"されど少女はゆく"『星空』


 大阪アジアン映画祭2012(http://www.oaff.jp/)で鑑賞、五本目!


 両親の離婚の危機を迎えた少女は、寂しさをつのらせ、大好きなおじいちゃんの家に行こうとするが、結局家に戻ってしまう。ある日、隣の家に転校生がやってきた。同級生に目を付けられいじめられていた彼を助けた事から次第に仲良くなる二人。そんな時、祖父が倒れたとの知らせが入る……。


 個人的にはこの映画祭、前日の『高海抜の恋』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120321/1332344243)と、この後のクロージングの『捜査官X』が目玉と思っていて、今作に関しては「つなぎ」程度にしか捉えていなかった。まあ『ミラクル7号』の子が出てるのが気になるし、一応観ておくか〜、でも絵本の映画化ねえ〜、子供向けじゃないの〜?と鼻をほじりながら言ってるようなぬる〜いテンション。
 だが、しかし、ここに思わぬ伏兵が潜んでいたのである!


 主演はご存知『ミラクル7号』でチャウ・シンチーの息子役を演じた女の子。さていかなる成長を遂げているかに注目していたが……すごい……育ってる……。顔こそ同じなんだけれど、作中の13歳という設定とほぼ同じ実年齢、髪も伸ばして、ちゃんと女の子役。しかも手足が超長え! 途中にダンスのシーンがあるんだが、あまりに映えるのでびっくりしたわ。ものすごく雰囲気のある子になっていた。


 原作は絵本、児童文学。両親の離婚が迫ったことにより居場所を失う危機を迎えた少女が、自分の進むべき道を探すというのが大まかな骨子。転校生の登場や大好きだったおじいちゃんとの別れを経て、独り立ちのイニシエーションを経験する。これだけだと良くある話なんだが、細部に冴え渡るセンスが素晴らしい。オープニングの幻の雪と涙のシーンから始まり、恐竜の影、おじいさんの作ってくれた象、折り紙の動物たちのシーンなど、CGを多用し底抜けにファンタジックなのだが、すべてその瞬間の少女の心情と密接にリンクしている。ここは『ミラクル7号』にもちょっと似ていたな〜。


 少女と転校生、13歳の子供ということだが、その子供自体の視点を取りつつも、我々大人から見た彼女らのままならなさが良く描かれている。時に素直で、時にわがままで、何も出来なくなったり、しなくなったり、逆にすごい行動力を発揮したり……。『未来を生きる君たちへ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110917/1316257899)や『水曜日のエミリア』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110708/1310031953)でも感じたことだが、彼女らは大人とはちょっと違う世界にいてまだ完成されていない独自の行動原理があって、思う通りにはなってくれない。親が離婚したり、何度も引っ越したり、それは大人、あるいは親本人の都合であり、子供は口を差し挟めない。けれども13歳ともなると、その意味するところや本人への影響も多くの意味で通じてしまっていて、色々な行動を取ってくる。それに対し親は、わかってほしい、おとなしくしておいてほしい、いい子にしておいてほしいと願う。……だけど離婚や引越しが大人の都合に過ぎないのと同じく、それもまた大人の勝手な願望に過ぎない。


 時に悪いことや間違ったことも重ねながら、それでも少女はゆくのだ。いじめっ子に立ち向かい、家を飛び出してお祖父ちゃんの家を目指す。誰にも止めることはできない。主演ジョシー・シューの表情も演技も素晴らしく、大人から見たままならなさと等号の、輝かんばかりの意思の光が煌めいている。パズルのピースが見つからずにおもちゃ箱をぶちまけるシーンが白眉。
 転校生の役の男の子もいいね。ワルじゃないんだが適当にひねた感じと、真面目さと図々しさの絶妙なまでのアンバランスさが素晴らしい。
 大人に都合のいい子供像を排しているが、決して大人に厳しいわけでもない。離婚する両親が断罪されるわけでもない。彼らのしていることも何も間違ってはいないのだ。互いに今あることを受け入れあって物語は終わる。大きく何かが変わったわけではないが、その13歳の夏が消えることも決してない。


 最初の雪のシーンは「いいけれど、ちょっと狙いすぎじゃないか。だんだんあざとい感じになってこないかな?」とちょっと心配したんだが、ファンタジック演出にもいちいちツボをつきまくられ、舐めてかかってたことも合わせて終盤はノックアウト寸前に追い込まれた。辛うじて立っていたものの、ラストに登場したグイ・ルンメイについにダウンを奪われ聖歌がかかった時点で涙腺がやばくなり、エンドロールの原作絵本の前にとうとうマットを舐めて二度と起き上がることはなかった。やられた……号泣!


 ダンスシーンが素晴らしく、浅学な僕は元ネタも知らんかったのだが、一緒に観に行った彼女に教えてもらってハッピーだったのでした。そうか〜、ゴダールか〜、それは知らんわけだよ……。

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