”それが崩れ落ちた時”『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』


 スティーブン・ダルドリー監督作品。


 9.11同時多発テロによって父親を亡くした少年、オスカー・シェル。ある日、父の遺品の壷から「Black」と書かれた封筒に入った謎の鍵を見つけた彼は、それがオスカーにいつも実地研究を課していた父からのメッセージと信じ、鍵穴を探してニューヨーク5区をまたにかけることに。だが、思うように成果は上がらず、心配する母親とも通じ合えない。ある日、祖母の家に間借りしているしゃべることの出来ない老人に、その思いをぶちまけるのだが……。


 ベストセラー小説の映画化、ということで、原作ありきの作品。曖昧な表現だが、映画はなるほどすごいブンガクブンガクしてるな〜という印象を受けた。これは監督の『愛を読むひと』における「朗読者」映画化の手腕を買われての起用だろう。


 難病ものじゃないけど、近しい人の理不尽な死を受けて、ということで、最近の難病映画三連打と近い印象を受けてしまったのだが、ありふれた病気ではなく9.11だし、また主人公の少年のキャラクター付けもあって、ベタな商品ではなく独自の物語として成立している。9.11から10年を経た今だが、事件の被害者の家族の視点を取っているのに、その共感性によって、『ワールド・トレード・センター』などを遥かに凌ぐ迫真性を生み出す。これは物語のマジックですな。


 アスペルガー症候群を疑われる主人公の少年のキャラクターを引き立てるために、過剰なまでにカット割を細かくしたりノイズを挟んだり、いらつきを掻き立てるような演出が取られている。だいたい、二つのシーンが象徴的で、父の遺品の鍵を持ってあてもない調査に乗り出すシーンと、その調査の上手くいかなさをマックス・フォン・シドー演ずる「間借り人」にぶちまけるシーン。ここの「わけのわからなさ」の表現はちょっと強烈なものがあり、悲痛な状況であるにも関わらず少年への感情移入を阻む。


 ストーリーは少年によるモノローグを主体に進むのだが、これは小説の映画化らしく、タイトルになってる少年の手記を、後から読んで追体験しているような構造なのだよね。必然的に観客は、少年自身でなく、後にその手記を読んだ近しい人間……母親や祖母、間借り人の視点に立つ事になる。
 自分が親だ、と思うと、まあめんどくせえガキなんだよね。口のきき方もなってないし、こっちの気持ちも考えねえ! でも彼なりの思いやりを持っていて、自分を傷つけながらそれに耐えているんだけど、それは手記を読まないと(映画を観ないと)わからない。「親の(こっちの)気持ちになれ!」と思う反面、行動を共にする母親や「間借り人」(そして我々観客)は、少年に対してはなかなかそれができない。でも、かつてそれを努力を重ねて成し遂げ、彼の事を思い続けていたのが死んだお父さんであり、そこに向けて残された家族の思いも集約していく。彼がいなくともつながれるように。


 崩壊と共にへたり込むシーンとか、上手いな〜と思う反面、ちょいあざとくも感じた。アスペルガー演出もそうなのだが、演出に走り過ぎで過剰と言うか、ここら辺りは好みが分かれそうなところ。また、それに加えて全編モノローグが入ってるので、説明プラス過剰な演出と言う事で、くどく感じるところもあり。
 何百人ものところを回った、というスケール感が少々乏しいのは、9.11が「共通の体験」として処理されているからであり、個々の人々の人生を感じられるほどの深みもなかったのももったいなかったかな。数エピソードに絞って深く描いた方が良かったかも?


 総じていい映画だとは思うし、個性的な子供との距離の取り方とか、大事なことも描いてる作品なんだが、あまり乗れずに終わってしまいました。

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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

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