”僕らが笑う日”『百日告別』


映画『百日告別』予告編

 トム・リン監督作!

 交通事故により妻と生まれる前の子供を失ったユーウェイ。同じ事故で婚約者を亡くしたシンミン。合同葬儀で出会った二人は、それぞれ悲しみを抱えながら人生をやり直す道を探し続ける。

 えー、結局『星空』は公開されないままだな……(最近、原作の絵本が邦訳されました)。トム・リン監督、今度はパートナーを亡くした男女それぞれを描いた、「大人」の映画を撮ってきました。監督ご本人も死別を経験したそうで、その実体験に基づく話であり、『星空』で少女の通過儀礼的な「旅」を描いたのと同様、今作はパートナーの死を受け入れるまでの儀式としての「旅」を描く。

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 妻を亡くした男は、台湾の人気バンド「五月天」のストーンさんが演じる。いや、同じ「五月天」でも『逆転勝ち』で見たモンスターはイケメンだな、と思ったのだが、この人はめちゃ普通のルックスで、逆に言うと地味な役者に見える。日頃渋い脇役な人が、急に大抜擢されたような……?
 婚約者を亡くした女はカリーナ・ラム。この人は初めて見たな。双方、同じ交通事故でパートナーを亡くしているので、もっと密接に絡むのかと思いきや、合同の法要で幾度か顔を合わせる程度で、それぞれの過程を歩んで行く。時々顔を合わせるそのシーンが、言わば「中間報告」になっていて、先の邂逅からの変化を自然に見せていく。

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 この百日間に渡って告別の儀式を段階的に行う、というのは台湾の風習で、それを順を追って描くことでやり切れない気持ちしかない最初の頃から、ようやっと笑えるようになる後半までを丁寧に描く。意表をつくような展開は一切ないし、非常に淡々としているが、そこが良い。

 挿入されるエピソード群も一つ一つは小さく地味なことで、中には「過ち」と呼べるようなことも多い。妻のピアノ教室の生徒を怒鳴って追い払ったり、会社の同僚と一夜の情事したり、ストーンさんのキレっぷりはちょっと怖いのである。だがそれもまた悲しみを乗り越えていく過程なのだな……。

 ストーンさんが自宅のベランダで聴く練習曲は、自分も家でよく聴いていたもので、そういった小道具レベルでの共感を覚えることで、ぐっと作品世界に入り込んでしまう。さらにカリーナ・ラムの方は、婚約者と計画していた新婚旅行を一人で強行する……のだけれど、、これが沖縄! 監督自身は富良野などを回ったそうだが、日本人的にはまたこれでぐいっと身近に感じられる。
 曇天だった那覇の空が少しずつ晴れ間を見せ、ソーキそばを食べた時に久しぶりの笑顔がこぼれる……。夜のホテルのシーンは涙無くして見られないがな!

 クライマックス的に、自殺未遂シーンなどもあったりするが、そこもまた淡々とした描写で、全てにおいて寄り添い見守るような作り手の目線が感じられる。立ち止まることも過ちも、また生き直すためには必要なことなのだ……。

 小規模公開で、ひさびさにシネ・ヌーヴォに行ったけど良い映画でありました。

星空 The Starry Starry Night

星空 The Starry Starry Night