『マイレージ、マイライフ』


マイレージ、マイライフ Blu-ray

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 アカデミー賞ノミネートの、出張映画。


 リストラ宣告と再就職支援企業で働くライアンは、一年の内の実に320日を出張で過ごす。姉や妹は、私生活の無きに等しい彼を気にかけるが、講演で「バックパックに入らない荷物は持たない」と語る彼は、意に介さない。しかし、新入社員のナタリーの発案で、ビデオチャットが導入され、アメリカ全土を股にかける出張の日々は終焉の危機を迎える。キャリア不足のナタリーの研修を任された彼は、彼女を連れて不承不承、最後の出張に赴くのだが……。


 だいぶん脂っ気が抜けて来たジョージ・クルーニー。『フィクサー』に続き、今回も人生の転機を迎えた男を演じる。出張してばかりだが、旅先で同じ出張族の女と意気投合したり、そもそも飛行機オタクなので飛行機や飛行場自体が大好きで、さらにマイルを貯めるのが楽しみ。家に帰らない生活も「人生における一つの選択」とうそぶく。だが、妹の結婚や出張廃止の危機が、関わらないできた「違う生き方」をちらつかせる。一つ所にとどまり、家族を持つ、一人ではない「普通の生活」。
 今までが間違っていたとは思わない。でも、放り捨てて来たものをふと顧みて思う。別な生き方もあるんではないか。カードをたくさん持った、ある意味セレブリティな大企業の出張族の話だが、投げかけられるテーマは、家族を持たない人間にとっては共通のものだろう。リストラ宣告という、人に対して「人生の転機」を迫る職業であるという設定が、そこにまた一つの重みを加える。


 で、中年の坂で転機を迎えた主人公は、その「違う生き方」を選んでもいいかもしれない、と思うのだが……そんなにうまくいかないんだよね。そんな急に生き方を変えることなんてやっぱりできなくて、今まで選んで来た生き方自体が、そうでない生き方を歩む事を許さない。変わろうと思っても変われないし、訪れたと思った転機さえもが、今まで選んで来た事の延長でしかなかったことが明らかになる。そして、自分の人生そのものが、他人にとっては本物の裏の仮の人生でしかないことを思い知らされる。


 やるせない気持ちを抱かされるが(うっうっう、泣けるのう)、映画はそれを否定も肯定もせず、我々にただ投げかけて終わる。
 うむ、昔のクルーニーは、あまりにチャラチャラとプレイボーイしてて好きじゃなかったんだが、今なら乗れる。いつか同じような転機を迎えるかもしれない自分をクルーニーに重ねても、違和感なし!
 ビターな味わいが愛おしい、大人の映画です。

フィクサー [DVD]

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