”傍観者などいない! 人類全てが当事者なんだ!”『ビー・デビル』


 韓国で大ヒットしたR-18指定映画!


 ソウルの銀行で働くへウォンだが、仕事上のトラブルで休暇を取らされてしまう。休暇を利用して、いつも手紙を寄越していた幼馴染のボンナムがいる故郷の島へと帰るへウォン。島はかつてより寂れ、今や九人しか住んでいないが、昔ながらの風景に見えた。だが、島でただ一人の若い女としてボンナムが背負う苦境は、へウォンの想像を遥かに超えていた。へウォンの帰省をきっかけに、太陽が照りつける「無島」で何かが動き出す……。


 「都会(ソウル)は大変なのよ……」


 まるでサム・ライミの『スペル』のような冒頭。会社の論理に従って、老婆の借金の申し入れを断る主人公へウォン。だが、それを曲げて後輩が老婆に金を貸し出す手続きをする。おお〜、良かった。呪われずに済んだね。しかし、内心うしろめたさを感じていた主人公は、後輩を叱責する。若いから、上司に気に入られてるからっていい気になるな……!
 もう一つエピソードがある。へウォンは、街で若い女性が二人組の男に暴行されているのを目撃する。助けを求める声を無視し、その場を離れ……その女性は死体で発見される。目撃者として警察に行くが、面通しでその二人が犯人だと言い切ることが出来ない。彼らに脅され、ようやく確信を持つのだが……今度は報復を怖れて証言できなくなる。


 仕事を休み、故郷の「無島」へ戻るへウォン。そこには、幼なじみのボンナムを含め、9人だけが住んでいる小さな島だ。へウォンの乗った船が島に近づくと、崖の上からボンナムが大きく手を振る。まるで少女のような笑顔で。


 ボンナム、娘、夫、義母、義理の弟、三人の老婆、一人の老爺……。そこへやってくるへウォン。いくつかの関係性がそこに浮かび上がる。都会と田舎、男と女、大人と子供、そして当事者と傍観者。ストーリーは、ヘウォンとボンナムの関係を軸に進行する。
 ボンナムは夫には殴られ、義母らには体のいい労働力として使われ、義理の弟の性欲のはけ口とされている。序盤で浮かび上がるこれらの状況だけで、もう目を覆わんばかりだ。ヘウォンもこれらを目撃する。異常だ、おかしい……。彼女に対し、自分もソウルに行きたいとボンナムは口にする。
 ヘウォン自身、問題を抱え、都会での生活に疲れている。彼女はボンナムを受け入れられない。迷っていても背中を押すことはしないし、とうとう一歩を踏み出しても逆にそれをなじる。面倒ごとを負いたくないのだ。


 ストーリーは進み、島の暗部が一つ、また一つと明らかになる。最初は、閉鎖的ながら最初はまだのどかに見えていた島は、ヘウォンと我々観客に、徐々にその姿をさらす。そして、その中で全てのマイナスを背負って生きてきたボンナムの存在を浮き彫りにし、問いかけて来る。


「あなたはこれを観て、どう思いましたか? そして、どうしますか?」


 ヘウォンはかつて、これら全てを受け入れなかった人間だ。ボンナムを見捨て、島を去った。今や都会の人間となり、この島には息抜きにきただけだ。日焼けしたボンナムと肌の色を比べるまでもなく、まったく別種の人間だ……本当にそうか?
 あらゆる局面で、ヘウォンは傍観者となることを選択する。自分には関係がない。関わり合いになるようなことではない。それは冒頭の2つのエピソードで提示されたスタンスそのままだ。
 主人公がボンナムならば、この映画はある意味「勧善懲悪」的なエンターテインメントとなっていたことだろう。最後の一線がとうとう超えられた時、慟哭は殺意へと変わる。虐げられた女性性の逆襲だ。閉鎖的価値観への反逆だ。男はダメだ、田舎はクソだ……。我々観客はそれに喝采を送り、復讐に酔うことができたはずだった。だが、同じ女性であり都会人であり傍観者たるヘウォンを通し、映画は我々に訴えかける。


「こんなになるまで見過ごしにした貴方、自分に罪がないとか思ってやしませんか……?」


 観客席なんてない。周到なプロットだ。「都会(ソウル)は大変なのよ……」幾度か繰り返される台詞だが、人に紛れ、他人やシステムのせいにして傍観者たり得る都会とは違い、わずかな人間しかいない田舎の孤島では、否応なく当事者たらざるを得なくなる。しかし、それは本当は都会や田舎の差異などではなく、我々一人一人の姿勢に問われることだ。


 印象深かったシーンがある。
 とうとう島を離れ、本土へとやってきたボンナム。船を出して彼女を運んだ男は、船賃の一部を返し「ソウルでうまいものでも食えよ」と言う。「いい人もいるんだ……」ボンナムはつぶやく。生まれ変わったような姿で……うん、結構いけてるよ、全然悪くないよ。まともにも見えるよ。そのまま、男の言う通り、バスに乗って新たな人生を始めることも出来たのかもしれない。だが、あるものを見た彼女は、決着をつけるために、最後の復讐へと踏み出す。港に、ボンナムが島から履いてきた、歩きにくいハイヒールが脱ぎ捨てられている。それはもう一つの人生の象徴、夢見たはずのものだ。それを捨てることになってさえ、決して許すことはできないのだ……!


 小さな一つ一つの積み重ねで、過去に行ったほんのちょっとしたことで、あるいは回避できたかもしれなかったこと。見逃すべきではない。私も、貴方も、誰もが当事者なのだ。


 さて、真面目に書きましたが、もちろんR-18の切株描写も最高ですからね〜! 上で書いたとおり、素直にワクワクできない要素も孕んでますが、生活・農耕用品を駆使して切り刻みまくってますから! 味噌も良し! 都会と田舎の対比については、沖縄ホラー映画『アコークロー』を思い出しました。多彩な視点から読み解ける、重層的な作品。これはプッシュしたい。

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