”オーディションは終わらず"『毛皮のヴィーナス』


 ロマン・ポランスキー監督作品!


 新作に向け舞台のオーディションを開いていた演出家のトマ。しかし、ろくな女優が集まらず、愚痴りながら引き揚げようとしていた。そこへ、無名の女優ワンダが遅れてやってくる。時間も過ぎ、スタッフも帰り、名前が名簿にも載っていない。トマは断ろうとするのだが……。


 前作『おとなのけんか』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120312/1331532696)が、舞台劇の翻案で、登場人物は四人のみであったが、今回も戯曲の映画化。登場人物はまさかの二人……。『死と処女』で三人というのはすでにやってたし、こりゃあ次回作はマジに一人だけの話になるんじゃないかな。


 オーディションを終えたマチュー・アマルリック演ずる演出家の前に、エマニュエル・セニエ演ずる女が現れる。この女優はポランスキーの奥さんで『フランティック』に出演した後ぐらいに結婚してるんですね。当時、23歳。やっぱりロリコンやで……。しかしその人も今や48歳。堂々たる貫禄に満ち溢れてますよ。
 それに対するアマルリックさんの、我は芸術家らしく強いのにどことなく受け身なところがまた絶妙のバランス。図々しいおばちゃんに対し、なぜか甘くなってしまうあたりに変に真実味があるよね。


 別の舞台装置を「像に見立てて……」とか言って演技していて、物語上やってることは舞台上のお芝居の、あくまでオーディション、リハーサル。なのだけれど、なぜかきっちり映画、あるいは完成した舞台としてサウンドエフェクトが入ったりして、よくよく考えるとなんだか不思議な気持ちになってくる。ここで展開されていることは一体なんなの……?
 そんな摩訶不思議な状況下、さすがに登場人物が二人だけなので、軽々なテンポとは言い難いが、 最初は何の変哲もなかった会話が徐々に変態性を帯びてくる。脚本家と女優としての二人、読み合わせで演じられるキャラクターとしての二人、そしてもしかするとポランスキーとその妻としての……。


 オープニングとエンディングが劇場の出入りになっているのは、密室劇としての閉鎖性の表現なのだが、その絵作りがなんとも言えない贅沢さを帯びているあたりがさすがで、実に充実してますね。


 もう一つ食い足りない部分もあったが面白かった。さて、2014年ラスト一本へと続く……。

ゴーストライター (字幕版)

ゴーストライター (字幕版)

ローズマリーの赤ちゃん (字幕版)

ローズマリーの赤ちゃん (字幕版)