"心がつながなかったストーリー"『ペーパーボーイ 真夏の引力』
ニコール・キッドマン主演作。
新聞記者をしている兄のウォードが、同僚のヤードリーと共に田舎町モートに戻ってきた。四年前に起こり、ヒラリーという男に死刑判決が下された保安官刺殺事件の捜査をするためだ。父の新聞社で配達をしながら鬱屈した日々を送っていたジャックは、兄の調査の手伝いをすることに。ウォードはまず、獄中のヒラリーと文通をしているシャーロットという女と接触するのだが……。
ニコール・キッドマンと田舎と若い男、というとガス・ヴァン・サント監督の『誘う女』がありましたね〜。パンチラとフェラで若かりしホアキン・フェニックスをたぶらかしまくるキッドマン様が最高でありましたよ。
そんなキッドマン様もはや四十路……。『イノセント・ガーデン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130606/1370501382)では娘とのギャップに悩む若作りの母親役でしたが、今回は死刑囚のグルーピー! 文通して「愛を感じたわ」とか言っちゃって、現代でもこういうことをする人はもちろんいるんでしょうが、やっぱりアイドルやタレントのブログにコメントするよりもレスポンスも付きやすいし、やりがいがあるのだろう……。
そんなキッドマンにはまっちゃうのがザック・エフロン! 青春スターからの脱却を図っての難役……ということだが、母親に捨てられたトラウマで女とうまく接せなくて青春し損ねてる男役ということで、脱皮したというよりは裏側を見せてるかのようで、これはこれでハマってる。お母さん代わりのお手伝いさんにブリーフ姿でベタベタと甘えるあたりの赤裸々さよ……。
先日の『バーニー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130725/1374739555)に続き、またもマシュー・マコノヒーが登場(『マジック・マイク』も控えてるよ)。ザック・エフロンの兄の新聞記者役で、デヴィッド・オイェロウォ演ずるライターと組んで、ジョン・キューザックが逮捕された事件を追っている。その過程で、彼のグルーピーであるキッドマンと弟共々出会い、協力関係になることで話がどんどんややこしくなっていく。
物語は後に作家になったザック・エフロンの手記なのだが、映画版はその手記を読みつつ当時を回想する彼の家のお手伝いさんからの目線に立っている。事件の当事者ではなく、ある程度距離を置いたところからの語りにしたかったのであろうか。
登場人物は皆、最初からオープンにしている者もしていない者もそれぞれの性癖を抱えていて、それらは1969年という時代には、存在さえ許されず一生秘匿し続けなければならないことも含まれている。映画はそれらをマイノリティの目線から捉えた像を通して、薄皮を剥ぐように暴いて行く。
ちょうど少し後の時代ということもあり、『ヘルプ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120407/1333791288)の裏バージョンという感もあり。黒人の語りに作者が補足を加えたかの作品に対し、この映画『ペーパーボーイ』の物語上は白人である作者の自伝に対して黒人のヘルプが付け加えているという形。この形態は白人であるピート・デクスターの原作小説を、黒人であるリー・ダニエルズが映画化したという今作の構図と酷似していて面白い。いっそのことオイェロウォさんを主役にしちゃいたかったのかもしれないが、彼もまた一夏の狂騒にのめり込んで行く白人の三人を、「早く終わらせて帰りたいな〜」と思いつつ見ている役回りでもある。彼自身、出自を隠しており、クビを恐れるヘルプ同様に、波風を立てずに生きて行こうとしているのだ。
熟女愛に燃えるエフロン、ヒロインストーリーに酔うキッドマン、事件を解決し正義を実現しようとするマコノヒー、三人の白人それぞれにとっての「祭」のような夏を描き、その狂騒に冷や水をぶっかけるような結末を与え、虚しさと切なさと心弱さと共に述懐させる、というのが元々の筋書きだったのだろう。そこにヘルプさん他「なに騒いでんの、おまえら?」と言いそうな冷めた目線を添わせ、物語やキャラクターの感情にのめり込むような感覚を早々と寸断してしまったことで、推進力という点では後退したように思う。エフロンのブリーフも、キッドマンのおっぴろげも、マコノヒーの尻もただ滑稽で痛々しくて、萌えの対象にはまったくならないのだ。
そこを暑さや気だるさを表現したムーディーな映像をつなげて補った……のだと思うが、ちょっと演出過剰が鼻についたところでもあった。
三人のメインキャラそれぞれが、互いのことに関しては冷めた目を送りつつも、自分のことに関してはそれがまったく機能しないあたりが面白い。キッドマンのエフロンに対する、メイク落として急に冷静になったような表情が象徴的。三人ともそれぞれ、もう少し賢く生きる道もあったのではないかと思わせる。だが、それをさせないのが祭りの狂騒なのだな。その祭のシンボルとなったジョン・キューザックによって、祭は終わり、すべてに終止符が打たれる……。
こういう、時代を切り取り、世相を切り取り、場所を切り取って見せたような話って、よく沼地が出てくるような気がするな。夏の煌めきはやがて去るが、淀んだ沼は変わりなく残るのだ。
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