"人妻のきた道"『最愛』
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中国山間部の貧しい村で、売血の横行によりHIVが蔓延する。感染者たちは村でもつまはじきにされ、廃校となった小学校で共同生活を営むように。そんな中、妻に捨てられた得意は、同じく夫に捨てられてやってきた女・琴琴と出会い、やがて二人は愛し合うように……。だが、ささやかな幸せの日々は長くは続かなかった……。
ウォン・カーワイ監督の『一代宗師』が遅れに遅れているため、なかなか新作が観られないな、と思っていた我らがツィイーたんですが、ついに新作が公開されました。しかしながら抱き合わせ企画「香港映画祭り」の一本。前回の同企画はノワール二本とジェット・リー。今回はバラエティ豊かなラインナップながら、またノワールがあって、もう一本はトニー・レオンのお祭り映画、そこに恋愛ものということで、微妙に場違いな感覚が否めない。
まあでも『ソフィーの復讐』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100115/1263566683)以来のひさびさ主演作だし、少ない上映回数にめげずに観に行って参りました!
中国では、こういう売血によるエイズの大量感染が起き、それが政府にも隠蔽、放置されるという事態が本当にあり、BBCによって明るみに出て、日本の報道でも「クローズアップ現代」で取り上げられたようである。
政府がその有様だから、当然、世間の偏見も半端ではなく、感染者は露骨な村八分に会い、ろくな治療も受けられず、バタバタと死んで行く。そんな中、生き残っている感染者は廃学校に集まり、共同生活を送るようになる。
村の奴らの無知に起因する露骨な避けっぷりや偏見など、観ていてぎょっとするレベルなのだが、それに対する感染者のコミュニティが思いやりと優しさに富んだものになるかというと、そんなことはまったくない。廃学校の中でも労働や備品、食料の分担などを巡って争いと差別が起き、画面上の殺伐さのボルテージは上がる一方。
そんな中、主人公のアーロン・クォックは自分も感染者であり、父が廃学校の校長でコミュニティのリーダー格、兄が売血をやって村中を感染させた張本人、甥はすでに死亡、妻には触れることも拒否されている、という複雑な状況に陥り、メンタルの弱さと性格のいい加減さも手伝って追い込まれている。そこに、新たな感染者として、人妻のチャン・ツィイーがやってきて……。
いや〜、今回のチャン・ツィイーもやべえ! 汚れ要素満載なのに、登場シーンから美しすぎて悶絶。当初の不安げな表情が、承認欲求を満たされて笑顔に変わっていく過程にクラクラ。アーロン・クォックがもうほとんど最初から一目惚れ状態で、目が危険。今までのイケメン役はどこへやら、笑顔までキモい! しかし夫から拒絶され、そのくせ束縛はされ続けているチャン・ツィイーも、あっという間に彼とできてしまう! ま〜、ダメだ、ちょっとバカっぽいけどひたすらかわいい役。男はこういうのに弱い、だなんてバカじゃねーの、とか言われても、まったく返す言葉もございません。しかし中盤から終盤にかけて、秘めた情念が燃え盛る様も巧みに表現する。
赤い服、田舎の村、廃学校、餃子など、いちいちデビュー作『初恋のきた道』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110405/1301989745)を思い起こさせるガジェットが配置されているあたりも、ちょっと、いやかなり狙ってるんではなかろうか……。チャン・ツィイーも早32歳ということで、マスコミ嫌いも手伝って芸能界での醜聞にも事欠かない。そんな今の彼女が、デビュー作を上書きするような設定で渾身の熱演を見せ、その輝き自体はかつてより遥かに増している、という厳然たる事実。よく見ろ、これが今のチャン・ツィイーの全てだ、とファン、マスコミ、あるいは世界の全てに対して高らかに宣しているかのごとき圧倒的迫力。これはまさに事件ですよ!
全編に渡って共感モデルとなるような理想的人物は一切出て来ないんだが、だからと言って共感出来ないわけではなく、横溢するエイズという病気への忌避感には、観ている自分の中にある差別的な意識を否応無しに刺激され実感させられるし、こうした救いがなく綺麗ごとの通用しない状況でいかに生きるか、ということを考えた場合、登場人物の行動や生き方を否定出来るのか、自分が感染していない村人としての立場ならいかに振る舞うのか、ということも自らに問わされる。
韓国映画ぽい陰湿さを湛えつつ、そのウエットな部分を中国映画らしいドライさで中和し、存在意義が皆目わからないファンタジー要素でくるんで、よりカオスな仕上がりに。しかしそこに込められたパワーに圧倒される。傑作とは呼ばないけれど、すごい映画だ!と言い切ってしまいたい。
さて、今作で『初恋のきた道』を上書きしたと言っていいであろうツィイーだけど、夏に日本公開の控える『グランドマスター 一代宗師』では「もうアクション映画には出ない。これ以上のものはできない」(参照記事:http://d.hatena.ne.jp/throwS/20130109#1357698163)と言い切ったほどの渾身のアクションを見せているということ。彼女はもう一つのデビュー作『グリーン・デスティニー』をも上書きし、さらなる高みへと向かおうとしているのではないか。公開が待ち遠しい。
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