”戦火の華たち”『金陵十三釵』
チャン・イーモウ監督作!
1937年日中戦争時、陥落し、日本軍の占領下に置かれつつ合った南京。牧師の死んだ安全区の教会にやってきた葬儀屋のジョンは、逃げ込んできた女子学生や娼婦をかばい、聖職者に成りすまして日本軍の追求を誤魔化そうとするのだが……。
南京事件を主題にし、日本軍に占拠された南京で、教会の幼い女子生徒たちをかばう葬儀屋の米国人と、そこに転がり込んできた娼婦たちの「奇策」を描いた映画。まあ題材が題材なので、日本では公開されないわけだが、実際に見てみると「この程度か」と拍子抜けするのもいつものことであります。
市民会館での企画で、舞台付きのホールにプロジェクターで本国版DVDに字幕をつけての上映とのことで、まあ画質が良くなかったのは残念でありました。
映画は主にクリスチャン・ベール演ずる葬儀屋視点で描かれる。教会の牧師を埋葬しにやってきたが、日本軍の侵攻が始まり、戦果を避けつつかろうじて教会にたどり着く。が、もはやそこに大人はおらず、助手の少年と逃げ込んできた十三人の女子生徒が残るのみ。この子役たちが実に素朴な感じなのだが、チャンベールさんの気合い入り過ぎな演技とギャップが激しい! このあたり含め、全体的に日中米合作らしいちぐはぐ感をちょっと感じたところ。
この後でやってくるのが色街から逃れてきた十四人の娼婦たち。半ば強引に教会に入り込んで地下室に匿われることに。
さて、統制の取れていない日本兵が学校に入り込んで、地下室に逃げ込めない女生徒たちをレイプしようとするのだが、チャンベールさんは葬儀屋から偽牧師に変装し、「ここは神の家で、傷病施設だ!」と赤十字マークを広げて思いっきりハッタリをかます。このシーンのチャンベールさん、演技過剰で聖職者に成り切ってしまっていて、いったい葬儀屋設定はどこへすっ飛んだんだ、というキメキメっぷり。後でまた酒飲んで葬儀屋に戻るんだけど……。
南京虐殺を俯瞰的には描かず、あくまでこの教会のみに視点を固定しているが、日本軍の侵攻、占領直後の略奪、その後の統制が取れ始めた時期と、時系列に沿って見せている。侵攻シーンでは戦車VS歩兵の戦闘を描き、その後は凄惨なレイプシーンを持ってくる。どぎついことはどぎついシーンなのだが、末端の兵士はそりゃあこういうことをするだろうな。
渡部篤郎が演ずる日本軍将校が登場してからは暴力シーンは鳴りを潜めるのだが、代わりに真綿で首を絞めるような占領政策への不安が……。渡部篤郎、台詞が何かほぼ棒読みのようで、英語がそんなに下手なのか、と思ったが、チャン・イーモウにここは感情を込めずに演じろと言われたそう。責任を預かる将校とはいえ、彼もまた上層部の言うなりに動いているだけの人間であり、目の前で起きていること、これから起きることに対する良心の呵責を押し殺し、組織の歯車にならなければならない。その人間味は、ピアノ演奏のシーンでわずかに示されるのみだ。
その渡部篤郎将校より、占領記念の祝賀会で、女生徒たちに聖歌を披露してもらいたいと依頼と言う名の命令が……。前回、レイプされかけた少女たちはビビりまくり。この後で、彼女たちが慰み者として供されるのかははっきりとは明示されないんだけど、渡部篤郎が「私も命令されてるんで……」と若干後ろめたげなのがまた嫌な感じに不安を煽る。
少女たちを助けるために、葬儀屋と娼婦たちは一計を案じ、メイクとカットで女生徒に成りすまして入れ替わることに……。
まあこれまたすごいハッタリ精神で、このあたり原作の小説通りなんだろうが、設定からしてさすがにちょっと無理がないか……という気がするところ。例えば占領軍が欧米人ならば「アジア人の区別つかないし!」で誤魔化せそうだが、違うからな……。で、後の連行シーンでは、なぜか顔を知ってる渡部篤郎が来てないのが御都合主義感あり。
また娼婦の一人と、ここでも演技が大マジなチャンベールさんの恋愛要素もあったりと、緊張感と裏腹に結構グダグダ感もあったな……。
もう少し大作かと思っていたが、意外にこぢんまりと局地的な内容で、戦火の中の1エピソードを切り取った感じの映画でしたね。小道具の使い方など含め、まあ面白いことは面白いが、合作のチグハグ感が最後まで抜けない感じで、ちょっと高評価はつけづらい映画でもありました。
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