"灰色の目が視るものは"『ビースト・ストーカー/証人』


 『密告・者』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20111106/1320573887)以前に撮られた、ダンテ・ラム監督作!


 有能だが部下に苛烈な刑事トンは、ある日、銃撃戦の末に誤って幼い少女を射殺してしまう。三ヶ月後、自らの過ちに苦しむトンの前で少女の妹が誘拐された。少女たちの母アンは検事で、重犯の裁判に当たっていたのだ。証拠の隠滅を要求されるアン。トンは単身、少女を取り返そうとするが、誘拐犯であるホンは凄腕で、次々と追跡をかわしていく……。


 ニコラス・ツェーが刑事で、ニック・チョンが犯罪者という『密告・者』と逆のキャスト。ニコラス・ツェー刑事は自分は仕事できるけど厳しすぎて部下に怒鳴りまくる、いかにも未熟な感じのキャラクターだったのが、犯人の追跡中に人質になってた少女を射殺してしまい、さらに部下にも一生ものの負傷を追わせてしまう。自分は完璧、みたいな顔して部下を叱責していたのが取り返しのつかないミスを犯したことで、自信を喪失して贖罪の方法を求めている。……なんだけど、なかなか素直に謝れなかったり、やっぱりダメな奴であるところが良いですな。コミカルな味わいはまったくないから、よりダメな部分が際立つ。


 対するニック・チョンはまた奥さんが大変なことになる話。片目が失明していて灰色。全身麻痺した妻を介護していて、そのためか誘拐殺人で大金を稼いでいる。その過去も少しずつ明らかになって行き、こちらもダメ人間だったのが人生の危機と挫折を迎えて成長した、という話になっている。が、人間的には成長して奥さんのために親身になるようになったのはいいが、そのためにより非道な犯罪に手を染めるようになったというのは皮肉だね。


 ニコラス・ツェーの成長物語としては若干弱く、全体のストーリーテリングとしては『密告・者』の方を推す。が、年端もいかない幼女の死とそれが繰り返されるかもという恐怖、繰り広げられる誘拐、殺人、事故、どれも強烈な肉体の痛みが描写され、あるいはそれによって身体の機能までも失うことが徹底的に印象づけられる。シリアスに徹した演出と強烈な身体性の描写が光り、失ったものの大きさを痛切に訴えかける。そして、それでもなお生きる事も。
 なるほど、これを先に撮り、続く『密告・者』ではよりメンタル的な部分に切り込み、ストーリー性を高めたわけか……。


 娘を思う検察官を演じたのはチャン・ジンチュー、あ、『唐山大地震』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20101224/1293165278)の人か。これも熱演だっただけに日本公開が飛んだのは残念。裁判シーンではあのモーツァルトカツラをかぶっているのだが、これが結構似合う。このカツラ、最初に観たのは『ポリス・ストーリー』だったかな?
 ところで時々ニコラス・ツェーが不意に鼻血を垂らすシーンが何度かあって、これは当然『SPL』のサイモン・ヤムみたいなラストが待ち受けているのかと思ったけど、違いました。ありゃ、いったいなんだったんだ……。

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