なにものにもなれなかったもののけ『WXIII PATLABOR THE MOVIE 3』

EMOTION the Best WXIII 機動警察パトレイバー [DVD]

EMOTION the Best WXIII 機動警察パトレイバー [DVD]

 DVDで鑑賞。
 押井守の1・2作目を経て、監督変わって『機動警察パトレイバー』劇場版3作目。


 東京湾に墜落した貨物機。それと時を同じくして、湾内に巨大な魚が発生。さらに、レイバーや人間に対する襲撃事件が相次ぐ。傷だらけになったレイバー、原型を留めぬ人体……。捜査に当たる刑事たちの眼前に、巨大な怪物が姿を現す。「廃棄物13号」……米軍と自衛隊が密かに協力して生み出した生物兵器。本来なら細胞に埋め込まれた時限装置によって自壊するはずの怪物は、生みの親である女科学者によって、その力の全てを解き放たれていたのだった……。


 ま、実を言うと、1も2もそれほど好きではない。両作の敵役に託された押井監督の超人願望(と言うより「神」か……?)には辟易し、さらに南雲隊長とセックスしたい願望には怒りに打ち震えたね!
 それでも、亡くした者を想うやり切れなさ故の行動とか……崩壊の危機と裏返しの日常描写とか……ヘリが飛ぶシーンの臨場感とか……凄いことは凄いよ、やはり。逆に話はダメなんだが、好きなのは『スカイ・クロラ』。


 話が逸れた。
 そういうわけで、それほど1・2に思い入れもないわけだし、巷で聞くような悪評もさほど気にせず、監督の変わったこの『3』を、「怪獣映画」として楽しめるんじゃないかな?と期待したわけだ。元の話はマンガ版でも独立してピカイチの面白さを誇る「廃棄物13号」編。グリフォン絡みの話よりも、断然好きなんだよ。


 と こ ろ が …………………。


 ひい〜つまらん! 傑作エピソードを拝借しながら、こりゃなんだ!
 まず13号のデザインが超かっちょわりい。姿が見えないシーンではまだ期待を持っていたのが、ばば〜んと登場した時点で……え……大きいの? これ? まず巨大感が人間と絡むシーン以外で一切表現出来てない。カラーリングも単色べた塗りで、背景の中で動いているシーンには、なんのスピード感も臨場感も感じられない。はやばやと全身が映されるので、大きさがかえって感じられないのだ。目が触手の先端に移動し、顔は口以外のっぺらぼう。なにか原始的な生物のようだ……。いやいや、違うだろ! こいつは「宇宙怪獣」で、その超再生能力も原始的だからではないだろ! レイバーを着込んだりするのも、高い知能があるからなんだよ!


 マンガで最も唸らされたのは、この「レイバーを着る」という発想だった。生身でイングラムと交戦し、力とスピードこそ誇示したもののリボルバーで大きなダメージを負わされる。読者に「これはいざとなれば力で殲滅可能だろ」とミスディレクションしておいて、レイバーの装甲を着込むことでその弱点を補強し、さらに知能を誇示してみせる。演出面でもイングラムとの再度の対決を「疑似レイバー戦」にまとめる効果を併せ持っていた。


 が、丁寧にその意味づけが描かれていたマンガ版に対し、そこらへんの描写がおざなりすぎる! 怪物登場から、その特性が発覚し、さらに弱点が明らかにされるまでの流れが弱い。
 特定の音波でおびき出される、という部分はその中でもちゃんと描かれていた方で、序盤の刑事二人の捜査が実を結んで、明らかになる。そこはまあいいんだが、聞き込みシーンの日常描写が、劇場版1・2の単なる模倣。いや、1と2は、この日常が間もなく崩壊するのでは?という恐怖感が裏側にあったから、ともすればかったるく、近未来の話に見えない民家やボロアパートの描写が生きていたわけですよ。それが今回は怪獣一匹の話で、そんな危機感は欠片もないわけです。じゃあ全然意味がないだろ!


 「怪物」が生み出された動機も、家族を亡くした女科学者の悲哀……なんだけど、その中身が描かれてないんだよね……記号だけで。マンガでは、父の功績である「怪物」をこの世に残すため、という動機が描かれたんだが、その父親が発見者という設定だけは残しながら、家族の死という設定をも付け加えたことで、非常に散漫になってしまっている。


 彼女と知り合った「主人公」の刑事にしても、その彼女の哀しみの奥底に触れることは出来ずじまい。はぐらかされて物語は終わる。ここを深く突っ込まないから、怪物相手の掃討戦やってる横で愁嘆場やっても、まるで効果が上がらないのだ。
 で、全てが終わって残るのは、刑事二人の関係……って、なんだそりゃ? 人の意識の変容を描いた1・2に少しも迫らず、単に演出のカッコだけをなぞってしまった。押井ごっこだけやってもしようがないだろ! 特車二課の背景ぶりも、いくらなんでもこのドラマへのノータッチさはやりすぎだと思うよ。


 怪獣ものにも……恋愛ものにも……浪花節にも……なんにもなれないまま、中途半端な形で、「廃棄物13号」という稀代のもののけが浪費されてしまった……。まことに物悲しい……。

機動警察パトレイバー (7) (小学館文庫)

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機動警察パトレイバー (8) (小学館文庫)

機動警察パトレイバー (8) (小学館文庫)

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