『すべて彼女のために』


 国語教師のジュリアンは、記者である美しい妻と、幼い息子の三人家族。だが、ある日、身に覚えのない上司殺しの容疑で妻が逮捕される。冤罪との訴えも空しく、三年に渡る再審請求も棄却。懲役二十年の刑が宣告された。獄中生活に耐え切れず、自殺を図る妻を見たジュリアンの取った行動とは……?


 いや〜、予告見て、なんとなく「妻の冤罪を晴らそうとする社会派っぽい映画」だと思ってたんだよね。ところが、蓋を開けたら「大脱獄映画」だったという……(笑)。


 主人公はヴァンサン・ランドンという役者さんなのだが、顔は濃いけど、なんかうらぶれてて、年も行ってて(50歳!)、なんでこんなラブってるのかわからない美人嫁ダイアン・クルーガーとは、いかにもアンバランス。それが嫁が投獄されてしまい、幼い息子を一人で育て、より年輪を深めた感じになってしまう。父親とは何年も口をきいてないが、時々、子供を預かってもらわなきゃならない。もう見てるだけで息苦しい感じ。そして再審請求も却下され、嫁はプレッシャーに耐え切れず自殺未遂。事態は最悪。
 しかし! 妻を脱獄させることを決意し、計画を練り、色々とやばいことに手を染め始めたあたりから、俄然顔つきが引き締まり、凄みを増し、段々クライブ・オーウェンに見えて来るのだ!


 地味なんだけど、無駄な台詞を排した手堅い演出と、細かい演技で魅せてくれる。
 口利いてなかった父が、計画前日に、高飛び用のパスポートと航空券を見てしまう。息子の様子がおかしいことには以前から気づいていて、気遣うような視線を投げかけていたのだが、そこで息子が計画していること全てを悟る。
 翌朝、子供を連れて「じゃあまた」とか何とか言ってなにげなく出て行こうとする息子。実は、これが今生の別れなのだ。しかし父は口を利かず……無言で息子を抱き寄せる!
 うわあ、止めへんねんや!と思ったものの、泣けたな〜。
 他にも、母が逮捕される時に泣き叫ぶ赤ん坊のシーンとか……死にたくないと叫ぶ売人とか……ちょっとしたところがいちいち胸に迫る。


 丁寧に作ってあって、好感の持てる一本でした。