"渇望の先に向かって"『毒戦』

 
 今年も大阪アジアン映画祭! オープニング作品はジョニー・トー


 麻薬を製造していたティンミンは、工場の爆発により家族を失い、公安に逮捕される。麻薬対策班のリーダーチャン・レイは、死刑を逃れたいティンミンを利用し、組織に対して架空取引を仕掛け、一網打尽にしようと目論む。息詰る神経戦が始まる……。


 三年前の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』の時以来の、生ジョニー・トー監督を拝めたぜ。オープニングセレモニーに急遽来日。今回はプロモーションのためではなく、映画祭のためだけに来てくれたそうで、ありがたいことである。


 今作は、大陸で初の全編撮影。しかも中国公安が主役と言う事で、いきなり難しい題材に挑んだな〜という感じ。冒頭はゲロを吐きながら車で暴走するルイス・クーと、麻薬密輸を鮮やかな手際で摘発する公安が並行して描かれる。公安のチームのリーダーはスン・ホンレイ。『強奪のトライアングル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121021/1350822481)でも観たはずだが、それよりも『初恋のきた道』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110405/1301989745)の一日教師の人であったことに驚きである。あの精彩ゼロだった(モノクロだったしな……)息子ちゃんが、こんなに渋くなっていたのか……。


 色々と検閲も入り、当初の脚本もほぼ書き直したらしいが、出来上がったものの完成度を観る分には、そんな齟齬はまるで感じられないし、いつものジョニー・トーカラーがはっきり見て取れる映画になっていたね。おそらく、「公安を悪く描くな!」「最後は勧善懲悪で!」みたいな要求がされたのではないかと思うが、そんな要求は平然と満たしつつ、斜め上に猛スピードで爆走してぶっちぎったようなイメージ。
 その場その場に応じて変装し、組織の取引現場に侵入するスン・ホンレイの演技力と行動力を中心に、公安チームの強固な結束とチームワーク、他の部署とも連携する協力関係、多数のカメラによって監視社会と化した都市部と、容疑者に対する容赦のない取り調べを描き……カッコいい、頼れるを通り越して、シビア過ぎて恐ろしい存在としてきっちり描いてしまっている。
 犯罪者組織同士は、あくまで彼ら同士で取引をしていて、そこに公安が忍び寄っていることにまだ気づいていないのだが、その警戒レベルは常にMAXなので、その目をかわすだけでも大変。バレないだけでなく、信頼出来る取引相手という偽の顔としても評価されなければならない、という過酷さ。だが、寝返らせた協力者ルイス・クーを利用し、着実に距離を縮めて行く。
 そのルイス・クーも今回は光ったね〜。取引に臨む二つの組織と、公安、そしてもはやどこにも所属できなくなった裏切り者。たった一人で化かし合いの暗闘の中を泳ぎ切るしかなくなった男。その男を突き動かすものは、家族を失くし、身内も裏切った挙句に、それでもこみ上げて来る死への恐怖と生への執着である、というあたりのシンプルさ。毎度毎度、自堕落な役ばかりやってるこの人のほんとにはまり役なんだが、演技も良かったですよ。
 サービスとして、ジョニー・トー映画ではおなじみの香港の役者陣もまとめて登場! ラム・シューも必見だ!


 しつこく描かれるドラッグの恐怖は、まさにタイトルの『Drug war』の通りだな、と思ってましたが、終盤はまさに戦争のような銃撃戦も勃発し、堪能しましたな。全編に渡る異様な緊張感が、ついに暴発するクライマックスのリズムも見事。そして予告でも登場していたシーンがラストに……!


 『奪命金』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130217/1361104711)も面白かったが、これも今年ベスト級の傑作。公開して欲しいなあ……。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を [DVD]

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初恋のきた道 [DVD]

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