”彼は昔の彼ならず、されど……”『建築学概論』


 韓国で初恋ブーム!


 建築士のスンミンの所に現れた、ソヨンという女。彼女はかつて大学時代、同じ建築学概論の授業を取っていた同級生だった。突然、家を建ててくれというソヨンに振り回されるスンミン。スンミンはそれと共に、かつての記憶を呼び覚まされる。美しくも苦い、初恋の記憶を……。


 建築事務所に務める主人公(平社員)のところに、かつての大学の同級生が訪ねてきて、不意に家を作れと言ってくる。最初は誰かわからなかったけど、記憶の底に封印されていた初恋の思い出が甦り……。


 主役の人がなかなかいい感じの地味メンで、実に華がない。かつての気弱でオタクな童貞が、なんとかかんとか大人になったような、いかにも等身大の姿。しかし、再会したヒロインには、かつての童貞扱いでバカにされるのだが、実は彼は遥か年下で超美人の婚約者をゲットしていたのであった……! 彼は昔の彼ならず。非モテ時代なんて昔の話だ。そんなわけで、かつての苦い初恋の思い出を掘り下げるとか、ちょっとご勘弁こうむりたい気持ちもある。今は幸せで、完璧じゃないけど充実してる。人生設計も目標もあるし……。だけれど、心は自然と昔へと帰っていく。


 対照的にヒロインの方は人生に行き詰まり、離婚して父親の介護を背負い、過去を懐かしみたい気持ちになっているのだな。楽しいばかりの思い出でもなかったけれど、今も消えずに残っていたものが、人生の転機に当たって不意に顔を出す。


 初恋の相手との十数年ぶりの再会、失われたはずだったかつての約束……。十数年前の大学時代と、中年になって再会した現在を並行して描く。当時はごく自然に縮まっていった距離感が、今は何か壁ができたままなのがもどかしい。それこそが十数年の歳月なのだね。
 大学時代と現在は、もちろん別の役者がやっている。似てるっちゃあ似てるけど、まあ別の人だわね、と、脳内補完込みで見ていたはずが、現在パートのキャラたちが過去とその時の心情を思い出して仕草までもシンクロさせていくに連れて、しっかり同一人物に見えるようになっていく。それに合わせて二人の心が急速に近づいて行くのがわかる。大人だから、それでもまだ全てにおいて自由にはなれないのだが、あの時つかめなかったものに、今まさに手の届くところに来ていることにお互いに気づく。


 途中までは「地味やな〜」と思っていたのだが、主題曲以外、音楽をほとんど使わない演出がじわじわ効いてくる。大きな「イベント」の起きない物語の中で、二人の声にならない気持ちだけが高まって行き、ついにその瞬間が……! いや〜、クライマックス、ここに来てついにその地味さ、ストイックさが、逆に連城三紀彦の小説のような詩情にまで昇華されたよ! すげえ!


 主人公の昔の友達がルイス・ファンに似ていたな……。大学時代のコメディ・リリーフという感じだったが、なかなかいい味でした。建てる家のややシャレオツなセンスと、ノスタルジーのバランスもいいし、ほろ苦いラストも泣けたね。この地味さでブームになるというのも驚きだが、いい映画。

建築学テキスト 建築概論―建築・環境のデザインを学ぶ

建築学テキスト 建築概論―建築・環境のデザインを学ぶ

  • 作者: 本多友常,大氏正嗣,柏木浩一,安原盛彦,佐々木葉二
  • 出版社/メーカー: 学芸出版社
  • 発売日: 2003/03/30
  • メディア: 大型本
  • クリック: 1回
  • この商品を含むブログを見る