”使い捨てのブルース”『テロ,ライブ』
ハ・ジョンウ主演作!
人気アナウンサーだったヨンファは、不祥事でラジオ局に左遷され失意の日々を送っていた。ある朝、レギュラー番組にかかってきた橋を爆破すると言う脅迫電話を相手にしなかったヨンファ。だが、番組の直後、実際に橋が爆破される……! これを特ダネと感じたヨンファは、テレビの生中継を犯人と上司に持ちかけるのだが……。
ハ・ジョンウ演じるアナウンサー、元はテレビ局勤めだったが、干されてラジオ勤め。まあ実にやる気のない感じ。ラジオパーソナリティと言えば、先日『フィッシャーキング』を見直したところだったが、あれも言うなれば殺人を煽ってしまう役回りだったね。しかし今作では爆弾テロをスクープと喜び、自らのテレビ復帰の足がかりにしようとする悪どいキャラ。
ラジオだからだらっとセーターなんか着ていたが、さあテレビに映るぞとなると急にパリッと髪も整え雰囲気を変えてくる。このあたり、役者ハ・ジョンウのモードの切り替えそのものも垣間見える感じでいいですね。
朝から始まってほぼリアルタイムで進行していくのだが、最初は自分の司会進行でコントロールできるつもりが、実はそれが全くの錯覚であったことを徐々に思い知らされていく展開の矢継ぎ早っぷり。
それらは報道を司るマスコミ、テレビ局そのものが持っている全能感とも繋がっていて、視聴率やニュースバリューのために取捨選択を行って来たことそのものへの疑義が突きつけられる。
主人公はそのマスコミの中のインサイダーであるのだが、同時にいざとなれば切り捨てられる一労働者に過ぎない。自分が獲得しようとしていた視聴率や名声、そのために自分が捨て駒にされる。
犯人側の動機として少々湿っぽい話を設定しているが、主眼は謎解きではなく、マスコミや権力の腐敗の構造を描くこと。切り捨てられ、マスコミにも顧みられることのなかった労働者の側に立つ犯人に、主人公も徐々に立場が近づいていく。犯人や上司である局長、警察……絡む相手が変わるたびに利害もまた動き、一つとして同じ状況はないが、いつしか着実に追い詰められていたことに気づく……。
脇もどこかで観たような顔の人が色々出ているが、主人公の上司役のキャラはなかなか強烈だったね。普通の映画なら、こういう悪どい人は後半にどさくさ紛れに殺されて多少は溜飲を下げさせてくれるのだが、番組の視聴率が78%を超えたところで、満足げに家に帰ってしまう! 事件の行く末になど一切関心なく数字が全て……。本来ならそれを共有するはずだった主人公は、すでに引き返せないところにまで足を踏み入れており、ただ見送るのみ。
密室劇としての緊迫感もさることながら、爆弾を使ったスペクタクルなシーンも、POV的手法を交えたり、窓越しの限定されたカットなどをうまく使って臨場感を出しているのが上手かったですよ。後半の大崩壊シーンも、ガツンとCG使ったのは一部で、あとはセットや撮影で見せているのだろうが、大した迫力です。ラストカットまで引っ張り続けるスペクタクルも見所。最後までテンションを切らさない手腕も鮮やかで、堪能いたしましたよ。
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