『いばらの王』(ネタバレ)


いばらの王 -King of Thorn- [Blu-ray]

いばらの王 -King of Thorn- [Blu-ray]

 ひさびさに劇場版アニメ。


 発症すると人体を石化させ、死に至らしめる奇病メデューサ。世界に蔓延したこの奇病への対策として、治療法の確立されるであろう未来へと、保菌者をコールドスリープさせる計画が発動する。だが、冷凍睡眠から目覚めた保菌者を待ち受けていたのは、異形の怪物が闊歩し、巨大な茨に覆われた施設だった……! 世界に何が起きたのか? 彼らの運命は?


 ……という、結構、壮大な設定のストーリー。なんだが、ややセカイ系のノリというか…‥(笑)、施設以外の世界のことは、すぐにどうでも良くなってしまう。序盤にそこそこの分量を割いて、世界の危機を語るから、そっちこそが本題なのかと思いきや、主人公のトラウマの方が主軸になる。
 主人公は双子の姉妹の片割れ、メガネっ子と非メガネっ子の内のメガネの方。非メガネっ子は冷凍睡眠は受けられず現世に残り、メガネっ子の方のみがコールドスリープされ、それを気に病んでいる……という設定。容姿は同じだが、メガネの有無と手足の傷、さらに性格の違いで差異が表現されている(声優も違うんだが、よくわからなかった)。
 冷凍睡眠中は「夢を見る」という伏線と合わせ、この双子ネタであれこれオチを想像しながら見たのだが、ここら辺りはそこそこひねってあって、単純な真相ではなくなっている。が、設定が段々何でもありになるからなあ……その何でもありの文脈の上で意外なラストを提示されても、真相がそれである必然がいささか乏しく感じられるんだな。


 実は結末について、「なるほど、こういうことだったんだな」と解釈してたことがあったのだが、どうも公式サイトの隠しの記述を見たら、違うらしい。ネットで見た他の観客の解釈も二通りあり、オレの解釈はその片方。


 冷凍睡眠前に非メガネ崖から落ちて死亡→メガネ発狂、能力暴走→メガネ、塔の上に隔離→メガネ、非メガネの死を認められず、冷凍睡眠の記憶を植え付けた非メガネの死を知らないもう一人の自分を生み出す


 ……という流れだと思ったんだよな。ところが、


 冷凍睡眠前にメガネ崖から落ちて死亡→非メガネ発狂、能力暴走→非メガネ、塔の上に隔離→非メガネ、メガネの死を認められず、冷凍睡眠の記憶を植え付けたもう一人のメガネを生み出す


 ……だったらしい。えっ、でも塔の上にいたのはメガネの身体だったんですけど、あれは崖下の死体を回収したということだったのかな? 社長の台詞で、「能力者は冷凍睡眠予定者以外にいた」というのがあって、なるほどそれなら後者の解釈の方が当てはまる。……が、その場合、非メガネの身体はどこへ行ってしまったのだ……?


 あと、精神的に脆いメガネと、前向きな非メガネという構図がしきりに強調されていたのに、世界に絶望したいばらの王の正体は非メガネの方だった、というのはいささか座りが悪く感じられる。前向きな中に脆さを内包していた……というような演出もなかったしなあ。あと、非メガネがメガネの記憶を何から何まで再現できるはずもないし、メガネコピーは記憶の欠落した(あるいは矛盾がある)不完全な存在だった、ということにしても良かったのでは。
 ただ、双子を使う以上、やっぱり「入れ替わってました!」というトリックを使ってて欲しいという思いもあり、見ながら最初は後者の解釈だとばかり思っていたのだ。結局主人公は入れ替わっていたのではなく複製だった、ということで、自由度の高い設定が逆に結末を捻らせすぎ、ロジックの整合性を失わせたといっていいかもしれない。


 んん〜、まあ面白いところもあったんだが、ちょい惜しい作品であった。詰めが甘い、と言うよりは、色々と盛り込んだが練り込み不足だった感あり。世界の話も、結局どっか行っちゃったままで終わるしな。

いばらの王 (1) (Beam comix)

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