘れないぜ!


 えーっと、実を言いますとJGLでさえブルースを勘ぐってたぐらいだから、ゴードンもバットマンの正体にはとっくに気づいてるものとばっかり思ってたんですよ。一応、念押しで聞いてみたぐらいに思っていた……。でもめっちゃ驚いてたね! 
 泣いた。ブルース・ウェインに取って、一番辛かった時に優しい言葉をかけてくれた刑事さんこそがヒーローで、ゴードンがいたからこそ今まで戦ってこれた。今まで黙っていたけど、やっとそれを告げることができた。ゴードンがいたからこそ今の自分があり、そしてゴッサムは救われるのだ、と……!
 橋の上で、絶望へのタイムリミットが迫る中、子供たちをバスに避難させるJGL。突如、ビル街で起きる爆発。間に合わなかったか、と思った瞬間、子供の一人が叫ぶ。


バットマンだ!」


 え〜、ここでまた泣けた。四回目。今作、実は相当殺伐とした話で、本当ならもっといくらでも暴力的に描けたはずなんだけど、そうせずに年齢制限もつけなかったのは、きっとノーランがこのシーンを子供に観てほしかったからだと思うよ。本編もわかりやすく噛み砕いて、誰にでもわかるように描いている。一刑事が孤児になった少年のヒーローになったように、バットマンは孤児院の子供たちのヒーローとなった。誰だってヒーローになれるし、そのことを伝えて行くことができる。


 ノーランってインテリだから、多分、近い将来、世の中が良くなるなんて信じていないと思う。『ダークナイト』においてスイッチを押さなかった民衆は、今作では登場しないが、ああした非行動ならばともかく、今作のような巨大な暴力に対して民衆が立ち上がるなんてことを描くのは、おそらく気恥ずかしくてできないだろう。名誉は回復され、銅像は建ったけど、果たして人々はバットマンに対して何を思うのか? そんなひどく悪く言われるとは思わないけど、手放しの賛辞でもきっとないだろう。
 この世界において、法と警察も信用のおけるものではないし、未来エネルギーは必ず悪用される。アジテーションに踊らされた革命ごっこは何も生まず、まして破壊と大量殺戮など愚の骨頂。ではどうするのか、と問われて、示せる回答は、自分一人でも出来ることを小さくともこつこつとやり続けること、信念を持って戦い続けることであるという、ある意味素朴なものしかなかったのではなかろうか。タリアとベインが倒れてもおそらく「影の同盟」が滅ぶことはないのと同様、ヒーローにも必ず後に続く者が現れる。人はそうして愛も憎しみも受け継いで生きているのだから。


 遥か水平線の彼方にきのこ雲が昇る。ゴッサムは、また辛うじて生きながらえた。大きな犠牲を払いながら……。後半全然登場しなかったアルフレッドだが、迎えたくなかった葬儀を迎えることに。三人だけの寂しい葬儀。財産は処分され、家は両親の名を冠した孤児院になる。
 しかし……実はバットマンは……最後にバットに乗る寸前、小さな声で「アブラカダブラ」と唱えていたのである……! いや〜、やっぱり『プレステージ』は欠かせないんですよ!


 途中、アルフレッドの描いた夢が、その時のブルースを思えば、ほんとに絵空事としか思えなかったのだよね。でも、それがこうして本当になってしまった。ラストシーンはちょっと『インセプション』のようなひねりを勘ぐってしまうが、想像では男性が手前で最初は顔が見えなかったのに、このシーンでは向こう側にブルースがいる。深読みする必要はないだろう。
 『インセプション』のラストのやり切った感もそうなのだが、ノーランは個人の達成感をすごく大事にしている。『メメント』や『プレステージ』も逆の意味でそうだ。戦いが終わっても世の中は良くならないし、多くの問題も解決されずに残る。でも、個人が小さな幸せを手に入れてもいいし、休息もあっていい。全てを捨てて戦った者だけが、最後に全てを得る資格を持つ、というテーゼを思い出したよ。破産したし、身体はヨレヨレだし、歳も取って、バットマンやめたらただのおっさんだけどさあ……でもそうやって頑張った男を好きになる女がいたってええやんか! まさに王道のラスト。
 アメコミフォロワーである『るろうに剣心』のラストを思い出したが、あれでも象徴たる逆刃刀は弟子に受け継がれ、主人公は引退の道を選ぶ。そのラストの言葉を贈りたい。ブルース・ウェイン、本当にお疲れさま。


 さてさてその弟子たるJGLの本名が明らかになり、正義の味方稼業は彼が継ぐようなのだが……。うーむ、調子に乗ってると、どうもこういうことになるような気がするね。

http://billyfiles.blogspot.jp/2012/07/photo_8612.html

 前途は多難である。そして傷心のJGLは、ゴッサムに新しくオープンしたコミック屋に行ってバットマンのコミックを読んで初心に帰ろうとするのだが、そこでコミック屋の女店員に正体がバレてしまい、彼女も混ぜないといけなくなると思うよ。後のバット・ガールである。


 足掛け7年、やっと完結したけれど、まあ色々と楽しませてもらったシリーズであった。こんなビッグバジェットで沢山のファンに支持されて好き放題作れるって、今後もこんなシリーズがそうそう生まれるとも思わない。色んな意味で、今後も歴史に残るシリーズだったろう。ノーラン組の皆さん、お疲れさまでした! また次回作楽しみにしてますよ!

インセプション [Blu-ray]

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