”君の名は”『追憶の森』


映画『追憶の森』本予告(90秒)

 ガス・ヴァン・サント監督最新作。

 富士山の北西に広がる青木ヶ原樹海。死に場所を求めてやってきたアメリカ人のアーサーだが、怪我をしさまようタクミという日本人に出会ってしまう。彼を放っておけず、ともに樹海を脱出する道を探すアーサーだったが……。

 妻を失い傷心のマシュー・マコノヒー、理想の死に場所を求め、富士の麓、青木ヶ原樹海へとやってくる……。同時期公開中の『アイアムアヒーロー』の舞台でもあるので、二本続けて樹海を見てしまったよ。

 良さげな場所を見つけて、いざ薬を飲もうとしたところで、よたよた彷徨う渡辺謙を見つけてしまったマコノヒー。基本、人がいいので助けてしまい、自殺を中断して脱出路を求めて森の中を歩き回ることに。その合間合間、亡くした妻との結婚生活を想い起こす。

 ガスヴァンと言えば、頭上の木の枝越しの空……というぐらいに風景を美しく撮る印象が強いのだが、今作は樹海の陰鬱なイメージ優先か、いまいちパッとしない。行く先々で死体に遭遇する二人……。都合4回ぐらい、死体を見つけてたけど、青木ヶ原ってこんなに頻繁にぶち当たるものなのか?

 ナカムラタクミと名乗る渡辺謙、リストラで追い出し部屋に放り込まれた経緯を語り、妻と娘がいることも告げる。ほっとけなくて助けてる内に自分も崖から転がり落ちて怪我したマコノヒー、助け助けられの関係になって、いつしか自殺どころではなくなる。
 歩くかしゃべるか崖から落ちるか、ぐらいしかイベントがないため、なかなかこのパートはかったるい。対して、ナオミ・ワッツがアル中の妻役で登場する、夫婦生活回想編の方がスリリング。職場の研究所で浮気して仕事をやめたマコノヒー、今は年収2万ドルの非常勤講師。一度は許したものの妻は荒れていて、お互いに当てつけじみた行動を取ったりネチネチ過去を蒸し返してみたり……。そろそろ終焉に向かっている感じ。
 が、ナオミ・ワッツの頭に腫瘍が見つかったことで、二人は絆を取り戻し始める。夫婦の関係が好転へと向かうのが、ナオミ・ワッツが横たわってマコノヒーに手を握られてMRIに入っていくシーンなのだが、何の変哲もないセンサーの光をこんなに美しく撮っちゃうのかと愕然とさせられましたね。さすがガスヴァン、難病もの『永遠の僕たち』は伊達じゃなかったぜ。

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 樹海で生死を彷徨う中で、少しずつ生きる希望を取り戻していくマコノヒー。大雨で逃げ込んだ洞窟で鉄砲水を食らって二人とも流される! 意識を取り戻したマコノヒーは、ケン・ワタナベに人工呼吸! 出たっ! BL展開! これは二人とも体温下がりすぎだし、服を脱いで裸で暖めあうしかないな、と思ったが、都合よく古いテントが見つかり、その中の死体から服やライターを頂戴する二人であった。うーん、ここらへんのご都合主義な展開がどうも緩いんだよな。
 先の「妻」と「娘」の名前も気になるが、この焚き火での会話も強引すぎていい感じに意味が不明。

ケン・ワタナベ
「木に目印で糸を張ってるとこがあったね」

マコノヒー
「僕だったら、パンくずをまくね」

ケン・ワタナベ
「君は……ハンサムだな」

「ファッ!?」となるマコノヒー。えっ、なにこのBL展開は……?

ケン・ワタナベ
「ハンサムとグレーテルだよ。童話で、兄のハンサムがパンくずをまくじゃないか」

マコノヒー
「それはヘンゼルや!」

 思わず関西弁で突っ込んでしまった。この童話は後からまた出てくるので伏線ではあるんだけど、何なのこの会話……。

マコノヒー
「急になにを言い出すんか思たやないか」

 ごもっとも。ちょっとドキドキしてしまったマコさんでありました……。

 悪くはないと思うんだが、やっぱりちょっと設定からして無理があり、ナオミ・ワッツパートと渡辺謙パートの結びつけ方が強引すぎ。ビジュアルも群を抜いて素晴らしいかと言うとそうではなく、全体にパッとしない映画。
 さすがに演技巧者を集めているので、行きの飛行機でダウナーだったマコノヒーが、帰りでは「オムレツをもらうよ」と晴れやかなだけで、まあいい話だった気にはさせてくれるのだが……。
 富士の山岳警備隊の働きぶりが見られるなど、なかなか本邦でも珍しい要素があったので、まあ良しとしましょう。