”彼の成し遂げられなかったこと"『曹操暗殺』


 ひさびさ、三国志映画!


 魏王として権勢を振るい続ける曹操も、晩年を迎えつつあった。彼の専横を嫌う一派は長い時間をかけて密かに暗殺者を育成し、宮中へと送り込む。宦官の穆順、妾の霊雎……。だが、標的である曹操の知られざる一面に、二人は逡巡を覚える……。


 中国映画の公開状況も相変わらず不遇だが、『三国志英傑伝 関羽』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20120119/1326956879)なども含め、やっぱり三国志ネタはフックとして強いのかな。チョウ・ユンファ主演作ということもあって単独で公開。日本からは玉木宏も出演してますよ。


 タイトル通り曹操暗殺を目論む組織が、男女一人ずつの暗殺者を、一人は宦官、一人は愛妾として送り込む。「玉木宏」が「玉」を切り取られて「木宏」になる衝撃のオープニング。いや、ツルツルした人だし、宦官役は結構似合ってたよ。でも台詞は吹き替えかな?


 時代は荊州陥落後で、関羽の死の直後。曹操は頭痛持ちで、そろそろ晩年という時期ですね。計らずも『三国志英傑伝関羽』の直後の時代でもある。今作は演出が異様に重たくて、重厚さを出そうとしてすっとろくなっており、その割にキャラクターの心情などは深く描けていない、といういささか苦しいものになっている。まあチョウ・ユンファって、雰囲気はあってスターだけど、そう演技が上手い人という感じはしないのだよね。
 さらに時代が時代で、晩年ということもあり、赤壁以降の曹操の何もしてなさが際立つ。女に汚く地位に汚い、息子曹丕の小人物ぶりをギャップに使って、威厳を出そうとしているのだが、やっぱり全盛期を過ぎちゃった人の悲哀の方が強く感じられたね。


 『甘い殺意』(http://d.hatena.ne.jp/chateaudif/20140401/1396347059)のアレックス・スーが献帝役で、歴史を知ってればこの後で曹丕に帝位を奪われることがわかっている。果たして、曹操暗殺を目論む組織がトップに頂いているのは彼なのだけれど、魏王に止まりついに帝位を得ることはなかった曹操こそが、言わば歯止めとなって彼を守っていたのだという皮肉めいた構図が明らかになる。
 曹操の天下でも特に民が貧しいわけではないが、彼が帝位まで取っちゃうと逆に偽王や反乱が頻発するから、こうして飼い殺しになってた方が、お前自身にとっても漢朝にとっても実は一番いいんだよ、という理屈である。しかし、これは後の曹丕登極後の劉備孫権の戴冠をも指しているのだろうが、いかにもいじめっ子の現状維持のための理屈のようで、釈然としないね。要は強い者が勝ち、権力を得ているという構図にすぎないのに、妙に美談めいた話をこじつけて正当化しようとするあたりが臭い。『演義』の曹操=悪役というイメージから離れたいが、変に人間味を付与しようとしてすべっている感がありあり。
 話の筋が割と『演義』に忠実なので、解釈だけでキャラクターを変えようとすると無理が生じ、歴史修正主義のようになってしまうのだな。もう少し、物語にも大胆な改変が欲しかった。とはいえ、『関羽』みたく美化しすぎると、なんでこの人が赤壁で負けたんだろう、ということになっちゃうのだが……。


 しかし原典に忠実とか思ってたら、後半に仰天設定が! 貂蝉曹操呂布の敗退の際に面識できたのはいいとして、呂布の娘は貂蝉との間の子ではないわな。曹操呂布関羽に同時代の武人としてシンパシーを感じていて、それは献帝曹丕には永遠にわからんのだ、というあたりは面白い解釈だったし、呂布の娘という歴史から消えた存在にスポットを当てたあたりも良かった。が、やっぱり貂蝉まで引っ張り出して美女設定を付け加えるのはやり過ぎ。


 原題は『銅雀台』で、スポットの当たりにくい晩年の曹操を描きたかったのだろうが、暗殺者なんか出して派手な話にしようとしたものの、やっぱり地味な時代を短い時間で描こうとしてもどうにもならなかった……という感じですね。エンドロール見たら、曹操麾下の名だたる武将、夏侯惇曹仁も出ているのだが、誰が誰やらまったくわからんかった!

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