"頂点での悩み"『ヒッチコック』
『サイコ』誕生秘話!
新作としてロバート・ブロックの『サイコ』を映画化しようと考えたヒッチコック。だが、その猟奇的な内容に配給会社も資金を出し渋り、それでも執着するヒッチコックは自宅を売却して自己資金で映画を作ろうとする。だが、脚本をスクリプトする妻アルマとの関係がぎくしゃくした上に、彼自身の体調不良も手伝って製作は難航し……。
エド・ゲインが兄を撲殺するところから物語は始まる。そう言えば、昔『オリジナル・サイコ』だけは読んだっけな……。今作の原作は『ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ』。元の『サイコ』は中学ぐらいの頃に観て、もう全然覚えていない……。『鳥』の方がまだ覚えているような気がする。
やはり元が実在した人物なので、完全なフィクションなら、映画が大コケしたどん底からの再起(『アーティスト』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120412/1334228276)のような……)のようなわかりやすいものになるところだろうが、ヒッチコックの敵はもう少しニュアンスの微妙な相手になる。すなわち若手監督からの突き上げであったり、倦怠した妻との関係であったり、持て余した女優への欲望であったり、それら全てに敗れる原因となる自らの老いであったり……。『北北西』だってヒットしているし、別に傍目から見れば、そんな大変な状況には見えないのだよね。だが、ちょっとした上手くいかなさが積み重なって、本人的には鬱屈が募っている。リスクの大きな新作の企画が受け入れられず、それがそのもやもやと重なって、何もかもうまくいかない、だからこそ逆にやり遂げねば、という強迫観念に駆られている感じ。まあそりゃあどれも本人にとっては重要な話なんだろうけど、さすがにちょっと一本の映画としては、話がぼやけて散漫に感じられたところ。
ただまあ、それこそが天才故、頂点を極めた人間ならではの、ある意味贅沢な悩み、高い理想ということなのだろう。『サイコ』創作上の問題を解決するには妻が必要ということで、最終的に全てをそこに集約させたかったのだろうな、とは思いつつも、ラストにも座りの悪い感覚が残るのは、そもそもが綺麗に収まる話ではないからなんだろう。
その辺りをちょいと置いとけば、『サイコ』メイキングの各エピソードはそれぞれ面白い。最初に違和感バリバリだったアンソニー・ホプキンスの特殊メイクもだんだん見慣れて来るし、相変わらずムチムチなスカヨハさんと、負けじとサービスショットを披露しまくるヘレン・ミレンも良かったですね。もうちょっとこの映画版の各シーンを見たかった気もするが、やり過ぎるとオリジナルとの違いが見えすぎるだけに、これぐらいのさじ加減が良かったのかもね。
しかし、あのエド・ゲインは浮いてたな……最後のアレと同じく、オープニングだけで良かったのに。
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