”先は全て読めている”『ある天文学者の恋文』
ジュゼッペ・トルナトーレ監督作!
大学の恩師である天文学者のエドと、六年に渡って密かに交際中のエイミー。だが、ある日、彼の訃報が届く……。悲嘆にくれるエイミーだが、エドからは変わらずメールや手紙が届き続けていた。エドは彼女に何を残そうとしているのか? よく旅行に行ったサンジュリオ島を訪ねるエイミーだが……。
『鑑定士と顔のない依頼人』の記憶も新しいですが、またも持って回ったタイトルの新作がやってまいりました。主演はジェレミー・アイアンズ天文学者、その若い恋人がオルガ・キュリレンコ。
冒頭、いちゃいちゃホテルデートのお別れのキスから始まり、二人の関係は6年続いていることがわかる。オルガ・キュリレンコは実年齢36歳だが、もう少し若い設定かな? ヨーロッパじゃ大学に通うのが遅くても珍しくないし、20代ぐらいからの付き合いだろうか。
天文学者ジェレミー・アイアンズは、妻子があるという設定……妻はすでに離別か死別したか出てこない。キュリレンコさんと同い年の娘と、さらに歳の離れたまだ幼い息子。ずばり不倫かというと少々ぼかしてあり、まあ歳の差恋愛ですね。しかも学生に手を出している。ヒロインはかつて父親を交通事故で亡くしているということも語られ、ファザコンぽさも想起される。
さて、前作は相当に底意地の悪いお話だったので、今作にも期待していたのですが、悪い意味で壮絶に裏切られたな……。
ジェレミー・アイアンズが生身で登場するのは冒頭だけで、あとは訃報が届いてのち、メールや動画で登場するのみ。実は彼は少し前から死期を悟り、キュリレンコさんの行動を先読みして数々のメッセージを残していたのだ……!
まあこの設定がすでに『四月は君のなんちゃら』とか『彼女は嘘をなんちゃら』とかの少女漫画の映画化のよう。生前から彼女の行動を先読みするのが得意だったが、死後も出先に手紙を送り、タイミングを合わせてメールを送り、事前に撮影しておいた動画を送る……。いや……一本ずつぐらいならまだしも、まだどっかで生きてるんじゃないのと錯覚してしまうぐらいに届きまくる、これは危険な香りがする……!
よほどの恋愛体質の人ならすんなりと受け入れられるのかもしれないが、まあ死してなお延々と出没しまくるおじいちゃん、なんだかストーカーのようだぞ……? もうちょっとドライな人ならいくら惚れててもちょっと引きそうな気がするが、キュリレンコさんはベタ惚れなのでメッセージが届くたびに随喜の涙にくれる……。
手紙や荷物を預かってる人も大勢いて、皆、個人の指示通りにそれをキュリレンコさんに律儀に私にくる。それ疑問を持って断ったことを描かれたのはかかりつけの医者一人だけ。全部が全部「いい話」として撮られているので、客観的な視点がなさすぎて普通にキモい映画になってしまっている……。
医者の他には娘が、自分を顧みず若い女に入れあげている父に怒っているのだが、途中で敢えなく「父に愛されていた貴女の幸せがうらやましかった……」と認めてしまう! もっと突っ張れよ!
NG映像が発見されたり、手紙届くタイミングを間違えたりして計画は完璧ではないのだが、そこもまた可愛い!みたいに思ってしまうキュリレンコさん、マジかよ……。一回、疎遠になってる母親と和解しろ、と説教ビデオが来て、カチンときてメッセージ受け取りを拒否してしまうのだが、即後悔……。ここらへんの展開もウジウジウジウジと死ぬほどうぜえ。
無駄に2回ぐらいヌードも披露するキュリレンコさん、めちゃめちゃ可愛く撮られているのだが、これまたおっさんの願望のようでかなりキモいですよ。この可愛いレンコちゃんに僕は愛されているんだあ〜。彼女は大学に行く傍、スタントの仕事をしている(あだ名はカミカゼ)。これはかつて事故で父親を亡くした自責の念による自殺願望、という設定がついているのだが、こういう奇抜な職業をチョイスしているあたり、実に漫画っぽいですね。スタントのシーン自体は、ダラダラした恋愛ものに多少なりとも動きを生んでいるのでまあいいと思うが。
それでも二人だけの世界で完結しているならまだしも、レストランだろうが図書館だろうが劇場だろうがガンガン携帯に着信入る逆マナーCM状態、人を巻き込まずにはおれないこの心性。こんな話を映画にするぐらいだから、みんな〜見て見て見てえ〜という気持ちがありありなのだろうが、マジに共感されると思っていたのだろうか……?
だいたい『鑑定士と顔のない依頼人』では、童貞おじいちゃんに冷水をバシャーンとぶっかけて楽しんでいたくせに、ヤリチンじじいにはこんなにも甘くていいのかよ! この許し難いダブルスタンダードは、おそらくトルナトーレの中では一貫していて、二作品はセットであり、モテるオレ様こそ至高、非モテに価値なしということなのだろうな……。これは童貞おじいちゃんに死ぬまで殴られるといいね!
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