"夕陽を追ってカムバック!"『高海抜の恋』


 大阪アジアン映画祭2012(http://www.oaff.jp/)で鑑賞、四本目! 今年もやってきましたジョニー・トー監督最新作!


 大々的にマスコミを集めた女優との公開結婚式で、なんと花嫁に元恋人のもとへ逃げられてしまった大スターのマイケル・ラウ。酒浸りになった彼はマスコミから逃れ、雲南省の山奥の宿に転がり込む。そこの女主人のスーに助けられた彼は、宿を手伝ううちに徐々に彼女に惹かれていく。だが、スーは山で行方不明になった夫のことを今も思い続けていた……。


 恒例化しているジョニー・トー監督作品の公開だが、昨年の『単身男女』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110313/1300018060)は、まったく日本公開の目処も立っておらず、人に薦めても無駄というお寒い状況。今作こそはなんとか公開してもらいたいなあ。


 ルイス・クーが主演だが、彼の演じる主人公のキャラはアンディ・ラウ的だよね。賞を総なめしたり、やたらとバイクに乗る映画があるのもそうだし、サミー・チェンとはジョニー・トー作品で三本共演(『Needing you』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20110822/1313988567)、『ダイエット・ラブ』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101018/1287381025)、『イエスタデイ・ワンスモア』)してるのもあるし。映画の中でもまさに大スターで、登場人物もほぼ彼のファンという状態。それゆえに冒頭の凋落ぶりの激しさが際立つ。結婚の破綻で酒に溺れ、山奥の宿に転がり込んでしまう姿が、哀れを通り越して笑えてくる。冒頭のマスコミ報道のシーンは『ブレイキング・ニュース』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20100612/1276270799)的なリアリティがあり、畳み掛けるようなテンポで状況を設定する。


 ヒロインは久々に観ましたサミー・チェン。「宿の女将さん」で、きゃぴきゃぴした手伝いの女の子への対比としての大人の女……と最初は見えるのだが、次第に裏の顔が見えてくる。8年前に行方不明になった夫を待ち続ける姿。実は誰よりもルイス・クー演じる大スター「マイケル・ラウ」のファンであったこと。夫とつながったきっかけとなったのがマイケルとその映画であったこと……。愛想が悪かった人が実は大ファンだったと言えば真っ先に『食神』を思い出したのだけれど、ファンクラブの会員番号が「033」という微妙な数字なのもいいよね。さらに、写メを撮るスタッフや医者をたしなめて写真を消させるのだが、単に理性的な人であったというだけでなく、ファンクラブに入ってるような筋金入りのファンは、ちゃんとスターのプライバシーを守る意識の高さを持ち合わせているんだ、という意味にも取れるよね。30歳ぐらいという設定だが、回想シーンは女子大生!


 結婚の破綻を背負いキャリアの崩壊の危機を迎えたスターと、夫を待ち続けそれに囚われた女を対比しながら物語は進む。高山の過酷さと自然の美しさの中で、主人公は自分を見つめ直し、少しずつ癒されていく。熱烈なファンの想いを受け、自分がまだ必要とされていることも、できることがまだあることも知る。
 主人公を映画スターに設定したことで、当然ファンとスターの関係が描かれるのだが、ストーリーはそこに留まらず、さらにその構造の奥深くへと踏み込んでいく。一人の映画スターがその出演作品を通じてどれだけの人の心を動かし人生に影響を与えているのか、ということと、その責任。そして映画そのものが持っている、それこそ現実をも超えるかもしれない力。映画だから、フィクションだからこそできることとその意味を、今作は問いかける。その映画に関わることで、観客のみならず作り手もさらに変わっていくこともまた。
 クライマックスとなる映画内映画のシーンでそれが堂々と提示され、作り手が映画というものを信じているのだなあということが感じられ、胸が熱くなりましたよ。映画内映画と言えば『Needing you』であったアンディ・ラウ演じる『逃避行』の主人公の登場を彷彿とさせたが、今作ではそれがより突き詰められている。


 映画の作り手が自分の過去の作品やキャリアを大事にすることと、一人の女性が大切な思い出を守ることを対比させ、過去を踏まえた新作と新たな人生の門出を結びつける。すべてが合致した完璧なプロットに酔いしれ、涙、また涙。
 幾多の登場人物が映画の中で再起を迎える。そこには同時に、中断していたキャリアを本当に久々に再開させたサミー・チェンのカムバックへの思いと、彼女へのジョニー・トー監督らからのエールも込められているに違いない。


 本当に素晴らしい大傑作。ありがとう大阪アジアン映画祭! でも日本公開してね、観て欲しい人が他にもたくさんいるからさあ!

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