”彼には何も見えない”『愛のタリオ』


映画『愛のタリオ』予告編

 チョン・ウソン主演作。


 田舎町に小説講座の講師としてやってきた作家のハッキュ。町の少女ドクとすぐに男女の関係になったハッキュだが、彼には妻子がいた。さらに失職した大学への復帰が決まり、ハッキュはドクを捨てて都会に舞い戻る。しかしドクは妊娠していた……。鬱病の妻と、執着するドクの狭間でハッキュは……。


 この人、あまり出演作は多くないよね。去年は『監視者たち』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140919/1411129560)でクールな悪役を演じて超カッコよかったのですが、やっぱり男前過ぎるのか、あまり役柄に幅はない印象。
 田舎にやってきた作家で元大学教師、ということで、ど田舎でスーツ着てると……でかいな……スーツの下にはムキムキの筋肉が隠されている。セクハラ疑惑で職を追われ、鬱病を病んだ妻から逃げるように田舎に引っ越し。カルチャースクールで小説講座をやりつつ、新作を書こうとしている。
 特に情報がないところから登場するので、どういうバックボーンの持ち主かは徐々に提示される。遊園地勤めのヒロイン、ドクと出会い、話している最中にかかってくる電話……娘から! 「うん、すぐに帰るよ……」と電話には答えて会話を短く打ち切り、誰からかかってきたのかぼかそうとするのだが、側にいるドクからは「奥さんから?」とあっさりバレている。まあ2006年の話だし、ググればベストセラー作家が結婚してるかどうかぐらい簡単にわかるのよな……。


 どうやらセクハラは冤罪らしい……と言うのが徐々に示されるのだが、妻からは「また女遊びしてるんでしょ!」と非難され、自分に好意があると思しきヒロインには思わせぶりなアプローチを仕掛ける。うーん、そのセクハラは冤罪でも、他では色々やらかしてたんじゃないの……?


 田舎で遊園地の入場券売りやってるドクちゃん(演じているのはイ・ソムさん)、顔は地味でスレンダー体型で、全然遊んでいない田舎の娘さん……という雰囲気を醸し出しているのだが、その心中、想像もしなかったような情熱を秘めていた……。後々の展開からわかるのだが、決して受け身にならず貪欲で、都合のいい女には決してならないあたり、ウソン先生は大変なところに手を出してしまったのである。
 最初に一線を越える手前、バスのシーンが見どころで、妻子のところへ帰ろうと一回バスに乗ったけど、やっぱり降りてしまうウソン先生のダメさに目が行くのだが、それよりもバスを見送るのではなく、わざと前を横切って自分の後ろ姿を見せつける彼女の積極性に注目したい。


 ウソン先生、尻まで惜しげも無く見せる大胆濡れ場を決め、夜中の遊園地の観覧車の中でもファックして、あっという間に村中の噂に! しかし程なく復職が決まり、よりによって「二度と離れないで」と言われてすぐにソウルの大学に戻ってしまう。作り置きの飯を丸ごと生ゴミに出しておきながら「また連絡するよ」と常套句を決めるのだが、当然、通用しない。大学まで押しかけられ妊娠を告げられ、即、産婦人科ダッシュ! 付き添いもほっぽり出して逃げ出す……。


 まあ一欠片の救いもない下衆っぷりである。女が姿を現さなくなって後も遊び呆け、セックスとギャンブルに狂って糖尿病に……。このキャラを、表情があるのかないのかわからない、口元にアクセントのあるいつものキメ顔でチョン・ウソンさんが演じているわけだが、その作家にしては鍛え上げられすぎな筋肉や、失明を隠すためのサングラスまでもが空虚さの象徴のように見えてくる。自分の内面とも、目の前の女たちとも決して向き合わず、ギャンブルやったら勝つと思ってるのと同じくらい、みんな最後には言うことを聞いてくれるだろう、わかってくれるだろう、という虫の良さを持っている。ここまでひどいと、多少改心したように見えても、それもまた虫の良さゆえで、自覚して貫くものが一切ないようにしか見えないのである。


 妻に自殺され、娘には反抗され、それでも本は売れて女にも不自由しない。が、さすがに遊びすぎでだんだんと目が見えなくなってくる。そこで隣に引っ越し、娘に接近する謎の女……。ウソン先生はもうそれも見えず、知っている顔だということもわからない……。


 成長した娘役は『レッド・ファミリー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20141014/1413286398)で工作員役だったパク・ソヨン。美形だけどAKBみたいにちんちくりんで、モデル体型のイ・ソムさんと比べると超小さいのだが、それがまたロリコンのおじさまに好かれてしまったという設定が怖い。
 ウソン先生はほぼ目が見えなくなり、娘も売り飛ばされて、復讐もここに完成せり……。しかしやることのなくなったヒロインは、チゲ鍋に生ゴミを混ぜて食わせるなどという陰湿なイジメに走ってしまう。うーむ、こりゃだめだ、レベルが低い。美しき復讐者もそろそろ焼きが回ってきたな……と思ってたら、事態は急転直下を迎えるのであった。


 どこまでも意外な展開と突っ込みどころ満載ということで、「破壊屋」(http://hakaiya.hateblo.jp/)さんの文体でいちいち突っ込みながら書いたら面白いな……。


・実は向かいの女はドクだった。ウソンは目が見えないので気づいていない。
・娘は金持ちの老人を篭絡して舞い戻ってきた! 日本人という設定だが、このおじいさんの日本語は割合ちゃんとしている。しかし、白人の部下を引き連れて国際色を出すのは『泣く男』でもすべっていたのでやめた方がいいと思う。


 本家にも取り上げてもらいたいところ。


 狂気と情念、韓国映画らしいエロスとパワーに溢れた映画で、最初から最後までドロドロの感情描写を堪能できて大満足の一本。ウソン先生のキメ顔も満載で、ファンにはたまらんですな。マンソク兄弟の兄も出てますよ!

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