”延長戦はハンデ戦?”『単身男女2』(ネタバレ)


 大阪アジアン映画祭2015、三本目。


 ケビンとの結婚を控えているエンは、憧れの証券会社社長ヤンヤンのもとで働き始める。だが、向かいのビルにまたもショーンがオフィスを構え、驚きつつも隠れ回る毎日。ヤンヤンと付き合い始めたショーンは、エンの存在には気づいていなかったのだが……。


 これは言わずと知れたジョニー・トー監督作。まさに安全牌です。今年はトーさんの来日はなくて残念。一作目(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110313/1300018060)は大震災のあった3/11に上映され、今作も四年後の同じ日の上映となりました。


 前作の直後、あとは結婚まで秒読みのカオ・ユエンユエンが、憧れのやり手女社長の会社に勤めることになったら、またも向かいのビルにルイス・クーが……。最初は会う会わないでバタバタしているうちに、女社長ミリアム・ヨンがルイス・クーといい雰囲気に、続いてカオ・ユエンユエンの突然登場した兄ヴァネス・ウーともいい感じに……。
 今回はこの四人がメインで、ダニエル・ウーはちょいちょい顔を出すだけのゲスト出演になって影が薄い。まあこの人のキャラは前作でやり切ったから、一歩後退かな、と最初は思っていたのだが……。


 さて、前作において真の愛を知りながらも、浮気癖を捨てきれなかったために完敗を喫したルイス・クー。相変わらず金髪美女に弱い……と思いきや、さらっとミリアム・ヨンを立てたりして、前作との違いを序盤からアピール。この二人、『アバディーン』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20150322/1427028727)では姉弟役だったのだが、今回は婚約までする関係に。
 相変わらず大量の彼女を抱えているのだが、全員が彼の誕生日祝いに押し寄せ、悪天候のイレギュラーで大量欠航になった飛行機から、フライトアテンダントも大量にやってくる……全員を別々の部屋に通して切り抜けようとするが、部下のラム・シューの頑張りも虚しく、全員にバレて壮絶破局! ケーキを投げつけられるルイス・クー!
 もうこのキャラクターの面目躍如といったところだが、期せずしてここで女性関係を全員分清算したことが、怪我の功名に。


 「男が10人いれば、9人は不実、1人は好色。だけど、あいつは11人目」というのがダニエル・ウーのキャラで、かつて、まさにその誠実さ勝負でルイス・クーは敗れ去った。向かいの窓からのパフォーマンス、というルイス・クーの土俵にダニエル・ウーが乗り込んでいるかのような構図を作りながら、実は相手の土俵に巻き込まれていたのはルイス・クー側だったのだ。
 だが、その天敵が不在なので、今作は自らの土俵で勝負。それはすなわち……狂気だ……。恋愛映画とは、ある種の狂人を描くものだ、とは良く言ったもので、彼の恋愛感情はますますソリッドになり、その表現方法はエスカレートしどんどん狂気じみていく……!


 映画単品の完成度、恋愛ものとしてのシンプルさは前作に軍配が上がると思うが、ヒロインのお兄さんなんてものが出てくるので、長く続いてテコ入れされた少女漫画のように混沌を極め、より濃密になっていく。そうして長く続くと、最初から最後まで誠実な男よりも、最初はちゃらくても段階を踏んで改心していく男の方が好印象に転じていくという、更正したヤクザの方が最初から真面目な人より評価される、という法則が発動!
 これも少女漫画的だが、ちゃらかったりやさぐれてた男がヒロインのおかげで変わる、というのは王道なわけで、そう考えると、この展開はある程度一作目の頃から想定されていたのかもな。


 が、ダニエル・ウーのキャラとしては、勝ったと思ってたらゲスト出演に追いやられた挙句にかっさらわれる、という、勝負の機会もないままに何が何やらわからんまま負けた……という感じで、実に不憫であった。前作がスポ根的にフェアな勝負だっただけに、その落差は気になったところ。とはいえ、彼女の選択を尊重することこそが愛である、というのもまた真理なのだ……。
 そんなわけでダニエル・ウーが可哀想なので、今度はトーさんのカッコいい路線の映画で起用してあげてください! もちろんラム・シューとのコンビで……(笑)。

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