”その靴を捨てた時”『裸足のクンフー・ファイター』

裸足のクンフー・ファイター [DVD]

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 ジョニー・トー監督作!


 父の弟子であったデュンナンを探し、裸足で田舎から出てきた少年クワン。デュンナンの働く染色工場四季織のパク社長に助けられ、デュンナンとも再会してそこで働く事になる。しかし、四季織の秘密の染色法を狙う街の有力者の経営する天龍紡が事あるごとに因縁をつけ、ついに四季織の従業員の借金を押さえてしまう。天龍紡を襲い、権利書を取り返したクワンだが、その事で争いを大きくしてしまい……。


 93年頃に撮られた、本当に初期の監督作の一つ。『マッド・モンク』や『ワンダー・ガールズ』と同時期の作品ということになる。
 主演はアーロン・クォック、最近は『最愛』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130113/1357991876)で嫌ったらしい下卑た笑顔を見せていた彼ですが、『風雲』の脂ぎった感じよりもさらに以前ということで、さわやかそのもの! しかしさわやかなのはいいが、タイトル通り裸足で、超田舎者のために文字も読めない、という設定。常に笑顔だが、その癖もめごとの際にはさっさと拳に訴えるあたりを見ていると、田舎者とか野蛮人を通り越して、何か見た目はかわいいけど凶暴な猿のように思えて来る。『ドラゴンボール』の孫悟空的なキャラクターですな。


 ティ・ロン演ずる兄弟子を探して街に出て来るのだが、都会の事も人間関係も恋愛もなーんも知らんので、悪気がないのにトラブルを巻き起こしまくる。最初は可愛げがあるのだが、段々と洒落にならないレベルに発展してきて、ティ・ロンや、彼が身を寄せる染色工場の社長マギー・チャンも徐々に渋い顔に……。そっちを追い出されたら、あっさりライバルの悪者工場に絡めとられてしまうあたり、純朴にもほどがあるぜ! ギャグのはずがどうしても真面目な方面に行ってしまうようなジョニー・トーのセンスか、展開はハードコア方面に流れて行き、冒頭ののどかさが懐かしまれるような凄惨なクライマックスへ……!


 賢い人間が過ちを犯すのではなく、若くて知恵もなく学問もない過ちを犯しても当然の人間が、その過失によって取り返しのつかない結末をもたらす……ということで、非常に後味の悪いお話も見どころ。こういうキャラは後に偉人になったりするんだが、それもなし! 元々はショウ・ブラザーズ作品のリメイクということで、このハードコア感もそれゆえか……!


 ラウ・カーリョン演出のもと、ティ・ロンが切れ切れなのはわかりきっておるのだが、アーロンもぴちぴちなだけあって、身体能力の高さを見せつけております。良く飛ぶなあ。一瞬、戦ってる途中での主観視点があったりと変な事をやってるな、と思ったが、終盤のバトルは見どころ充分。


 タイトルの裸足が、ぶかぶかの靴を履き、次に合う靴をあてがわれるものの、最後はそれを捨てて裸足に戻る……と思わせて足袋だけは残ってるあたりが何か象徴的。どこか座りの悪い怪作感も漂うあたりが逆に味で、なかなか面白かったですね。

東方三侠 ワンダー・ガールズ [DVD]

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最愛 [DVD]

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