『燃えよデブゴン TOKYO MISSION』エキストラ体験記

 さる2018年1月30日、東京は豊洲近くの港にて、谷垣健治監督、ドニー・イェン主演作『Enter of the Fat Dragon』のエキストラに参加してきました。
 長らく日本公開を待っていましたが、コロナ禍の最中の本国公開を経て、2021年1月1日(金)、TOHOシネマズ他で全国一斉公開されます。


映画『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』予告編

 自分のドニー・イェンのファン歴も20年ぐらいになるのかな……。『COOL』公開時にも来日されていて、友人に誘われていたのだが、あいにく忙しくて東京まで行けなかったのだった。時は流れSNS時代、プライベートで京都を旅行していたり、新宿でラーメンを食べてたり、堺市でテレビ番組の撮影をしていたり、ちょいちょい日本にも来ているドニーさん。こりゃあそのうち会う機会も訪れるんじゃないかな、と思っていましたが、意外な機会がやってきました。

 Twitterでは早々とボランティアの募集がかけられていて、特に在住場所などの制限はなかったため、大阪住まいの小生でも簡単に登録できました。最低一泊はしないといかんだろうし、仕事の都合で多分無理だろうと思っていましたが、この30日はぽっかりと予定が空いたため、酔った勢いで写真を送ったところ、即採用。

 前日に東京入りし、別日に参加予定であるドニー・イェンファンの同志とらねこ(https://twitter.com/chatoraneko)氏とタイ料理屋で決起集会。大飯を食らい、意気軒昂と現地に。出来立てのホテルで一泊し、翌朝、メールに従って撮影場所を目指します。

 募集要項では、刑事、警官、救急隊員、鑑識官、野次馬役のどれか現地で割り振りとのことで、一応、刑事役になっても大丈夫なようにスーツで行きましたが、割り当ては鑑識官でした。刑事役は僕より年配の人が中心だったようで、まあ、わしは貫禄がないけんのう……。

 衣装の制服を受け取り、鑑識官に成り切ります。青の上下に「鑑識」の腕章を巻き、髪が落ちないようネットをかぶってさらに帽子、マスクに手袋、ゴム靴……。おやおや、これでは全く顔が映らないではないですか。

 撮影場所は港の浮橋の上。朝8時集合ということで、めちゃめちゃ寒い! ヒートテック着用でなんとか凌げるか……? 港に登場人物の水死体が上がり、警察が周辺を取り調べ中という設定のようです。鑑識官は7人いましたが、海をさらう係、メジャーで距離を測る係など割り振られる中、僕はボードに見取り図を描く係に……。これはちょっと目立つかもしれないな。
 午前中はドローンで遠景の撮影がされる中、エキストラも演技がつけられます。死体(人形)周辺を歩きまわりつつ記録をつけ、救急隊員と話し合ったり、メジャーで測定された距離をまた記録したりする小芝居を何度も繰り返します。実際のところ、エキストラはこの同じ芝居を繰り返すだけで、それを遠景だったり役者越しに撮ったりして、編集しつなぎ合わせるのでしょうね。

 さて、この早朝から日本と中国のスタッフがすでにごちゃ混ぜで参加しており、谷垣健治監督も早々と登場。ケンジ〜! ケンジ〜! しかし、ドニーさんはまだいません。延々と寒空の下でドローンに撮影されていると、もしかして今日はこれで終わるんじゃないか。俳優はこない日なんじゃないかと心配になってきます。いや、スタッフの方に聞いてみたら教えてくれたかもしれないんですが、「こいつ、変なことするかもしれない狂信的ファンかも……」と目をつけられても嫌だしなあ……。
 10時過ぎ、女優さんがきて現場に参加。「マギー」と呼ばれてましたが、マギー・チャンでもマギーQでもなかった。観た事ない人だと思うが……? さらにスタントの人が衣装を着て「竹中さん」のダブルとして浮橋に。えっ、共演は竹中直人なの? 『マンハント』にも出てるよな。これは知らなかったわ。

 だいたい1カットを4テイクぐらい撮ったらOKが出るぐらいのペースで、遠景撮影が終わった後は「ドニーが乗ってくる車」が到着するカットの撮影。多分、ほとんど映ってないけど、ここでも同じ芝居をするエキストラ。
 撮影中は寒かったですが、5分以上間が開く時は必ずスタッフの人がそれぞれのコートを持ってきてくれたので助かりました。さすがはスタントの安全管理も徹底していると言われるドニー・谷垣組だよ……! そして、「ドニーの車」を撮った以上、当然、この後はドニーさんもくるということになるぞ、と期待が高まります。そうでなくては困るぜ……。

 国際的現場ということで、カルチャー・ギャップをどう埋めているのかも気になりますが、割ともう呼吸がわかっているのか、なあなあと言うか、日本人スタッフが並べた小道具を、中国人スタッフが別のに並び替えてしまい、「えっ? これ、替えちゃったの? ……まあいいか、こっちでもいいし」とスルーする……みたいな状況も散見。慣れかな……。

 11時を回り、ここで一旦昼食。昼は弁当、お茶、コンロで温めたスープ。これがロケ弁か……。ところで、朝は「朝食を済ませてくること」とメールに書いてあったのでおにぎりを食べて来たんですが、現場着いてすぐやっぱりおにぎりの朝食が出たので、これは置いてあったのでした。結局、この昼に朝食のおにぎりとロケ弁の二食を食すことに……。スープをもらおうとしたら、コンロの火が弁当のダンボールに燃え移り、危うく火事になるところだったのが本日のハイライト。食べてウロウロしてたら、スタッフの会話で「あっちのチーム、もうホテルを出たから」というのが聞こえる。では、ついに……?


 午後、待望のドニー・イェン登場! 正直、実際来るまではめっちゃ心配してましたが、ほっとした。まあこの人は多分コントロール・フリークっぽいところがあるだろうし、なんだかんだで現場には来るだろうと思っていたが……。
 ああ……良かった……東京まできた甲斐があったぜ……これでもう悔いはない……あとはほんの一瞬でもいいから映画に映ってたらそれでいい……できればドニーさんと同じカットに収まれたらもう思い残すことはない……アクションシーンならなおいいな……と、どんどん願望が膨らんでいきますよ。
 ところで今回のドニーさんは「デブゴン」役なので、当然ながら……太いな……。顔は特殊メイクでめちゃめちゃ頰の肉付きがよくなり、肉襦袢を着込んで下半身にも詰め物を入れています。この姿のドニーさんを見れるのは相当レアだと思いつつ、いつか普通の姿の時にも会いたいな、と思ったのでした。
 ちなみにスタントの人が全く同じ衣装でスタンバッてましたが、この日は出番なし。しかしこちらは本当に太った人のようだった。

 現場はほぼドニー・谷垣組ということで、ドニーさんもわりとしれっと気がついたら来ていた、という感じでしたね。一時間ほど後に竹中直人氏が来た時は「撮影に参加される竹中直人さんです」とその場で紹介があり、そこで拍手したんですが、もうドニーさんはチーム内の人なんだなあ。谷垣さんが「ドニー」、スタッフの人は「ドニーさんがこう歩いて来るので……」とか、さんづけで呼んでいた印象。

 この日はどうやらアクションシーンはなさそうで、ドニーさんも特にキレキレの動きを披露することなく、桟橋と浮橋の間もよっこいしょという感じでまたいでましたね。

 撮影はこの後も順調に進み、打ち上げられた死体をドニーさんが桟橋の向こうからカメラで撮影するシーン、死体のアップ、そこから走って来て竹中直人刑事とコミカルな掛け合いをするシーンなどが続きました。ドニーさんがカメラ構えてるシーンでは、野次馬役の人がすぐ隣で同じショットに収まってて、あれはなかなか美味しいな……。ここも3テイクほど撮ったけれど、ちょっとずつ違うセリフやポーズをドニーさんがしてて、さあどのパターンが採用されるのか楽しみだ。

 その後でドニーさんがこちらに走って来て死体の側に来るシーン、ここが本日の目玉ですね。ここで後ろをウロウロしている鑑識官の本領発揮ですよ。
 やはりガチガチの台本はないのか、竹中直人氏も入念にセリフを繰り返してリハーサル。死体が海にあった時間を六時間と言ってたり七時間と言ってたりしましたが、細かい内容はもう適当でいいらしい。竹中直人が日本語でしゃべったのを、マギーさんが中国語に通訳し、ドニーさんが返す、という流れ。ただ、通訳するマギーさんは実は全然日本語ができないので、撮影ではウンウンとうなずいたり耳打ちして誤魔化しています。なかなか呼吸が合わないのか、竹中氏も合間に「君が日本語出来たら簡単だったのになあ〜」と冗談めかして言っていました。

 これはちょっと長く回したシーンで、今までやってきた鑑識官小芝居の集大成でしたね。多分、最終的にはいくつかに割るんだろうけど、『七小福』の先生の「カットまで続けろ」という教えを胸に集中力を切らさないように頑張りました。ドニーさんと竹中氏が言い争ってる後ろを、多分何回かは横切ってるはずだが、映ってるかな……?

 ドニーさんは自分が来て以降は、ワンカットが終わったら必ずビデオを見て、谷垣監督と共にOKを出さないと次には進みません。このチームはこういう体制なんだな。暑くなってきたようで、ドニーさんは合間にダウンを脱ぎ捨ててタンクトップ姿に……! まあ肉襦袢着てるから筋肉は拝めなかったけど。その格好で歩き回り、谷垣監督と細かい打ち合わせ。その後ろ、特殊メイクの継ぎ目が見える30センチの距離まで接近し、いかにも話に混じっているかのようにウンウンとうなずいていた鑑識官の衣装を着たエキストラは、他ならぬワタクシです。ああ……このシーン、メイキングとかに入ってないかな……。
 しかしこの日はマスクしていて良かった。いくらでもニヤニヤできたもんな……。

 昼間のシーンだから、日没までには終わる、という話でしたが、11~3時までは日も照って暖かかったけれど、まあやっぱりラスト2時間半は冷え切ってて寒かった。
 薄暗くなってきてほぼ終了でスタッフも片付けに入りかけてましたが、ドニーさんが納得いかないらしく急遽もうワンカット。同じシーンで役者の足元だけを撮ります。ここでカメラ前を横切った鑑識官の足もオレだ!
 なるほど、これが谷垣さんが本に書いてた「いかようにも使えるカットをつなぎに撮っておく」という奴なのかもね。

 こうして9時間半かけた撮影は無事に終わりました。エキストラ班も衣装を返し、また弁当をもらって解散。もちろんノーギャラですが、三食出たし記念品ももらえたし、食い詰めた役者がとりあえず三食食えるからということで方々のエキストラに参加する、というのはこういうことなのだな……。

 最初に来ていた撮影スタッフに加え、マギーさん付き、ドニーさん付き、竹中さん付きのスタッフやマネージャーも続々と加わって、さらに我々エキストラもぞろぞろといるので現場はすごい人出だったのだが、これだけ人が集まって1日潰してできるのは、多分映画の中では3分ぐらいなんだよな。本当に映画って、手間ばかりかかって割に合わないなあ……これはよっぽど好きじゃないと出来ないですよ。オレはやっぱり観るだけで好き勝手なこと言ってる方がいいな……。

 記念品としてくれたトートバッグ。

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コロナ禍に威力を発揮するお役立ち品

 その日のうちに新幹線に飛び乗り、ロケ弁当を食べながら帰路についたのでありました。
 エキストラの仕切りやってたスタッフの人も感じ良かったし、いい現場だったなあ……。丸一日貴重な体験ができた……。さあ、あとはどれだけ映画に映ってるかだな。もちろん、シーンごとカットという可能性もありますが!

 さあみんな、ドニー・イェン映画を観よう!


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