"このふしだらな女めが!"『狼たちのノクターン』


 香港映画祭り、最後の一本!


 20年前、少女をレイプし殺害した罪で服役したウォンと言う男が出所する。かつて死んだ少女の父親であり、有名な音楽家であるツイが殺害され、死体となって発見されたことで、香港警察のラムはウォンを追い始める。ツイの二人目の娘シューが20年前に死んだ長女と生き写しであることから、ウォンの犯行であることは決定的だと思われたのだが……。


 何かと扱いが不遇で、本国から数年遅れで公開されることなどざらで、ファンをやきもきさせてくれる香港・中国映画だが、昨年から企画型でのセット公開が相次いでいる。


 夏は、
『盗聴犯 死のインサイダー取引』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120811/1344655574
『盗聴犯 狙われたブローカー』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120812/1344749492
白蛇伝説』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120821/1345547619


 秋にはノワール特集として、
『やがて哀しき復讐者』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121019/1350556123
『コンシェンス 裏切りの炎』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121023/1350969905
『強奪のトライアングル』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20121021/1350822481


 この冬に
『大魔術師"X"のダブルトリック』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130105/1357385451
『最愛』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20130113/1357991876


 そして今作。さすがに抱き合わせのイベント上映で回数も少ないとは言えど、これだけの作品数が公開されると壮観である。ここ数年の公開の遅れを多少なりとも取り戻せたような……。が、これだけ公開すると、いかに傑作選と銘打たれていても、内容、出来の差が出てくるはの如何ともしがたいことである。


 今作にはやられたなあ。レイプ殺人の犯人であり、刑務所で知力と戦闘力を磨き上げて怪物となった男ニック・チョンが出所し、かつて殺した女と生き写しの少女を狙う……というのが表向きのストーリー。まあこちらもこの表向きの筋の裏側を色々と想像しながら見るわけだけど……映画が始まって十分で、みんな読めちゃったよ! いやいやいやいや、この伏線、あからさますぎるよ! こいつが真犯人に決まってるやん!


 事件の真相に対する伏線と、ニック・チョンがいかに恐ろしい男かをミスリードしていく描写が並行して進むんだが、頭から滑ってるから、どっちもすごくわざとらしく大仰に見えるのだよなあ。親子愛と快楽殺人の逆転がネタなのだが、これは火曜サスペンス劇場並のストーリーだ。さらにニック・チョンは自殺未遂で喉を怪我して以来、口が利けないという設定なので、代わりにサイモン・ヤムが台詞で説明する! それは想像にすぎず、結局は真相は藪の中、ということなのかな、と思ったら、最後はメールで告白してるし……。さらにどう考えても話のつじつまが苦しいところを、追加で撮影したようなシーンでエンドロール中にまたもサイモン・ヤムが説明……『デスノート』の最終回かよ!


 元のストーリーの陳腐さを、構成や役者の演技でどうにかしようとひねくったけど、結局どうにもならなかった、という印象。ニック・チョンの大熱演がすごいんだがなあ。出所後すぐ、アイス食って女の子の生足眺めてニヤニヤするところとか、真相から逆算したら完全にやり過ぎなんだが、そういうところも失敗なんだよね。


 さて、今回の冬の三本の結果次第で、また次があるかどうかも決まるそうだが、どうなるのかなあ。他の二本は面白かったし、客入りはそれほど悪くなかったように思ったがはてさて……。