"この美しいわたしを永遠に"『ファントム・オブ・パラダイス』

 カナザワ映画祭2013、二本目。


 自らの畢生の大作をものにしようとしていた作曲家のウィンスロー・リーチ。だが、超有名プロデューサーのスワンがその曲に目をつけ、部下のフィルビンに楽譜を手に入れるように命じ、リーチはデビューさせてもらえるとの甘言に乗せられて楽譜を手渡してしまう。一向に連絡がつかないことを不審に思ったリーチはスワンの屋敷まで押し掛け、そこでオーディションを受けようとしていたフェニックスという女と出会う。そのオーディションの曲目こそ、彼の作ったカンタータで……。


 高校生ぐらいの頃だったか、夜中にテレビつけたら、ある映画がやっていた。「監督:ブライアン・デ・パルマ」と出て、「あ、聞いたことある名前だな。有名な監督じゃない?」と思って、そのまま観ようとした。……んだけど、オープニング、なんか気持ち悪いオッサンたちが歌ってる映像が長いこと続いたので、チャンネルを変えてしまったのであった。
 数年後、二十代前半。当時のバイト仲間I氏に、「デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』って観たことある? 面白いよ」と薦められた。『オペラ座の怪人』のロック版? 確かに面白そうではないか。で、さっそくTSUTAYAでビデオを借りてきて観たのである。スイッチオンで再生。するとオープニング……何か見た覚えのあるオッサンたちが歌っている映像が……あーっ! これはあの時の!


 そんな紆余曲折を経ての初鑑賞当時も、まあびっくらこいたね。ジューシーフルーツはともかくとして(笑)、『サスペリア』で知っていたジェシカ・ハーパーの、打って変わってたくましい輝きぶりや、『オペラ座の怪人』のみならず『ファウスト』なども下敷きにしたストーリー性、けばけばしくも美しいサブキャラクターの数々、もちろん音楽も最高!


 DVDは持っているが、今回初めての劇場鑑賞、しかも爆音ということで堪能いたしました。ビジュラマ方式とか別に何もないわけだが、今回のイベント的、ギミック的なラインナップの中で、今作はもう映画そのものがライブだ! 異様なテンポで展開される中で、ポール・ウィリアムズ演ずる興行師たるスワンが、まさにそのギミックを施したラストステージを演出するクライマックスは圧巻。


 その小さいおっさんスワンことポール・ウィリアムズの、まあ小室哲哉秋元康かという意味のわからないまでのカリスマ性とやり手ぶりにクラクラしつつ、華やかな彼の足元で踏み台にされた職人気質の作曲者ウィンスロー・リーチや、使い捨てられる女性たちを通して、ショービジネスの在りようにも思いを馳せるのであった。


 また機会があれば劇場で、爆音で見たい、そんな気持ちにさせてくれる映画でありました。

サスペリア [Blu-ray]

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