"楽園は厳しく優しい"『ファミリー・ツリー』
アカデミー賞ノミネート作。
地味そうだし、普通にスルーするつもりだったけど、某劇場がDLP導入を控えているため、最後にフィルムで何か観ておこう、ということで思い出作りのために観ました。
オアフ島で弁護士として働くマットは、先祖から受け継いだ土地の売却に頭を悩ませていた。ある日、ボートが趣味の妻が海で事故に遭い昏睡状態に。仕事にかまけて放り出していた娘の世話に四苦八苦する中、なんと妻が離婚を考えていたことを長女に知らされてしまう。怒り心頭で不倫相手を探すマットだが、妻の容態は回復せず……。
仕事一辺倒だった夫が、妻が倒れたのを契機に娘二人と良い家族になろうとする決意は、早々とナレーションで語られる。
事が起こってから初めて後悔し、問題を注視してこなかったことを悔やむ、という話だが、奥さんが事故ったんじゃなくて普通に「離婚よ!」と言い出してた方が面白かったような気がするなあ。子供もそこそこ育ち、ボートに青春を見出し、恋愛もして、離婚と言う新たな門出を迎えんとしてたんだから、この奥さんはわりとハッピーだったんではないか。事故らなければ楽しい人生が待ってたかもしれないのに。
ジョージ・クルーニー演ずる夫の打ちのめされっぷりの演技は面白く、これはそのまま修羅場を迎えてたらどんな顔をしたのだろう、と気になってしまった。たぶん、大げんかして追い出してたんだろうなあ、うん。
そんなこんなを抱えて、意識を失ったままの妻に対し、怒りや恨み、愛や悔恨、色んな感情をぶつける機会を失ってしまった男が、それをどう消化していくかをハワイの自然の風景に乗せて淡々と描く。彼女はもう二度と口を開かないので、心の中でごちゃごちゃしたものは、自分でなんとか片付けてしまうしかないわけだ。元気な時の彼女というのは、ほんとに冒頭のボートに乗ってる時の笑顔のカットしか登場しない。
色々な問題は確かにあったのだろうが、それらを片付ける機会は失われ、二度と帰ってくることはない。今作はクエスト的に問題の解決を目指す作劇にはなっておらず、「良い夫」になる機会はもう二度とないことを、主人公はすぐに否応なしに思い知らされる。それでも必死になって不倫相手の男を追い求める姿は、滑稽で哀れを誘う。そいつが愛もなく大した男でもないことを知り、結局妻を看取ることができたのは自分だったということは、少しは慰めになったのだろうか。
情報量が少なめで、事故以前の夫婦関係や親子関係の描写は、倦怠し冷めていたことがぼんやりと連想させられるのみ。「原因」や「解決策」は一切提示されず、なにも出来ずただその時が訪れるのを待つ中で、無意味かもしれないけれどあがき続ける、でもまさにその意味を考えさせられる。
ま〜しかし性善説寄りで、子供はなついてくれるし、DQNかと思った奴もいい奴だし、不倫野郎だけが微妙にしょうもない奴で、状況の設定としてはぬるい目(いや、そりゃあ奥さんが倒れればそれだけで大変なんだけど)。クルーニーのキャラクターにも強烈な個性はなく、その弱々しさに自分の事として感情移入しなければ単につまらない男なんだよね。弁護士とか土地持ちとか、そんな設定が必要なのかさえもよくわからないぐらいの平凡さ。その地味さが味だな。
すべては自然なままに流れ、死者もまた愛した海へと帰っていく。そこに身を委ね生き続けるためにはハワイの大地が必要なのだな。楽園とは、冒頭のナレーションで語られるアロハ着て踊り狂うような頽廃的なものではなく、もっと優しくて厳しいもの。全てを受け入れ包み込み、人間から見れば連れ去ってしまう、原始そのもの。苛烈なようでいて我々とつながった存在なのだ。
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