布施東劇の思い出
昔々、布施東劇という映画館がありまして、もう二十年ぐらい前に閉館しました。最後の三年ほど、まあラインナップ的にもほんとうに暇だったせいか、もう人手など割かずにぎりぎりで回しておけばいいや、という時期がありまして、要はモギリに一人、映写と電話番に一人置いておけばそれでいいや、ということになっていた。
……で、そこで朝から夕方、あるいは昼から夜までずーっと入ってたのが……オレだああああ! まだ社員になる前だったけど、さぼらないし悪いことしないし、とりあえず一人でやらしといても安心だ、ということで便利に放置されていた。若くして「東劇の主(ぬし)」と呼ばれ、時々映写機を回しに行きながら、あとはずーっとミステリとかホラー小説とか読んでいたな。
その後、そこが潰れて別の劇場に移って、まあそれ以降はまずまず忙しくなったわけだが、あの東劇でずーっと本読んでた時期は二十二年の映画館で働いてた時期の、半分ぐらいを占めていたような気がする。実際は三年ぐらいだったわけだけど、僕の原点ですな。
まあ一人でやってたせいで、ここにはとても書けないような様々な映写トラブルなんかもあり、まったくもってあいすみません、バイトを一人で放置した会社が悪いんですよ、と責任逃れを決め込んでしまったりするのであった。しかしまあ、一人で勝手にやってあちこちいじってたあの時代、誰も助けに来ないから自分でなんとかしてたあの時代があったからこそ、後の社員時代の大活躍もあるわけである。
さてまあ月日も流れ、四十代になった今、新しい仕事をするべえ、と色々探していたが、コロナショックのせいかまともな求人もなく、三ヶ月ほどブラブラ過ごす羽目になった。まあ他に収入もあるし、一応ギリギリやっていけるな……とは思っていたが、今月よりやっと新しい仕事も決定。何をしているかというと……留守番! 電話番!
うーん、そして誰も来ない……これでは東劇と変わらんではないか。ある意味、原点回帰であるなあ、と思う。変に不真面目な大学生とか雇うより、それなりに常識、社会人経験のある人間を採用して無難にやってもらおう、ということらしい。まあまあ全くその通りですね。謹んで、暇させていただきます……。
しかし、二十年前と同じようなことを改めてやってみて、大きく変わったのは、全然落ち着きが違うなあ、ということ。昔は本、今ならスマホか、何かないと時間を過ごせなかったものだが、今はただぼーっと座ってるだけでも、それなりに時間が経って、まったく平気である。これが加齢か……。この調子で老人になったら、もっと何時間も座ってても平気になるんだろうな。認知症にならんように気をつけないとな。
さあ、この平和さが後の大活躍の端緒となるのか? どうもそんな気はまったくしないけど、とりあえず留守居役のスペシャリストを目指して頑張りたいと思います。