”いつも近くにいる気に入らないあいつ”『RUSH』

　ロン・ハワードが実話を映画化。

　F3の新人時代からのライバルであったニキ・ラウダとジェームズ・ハント。いち早くフェラーリのドライバーになったラウダに対し、追いすがるハントもついにマクラーレンの車に乗り、ついに両者が対等の条件で戦う時がやってきた。1976年のシーズンは壮烈を極め、前年王者のラウダが着実にポイントを重ねる。執拗に追いすがるハントだったが……。

　まあ大変なお話があったもので、最初から最後までドラマチック過ぎる二人の関係。見た目も性格も全然共通点がなくて、水と油のように仲が悪い。
　いや、それぞれの行動を追って行く映画の中では、観客の我々は通じるところも見出せるんだけれど、お互いにライバル関係だから、レース前にプレッシャーを感じるナイーブな部分なんかは見せ合うはずもない。同じようにレーサーを天職とするからこそ、その違いが際立ってくる。

　しかしルックスや振る舞いから見える表層的なキャラクターの違いを見せておいて、同じ職業につく者としての共通点を発見して行く物語かと思いきや、さらに一歩進めてそれでもなお相容れないポリシー、哲学があることを見せ切るあたりには唸ったね。そうしたお話上の結末と、実話としての結末が渾然一体となって、オンリーワンの伝説になるという、実話の映画化の幸せな結婚が拝める熟練の一本。『ダ・ヴィンチ・コード』とかの大仰な話をやらせちゃうと壮大に滑るロン・ハワードですが、今回は安定感を発揮したね。
　全然実際のレースの結果などを調べずに見に行ったけれど（宣伝でかなりいいシーン見せてたからな）、今だに帽子をかぶってる本物のニキ・ラウダさんの存在感も、映画にしっかり投影されていて、それが逆にもう写真でしか見られないジェームズ・ハントをどこか神秘的な、「去って行った恋人」のような切ない存在にまで、映画を見終わった後に押し上げてしまうのである。

　まあ映画じゃいつものちょっと頭の足りなさげなクリヘムなんだけど、グッと絞って尻まで出して、なかなか良かったですね。レース前に吐いちゃう気弱な面もあるんだけれど、普段は奔放で豪快で欲望に忠実、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』じゃないけど、こんな風に生きて見たいと思わせる魅力がある。そして、対極のキャラであるがゆえにそれにいらつくニキ・ラウダ……なんだけど、ラウダのようなちまちま車いじりして冴えない男に対して、いざとなるとハントの側も仲良くする術を知らないのだな。謎の邦題サブタイトル「プライドと友情」だが、酒飲んでいっしょに騒げないラウダに対する彼の友情の表現が、失礼な口を叩いた記者をボコボコにすることというのが、実に不器用で、やっぱり相容れない感じでいいじゃないか！

　対するダニエル・ブリュールもメイクが効いていて、ナチの将校や『コッホ先生』よりもう一つ貧相。いやはや、レースは顔でするものではないのだが、後の嫁に「え？レーサー？ウッソー！」と言われるのと、ファンの人に「ニキ・ラウダの運転だ！すげえ！」と言われるののダブルパンチの前に、ついつい自尊心が頭をもたげて公道をすっ飛ばしちゃうあたりも最高過ぎましたね。

　終盤はレースシーンもつるべ打ちで盛り上げまくる。しかし、王者が雨で大事故起こしてるのに、豪雨でも強行しちゃう富士の最終レースに、日本のテレビ局やスポンサーの金に汚い体質をヒシヒシと感じたよ！