”悲しき過去、絶望の未来”『X-MEN フューチャー&パスト』


 ブライアン・シンガーが帰ってきた!


 西暦2023年、生体と機械を融合させた進化する究極の兵器センチネルにより、ミュータントとそれに味方する人類は壊滅の危機に瀕していた。勝ち目のない戦いを続けるウルヴァリンX-MENたちだが、プロフェッサーはマグニートーと共に全てを引っくり返す秘策を練っていた。それは、過去を変えること……! 1973年、センチネル誕生の年にウルヴァリンの魂を送り込み、この最悪の戦争の端緒となった一つの殺人を阻止することだった。


 好評を博した『ファースト・ジェネレーション』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110612/1307871121)でしたが、マシュー・ヴォーンが監督から降りてシンガーがシリーズに復帰。『2』以来ということですが、もちろん『ファースト・ジェネレーション』の続編であると共に、前シリーズの自作二本と不評だった『ファイナル・デシジョン』までも包括した映画になる、ということ。果たして、過去と未来の時間軸を同時進行させる物語が発表され、どうなんだこれ、まとめられるのか、と少々不安視……。


 そんな心配をよそに、



 ふふふふふ、今までご苦労だったな、ラトナー君にヴォーン君。いま、シリーズは私のもとに帰ったのだ! というブライアン・シンガー監督のドヤ顔が見える映画になっておりましたよ!


 舞台はかの『ウルヴァリン:SAMURAI』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130927/1380280152)から十年後、復活したプロフェッサーXと能力を取り戻したマグニートーの元に、わずかながら生き残ったミュータントの面々が揃っている状況から。もうX-MENブラザーフッドもなく、共同で強大な敵に相対している。センチネルという、無限に再生しミュータントの能力を取り込んでいく怪物と……。
 まあこのセンチネルが鬼のように強く、攻撃力、防御力、学習能力に加え、頭数まで揃っているという、ドラゴンボール的に言うとメタルクウラ的怪物。こういうのを倒すセオリーは、コントロールしている頭脳や生産工場を潰すということになるのだろうが、この十年の間にそういう目論見はすでに失敗したのか、都合良く一箇所潰せばいいようには出来てないのか、もはや世界のどこからどんな人間が操っているのかもわからない状態。
 未来世界は常に闇夜のスラム状態と化し、残っている面子はそれなりに強力な戦闘力の持ち主ながら、裏を返せばそういうメンバーしか生き残れないほどに過酷な状況なわけで。そんな絶望の中に、十年の時を経て成長したキティ・ブライドもいた……出たっ、エレン・ペイジだ! 先日、自らをレズビアンであるとカミングアウトした彼女ですが、前作『ザ・イースト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140206/1391604775)の役柄に引き続き、やはり彼女は永遠のレジスタンス、反逆者なのであるな。過去を改変する彼女の新能力で辛うじて生き残ってきたメンバーは、長期間の時間遡行に耐えられるウルヴァリンをセンチネルが生まれた過去に送り込み、未来を変えようとするのであった。


 まあ差別と格差の行き着くところまで行った世界、ということなのだろうが、こういう暗い目のテイストはブライアン・シンガーもお手の物という感じで、相変わらずの真面目な演出がじわじわ効いてきますよ。その反面、クイックシルバーの活躍シーンなど、らしくなく軽妙な演出も飛び出して楽しませてくれます。
 過去編に進んでも(戻っても?)、『ファースト・ジェネレーション』から十年が経ってベトナム戦争の泥沼がようやく終わろうとしていた時代ということで、そこもまたある意味絶望だらけの世界なのだな。現在を軸にすると差別や偏見はよりひどいわけだし、古き良き過去などではまったくない。『チョコレートドーナツ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140525/1401018063)など見ればわかるわけだが、ゲイや難病を抱えた人を、それこそ絶望させるだけの仕掛けや偏見がこの世界には溢れかえっていて、ミュータントたちも常にそれにさらされている。ただ生きているだけで孤独が忍び寄り、言われなき差別への対し方を違えただけで、連帯は失われ断絶させられていく。同じ痛みを負う者としてかつては手を取り合ったチャールズも、エリックも、レイヴンもまた……。
 後のプロフェッサーやマグニートーの若き日として登場したチャールズとエリックが、前作では将来確かにあそこにつながるであろう賢さや強さを示したのに対し、今作ではやはりそこにつながるであろう弱さや愚かさを見せ、それでもそれを乗り越えて進む姿を描く。『ファースト・ジェネレーション』のキャラ描写を下敷きにして、一歩進めた深みを見せる役者陣と演出陣のコラボレーション。また、アカデミー主演女優賞を獲得したジェニファー・ローレンスもまた、物語の鍵を握るキャラとしてより深いところへとキャラクターを進化させる。


 今作を見る前に、過去作を見直しておいた方がいいと聞いていて、まああまり関係なかろうが気分を出すために見ておくか、ということで『X-MEN』一作目を観た。そこで描かれたのは、プロフェッサーと出会うやさぐれていた頃のウルヴァリンの姿で……


「俺が一番ダメな生徒だった。でも、あんたが導いてくれたんだ!」


 と伝えるところで号泣! このシーン、ウルヴァリンは歳を取ってないという設定なんだが、役者ヒュー・ジャックマンはそれなりに老け込んでいる。が、それを逆手に取って、一作目から幾多の事件を経ての人間的成長が見えるようになっているから素晴らしいよ。それは未来編のキティにしろアイスマンにしろストームにしろ同じことなのだよね。


 そんな感じで、シリーズを見返せば見返すほど感動する作り。特にあの惨憺たる代物だった『ファイナル・デシジョン』も、今作の未来編と同じく「間違った未来」として位置付けて見ればより深みが増すのである。
 『ファースト・ジェネレーション』でも、今回で殺されたと明白にされたバンシィの活躍を改めて見てると泣ける。エリックが、訓練で彼を「手伝ってやるよ」と突き落とすシーンのじゃれ合い感を見ておくと、今作で飛行機の中で怒りをあらわにするシーンがまた切ないのだ。テレポートする人や全身ダイヤの人まで殺されたのだから、よほど激しい戦いか、相当に卑劣な手を使われたか……。出番少なかったけど、ファボックは生きてて良かったなあ。
 この『ファースト・ジェネレーション』後の十年や、『SAMURAI』後の十年も観たかった。特に暗黒の未来は、『クラウド・アトラス』の韓国編ぐらいの尺を取っても良かったんじゃないか。もちろん、ちらっと匂わす程度に留めた方が想像力を喚起させるわけだが。
 アンナ・パキンのローグはきっとアイスマンの目の前で惨殺されたんだろうなあ、とか、パイロ君(生きてたっけ?)もきっと壮絶に戦って散ったのだろうなあ、とか、考えれば考えるほど出てくるのだよね。『SAMURAI』のマリコさんなんかも、ウルヴァリンとセックスしたせいで殺されてるよね。あれも伏線だったのか!(違)


 そんな絶望に満ちた世界で、それでも希望を示したかったプロフェッサーまでもが、70年代にはやさぐれてヤク中になり、レイヴンに道を示せないでいた。老いたプロフェッサーがそれを悔いる気持ちと、絶望の未来を知ったチャールズがそうはさせまいと立ち上がる(絵的には座る)展開の王道っぷりと、前作から続くエリックとレイヴンの三者の関係を収束させたまとめ方も素晴らしかったですよ。
 こうしてまとめつつ、過去と未来双方で同時にラストバトルを展開して映像的にも徹底的に盛り上げるのだからたまらんですよ。で、まだまだそれでは終わらず、シリーズファンに報いるラストが……。もうこれには号泣するしかあるまいて。


 豪快かつ丁寧にまとめたまさに完結編にふさわしい代物で、シリーズの頭から関わったブライアン・シンガーならではの映画でありましたね。
 さて、これでおそらく旧シリーズは完結ということになるのだろうが、次は舞台を80年代に移して『アポカリプス』へと続きます! その続編はシンガーがやるのかはまだ謎ですね。最近、訴えられたこともありますし……(http://eiga.com/news/20140508/13/)。


マシュー・ヴォーン「シンガーさん! その訴状は……!?」
シンガー「ふふふ、見られてしまったか。そう、だからこそどうしても、今のうちに『X-MEN』を救いたかったのさ。児童虐待の容疑でパクられる前にね……!」
ヴォーン「あんたって人は……!(ブワッ)」