”ツ・ナ・ガ・リ・タ・イ”『ディス/コネクト』


 SNS映画!


 家庭で孤立し、共有サイトに自作の曲を流し続ける少年ベン。ポルノサイトで働く若者の実態を取材しようとするレポーターのニーナ。幼い息子を失い、夫との関係の隙間をチャットで埋めようとするシンディ。希薄になる人とのつながりを外部に求める人々と、側にいながらつながれない家族達。彼らの行く末は……。


 どうもネットやSNSの普及以来、つながるということを簡単に考えすぎる輩が多いですね。


ハイター博士「そうかそうか、つながりたいのか。そんなにつながりたいなら、私の研究室に来なさい。つなげてあげる」http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110712/1310378080


……と、それほどにつながるということは重いのだ、本来!


 ポルノチャットに出演する少年と、それを取材するレポーター。赤ん坊を失った痛みをチャットでの交流で埋めようとする妻と、それに気づかない夫。家庭や学校で孤独を感じメッセージを送ってきた女子に惹かれる少年と、その女子を装う同級生たち。
 三つの物語が並行して進み、すれ違うそれぞれの想いと、カジュアルでお手軽な悪意、さらにその向こうに潜むネット犯罪の深淵を描く。
 多様な人物を配置することで、その日常性と、誰の身にもいつか形を変えて起こりうるということを強調する。その危険性を薄々知りつつも、まさか自分に、自分の家族にこんなことが起こるなんて、と誰もが思うのだが、まさにその近しい家族との心の断絶がこうした事を知らず知らずの内に引き寄せて行く。チャット、メッセージ、ツイッター……遠くにいる見知らぬ誰かと、つかの間、心が通い合い共感し合う一瞬。人間の脳内で瞬く電気信号が回線を通じて共鳴し合うかのようなひとときが、様々な形で登場する。


 三本のうち、ポルノチャットの話ではアンドレア・ライズボローさんがまた脱いでいる……。微妙に必然性の薄い枕営業シーンで乳首を見せ、終盤にはまったく必然性のないシャワーシーンを披露。サービス要員か! 事後に「君は最高だ」と、ちょっと彼女のことを好きっぽい上司が言うのだが、全然聞いちゃいねえあたりもディスコネクト。さっきまでしっかりつながっていたのにい〜という、男女間の悲哀ですよ。


 なりすましネカマにはまってしまう高校生君、ロン毛でいかにもなルックスが悲しく、ちょっと曲を褒められてその気になってしまい、自らの裸画像を送ってしまう痛さ。つながりたい年頃なのだね……。メッセージ来たら「てへっ」となってしまうあたり、真相を知ってるこちらからしたら超可哀想なのだが、画像流出の後に自殺を計り、青天の霹靂でショックを受ける家族の話の方がむしろ本番かな。「犯人」と知らずにお父さんがメッセージの相手とやり取りする部分で、二組の父と息子の関係が浮き彫りになるあたりも面白い。


 最近おなじみのイケメン、アレクサンダー・スカルスガルドさんが、赤子を失った父親役で、妻とディスコミュニケーションに陥っているお話が印象深かった。気まずくなって会話も続かず、かと言って仕事に打ち込んでいるわけではない。youtube見て遊んでて上司に怒られるシーンが泣ける。そんな彼のアイデンティティは……なんと軍隊経験であった。クレジットカードの情報を取られ、金なし車なしの状況に陥り、頼るものはもはや昔の成功(?)体験しかない。海兵隊に所属し戦友を失った思い出を、今からちょっと強気にならねばならない局面で滔々と語るあたり、今にもぶっ放しそうで怖い。男性として機能不全に陥り、近頃触れてもいない妻はチャット相手のおっさんに心惹かれているという状況で、ニョキっと拳銃を持ち出すのが象徴的すぎ!
 そのチャット相手はミカエル・ニクヴィスト、『ミレニアム』でもモテモテであったが、イケメンじゃないけど包容力と教養ありそうなおじさんで、心の弱った女はいかにもハマりそうなんである。
 クレジットカードなどの個人情報を盗まれたのを突き止めることが目的だったはずなのに、スカルスガルド夫がいつの間にか「浮気野郎、こいつめ!」というメンタルになってしまっているあたり、いやあ男子ですねえ、というお話で良い。ミカエルさんにライフルを突きつけられ、「こいつめ、俺より長いものを……!」と怒り、素人め、俺は海兵隊だぞ、銃の使い方を見せてやるぜ……と、嫁の前で露骨なまでにコンプレックスをさらけ出すところがナイスですね! さあさあ、その後、夫婦はつながれたのか……?


 三つのお話を並行して進めつつ、本筋以外にもSNSあるある、ネット犯罪あるあるを絶えず入れ込んで飽きさせない手腕が巧みで、なおかつ強烈だったりショッキングだったりするシーンはぎりぎりのところで避けている。クライマックスも、そこはまとめて悲惨なことになるところだろ〜、と少々食い足りないのだが、ストーリーを加速させながら、ハッピーエンドもバッドエンドも避け、あくまで日常性を強調を強調し、ドラマチックな物語ではなく、我々の日常と地続きであると示す。


 お気軽に接続しても肝心なところは全然つながっておらず、ところが仮初めのいい加減な関係にしか見えないものが心の奥深いところへ届いてしまったりもする。遠隔操作などの時事ネタも含め、なかなか楽しめましたね。ああ……それにしてもつながりたい……!