”我は雷神”『マイティ・ソー バトルロイヤル』


「マイティ・ソー バトルロイヤル」日本版本予告
 シリーズ第三弾!

 オーディーンの死とともに、かつて彼とともに宇宙で猛威を振るった女神ヘラが甦る。彼女はソーとロキの姉であり、凄まじい力を誇り、ムジョルニアさえも粉々に砕いてしまう。宇宙の彼方に飛ばされたソーは、闘技場でハルクと再会するのだが……。

 何かと不評だった第二作は、一作目でソーの成長物語を語り終わっていて、エンタメ路線に走るには悪役が顔に色塗った誰も知らない人でパンチ不足であり、『アベンジャーズ』の後始末の話もしないとだし、やっぱりロキは活躍させないといけない……とまあ、あちこち縛りが多すぎましたね。

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 ナタリー・ポートマン以下、地球の学者組をバッサリカットして、舞台をアスガルド他のソーたちの世界にほぼ限定。監督は『シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』のタイカ・ワイティティ。これによってダーク、ゴシックなムードを一掃し、やたらとコメディタッチに。
 前作ラストのオーディーンと入れ替わったロキのネタもさらっと拾い(ここの中身がロキのアンソニー・ホプキンスの演技がふざけすぎてて面白い)、オーディーンは地球の老人ホームにいたことが明らかに。そして早々と消滅の時を迎えるのであった。このシーンでもパジャマみたいな格好してるから笑える。
 そして、かつてオーディーンと共に宇宙を制覇しようとしていた長女ヘラ、演ずるはケイト・ブランシェット様が復活し、ソーに挑戦してくる。開始早々、ハンマーを砕かれて去勢されるソー。前作まで「ムジョルニア可愛い!」とか言ってた人たちはどう気持ちの折り合いをつけたのだろうか?

 前作で契約が切れたかと思われていた浅野忠信が帰参していたが(代わりに他の二人は消滅)、強すぎるヘラ様の前に敢え無く惨殺され、なかなか気の毒な感じであった。まったく話題にもならなかったし……。

 ハンマーを無くして宇宙の彼方に飛ばされたソーさんは、コロッセオに駆り出されて、行方不明だったハルクと試合することに。ハルクはずっとハルクの姿のままでそのまましゃべり、ジキルことバナー博士はなかなか出てこない。しかし、やっと出てきたと思ったら、出てこない間にバカがうつったのか、酸素欠乏症にでもなったのか、ギャグ担当の中でもずーっとボケっぱなしで、ひどいキャラになっている……。
 ソーさんは一作目でも一回チンコを無くしたわけだけど、今作はそれを取り戻すのではなく、いやハンマーなしでも俺は俺なんですよ、というスーツやら盾やらを無くしたのと同じ境地に。それに伴い、民を導くアスガルドの王たる資格をようやく手に入れる。
 今回は実姉であるヘラ様が喧嘩強すぎて、ハンマーなしで雷パワーを発揮するソーさんでもやっぱり歯が立たないわけだが、そこで戦って勝つマッチョさではなく別な道を選んでしまうところが肝か。

 一作目ではメインの悪役、『アベンジャーズ』でもメインの悪役、『ダークワールド』でもトリックスター的な立ち位置でメインキャラ……ということで何かと役割の負担が大きかったロキちゃんも、やっと落ち着けた感あり。コメディリリーフしつつ美味しいところを持っていく二枚目から三枚目の間ぐらいのポジションで、悪女キャラっぽいとこもあり。殺すわけにはいかない人気キャラなので、物語の絡み方もこれぐらいにしておくのがちょうどいい。
 が、次の『アベンジャーズ』でまたやらかすことにならないか心配だな……。

 前作までのテイストをぶち壊すのは良し悪しという感じだが、単発ソーシリーズとして一区切りつく三作目ということで、まあこれぐらいはっちゃけるのはありか。まずまず面白かったですね。

“狂気の戦士”『機動戦士ガンダム THUNDERBOLT BANDIT FLOWER』『機動戦士ガンダム Twilight Axis』


『機動戦士ガンダムサンダーボルト BANDIT FLOWER』予告編

 ガンダム二本立て!

 なんか上映時間長いな……と思ったら、二本立て上映でした。

 先に『Twilight Axis』から上映。UCから数ヶ月後のアクシズを舞台に、調査に入った連邦の特殊部隊が謎の部隊の急襲を受ける、という話。調査に入ったのが元ジオンの技術者とテストパイロットで、アクシズ内に残っていたMSを起動させて反撃する……。
 30分ぐらいの話なのだが、過去回想である1年戦争時代の話と現在のアクシズを細切れに前後させながら進めるので、とにかくわかりづらい。時代背景ぐらいは飲み込んでいないと話にならないのだが、それ以上に主人公たちの過去に多大な影響を与えたらしい「シャア」と「ララァ」が、まあセリフもないし非常にぼんやりとイメージ的に登場して、実に過去の名キャラクターらしく思わせぶり。まあ要はそれっぽいことがあったんですよ、という便利な使い方をされているのだな。

 尺が倍もあれば、主人公二人のキャラをじっくり描けたと思うが、すべてがイメージの羅列でぼんやりしている。さらに連邦の部隊なのに元ジオンの人間で、使うのもジオンのMSという、まあ理屈はわかるが絵面としては納得しづらい状況。襲ってくる謎の部隊はガンダムバイアランということで、これは民間企業の所有……。うーん、NT-1アレックスの後継が民間で出てくるというのもわかりづらい話だ。
 ザクIII改などこの時代のMSは好きなのだが、クライマックスの対決もニュータイプネタでぼんやり分かり合う安っぽい展開で、外伝作品としてもアウトだな……ただまあこの後の『サンダーボルト』の奇をてらったメカ描写より平凡ながら正統派なので、これはこれで需要があるのだろう……。

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 『THUNDERBOLT BANDIT FLOWER』はシリーズの第2作目ということで、宿命の対決を経たダリルとイオ、二人のその後を描く……んだけど、今作だけでは終わりません! 対決もお預け! どこまで進んでるのかわからないが、連載もまだ続いてるから、そりゃ終わらんわな。
 舞台は1年戦争後の地球で、前作の宇宙空間での超高速戦闘から打って変わって、地上、空中、水中でのやっぱり高速戦闘! おなじみ、武装を使い切るごとにパージしていくアクションをふんだんに見せながら、今作ならではのMS戦闘を見せる。
 もうメイン二人の人物描写は前作で終わっているので、その他の状況とバトルバトルバトル……再度の対決を迎えるためのお膳立てがずっと続く。見応えはもちろんあるのだが、なにせ中途半端なところで終わるので満足度は低い。
 連邦でもジオンでもない今作オリジナルの「南洋同盟」という新たな敵が登場し、仏教思想とニュータイプ思想の融合が図られたような複雑な設定に。さあ、これが次回作以降、どう絡むのかな……。

 アッガイゴッグズゴックなどの水中MSも多数登場する上に、連邦側もジムのバリエーションやガンキャノンなどが登場。その中で「アトラスガンダム」が異彩を放つモンスターぶり。さあ新生サイコザクはこれに対抗できるかな?
 相変わらずのジャズVSポップス対決もあるが、なにせやっぱり直接対決しないので、単に鳴らしすぎに聴こえて少々鼻についた感もあり。

 何せ一区切りもつかないので、まあ次回に期待したい。来年というわけにはいかないかな?
 ところで今回はイオがかなり丸くなっていたが、『Twilight Axis』も合わせて見てると、なんで最近はガンダムは人格破綻者が乗るものになってしまったんだろうな。いや、ある意味昔からそうだったのかもしれないが……。

“フワフワ浮かぶんだよ”『IT それが見えたら、終わり』


映画『IT』日本版予告編

 スティーブン・キング原作!

 ある大雨の日、外に遊びに出かけた少年は、兄の作った小舟を追いかけて排水溝にたどり着く。中には、風船を持ったピエロがいて、彼に声をかけて来た……。消息を絶った弟を探し求めるビルは、街の下水道が荒地へと通じていることを突き止め、仲間とともに探検しようとするのだが……。

 かつてのテレビ映画からのリメイクは企画自体はあったものの、前後編に難色を示されたりと色々と紆余曲折あったようね。前編がヒットしたら後編も作る、ということで落ち着き、無事に大ヒット!

 旧作は演出やペニーワイズのビジュアルは良かったんだが、後編のクライマックスのあまりのショボさにトータルは50点に落ち着くという悲しい代物でありました。まあ総じて駄作・珍作の多いキングの映像化の中ではましな方だろうが……。
 今作はビル・スカルスガルドがピエロに扮し、子役たちに襲いかかる! さすがに最新技術と大予算を惜しげも無く投入し、血の量も半端ないことになっている。冒頭は超有名な、下水から顔を出すペニーワイズのシーン。このシーンにこのキャラの手口や恐ろしさ、嫌さがぎっしりと凝縮されていて、本当に怖い。ここで弟を失った主人公の立ち向かう理由になるという意味でも重要なんですよ。

 ペニーワイズは実際の連続殺人犯をモデルにしているが、超常的な怪物であり、舞台となるデリーという街そのものの暗部でもある。デブ少年によって紐解かれる街の歴史の本の中でも凄惨な事件が語られ、そこでもピエロの暗躍が描かれている。怪物が巣食っているからそういった事件が起きるのか、怪物を引き寄せる負の要素が住む人間の心にあるのか、は判然とせず、まあおそらく両方なのだろう……。いずれにせよ、怪物はそれを食らっているのだ。

 おなじくキングの『スタンド・バイ・ミー』的な通過儀礼の物語でもあるのだが、主人公ら少年少女の両親、あるいは片親は、それぞれ問題を抱え、子供を縛る存在として描かれる。ペニーワイズによる「搾取」が行われている地に留まり続け、子供たちにもそれを受け入れさせ定住を迫る。
 こういう搾取の連鎖を断ち切ることも、通過儀礼的物語の機能なのだが、単に街を出るだけではなく、出た後の心の平安のためにもこの問題を解決していかなければならない、という厳しさ!

 そこに思春期にはありがちな女子の問題が絡み、紅一点べバリーがガツンと存在感を発揮。いやこの年頃は確かに女子の方が成長早いよな。男子の中でも主人公のビルとデブ少年ベンが三角関係に! 終盤には、おまえどっちにすんねん、と、いささかもやもやさせられるが、やはり主役優勢か……?

 ペニーワイズさんは嫌らしい幻覚を見せるのと並行して、いきなり歯をむき出しにして暴力に訴えてくるのがまたひどくて、いかにも連続殺人犯のメタファーだな、という気がする。思えばキングは常に直接的な暴力の怖さをも描いてきた。心理的な恐怖に怯えてたらいきなり殴ってくるので、逆に「怖い」という感覚は薄れてしまう面もあるのだが……。実際、現れて何もせずにニヤニヤしているところまでが一番怖い。
お気に入りの怖いシーンは、死んだ弟の「フワフワ浮かぶんだよ。みんな、フワフワ……」だな……。

 しかし、言わずと知れた傑作小説を、その含意も込みできっちりまとめて映像化して、さぞ素晴らしいのであろう、と思いきや、各キャラの描き方の手際の良さなど見事で面白いことは面白いのだが、引っ掛かりが何もなくて、逆にダイジェストみたいに見えちゃうのだから、不思議なものである。
 原作の一級のエンタメとしての過不足なさがよくわかって素晴らしい! と思う反面、質感としては物足りないというか……まあその辺りは後編に期待だろう。
 今作でのキラキラした子供達の輝きに魅せられた人が、25年後、くすんだ中年になった主人公たちに対面した時に何を思うかが楽しみである。だいたい『スタンド・バイ・ミー』にしたって、あのかわいかったウィル・イートン君が大人になったらリチャード・ドレイファスになってるという悲しさ! そしてリバー・フェニックスは早逝……。約束もクソもなく早々と死ぬ奴やら脱落者続出で、こんなおっさんらがどうやって戦うの、という絶望感溢れる一本になりそうだ……。

イット (字幕版)

イット (字幕版)

”静寂の中で”『ダブル・サスペクト』


映画『ダブル・サスペクト 疑惑の潜入捜査官』予告編

 のむコレ第三弾!

 香港国際警察のホン警視は、死の間際、部下である潜入捜査官たちのデータを全て抹消した。その中の一人「ブラックジャック」と呼ばれる人物からのメールを受け、ディン捜査官とQ警視正が捜査を始める。巨大な麻薬取引に行き着いた二人の前に現れた、二人の関係者……ブラックジャックはどちらなのか?

 ルイス・クーとニック・チョンのダブル主演作で潜入捜査もの……なんか『レクイエム』からラウ・チンワンを抜いたような感じね。
 東京での初回上映で、前半に音楽がないデータが使用されたそう。前半はコメディタッチの軽いノリが続くので、これで音楽なしは厳しかったろうな……。

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 データの抹消された謎の潜入捜査官が一人いて、ダブル主演のどちらかが本物、もう一人はそのなりすましである……ということで、それがいったいどちらなのかということをフランシス・ンが部下とともに探る。
 大筋はシリアスなストーリーがあるのだが、とても真剣なことをやってるようには見えないコメディ演出で始まり、それが急転直下、中盤で人死にが出てどシリアスになり、さあ本題かと思うとどんどん馬鹿げた展開になってラストは壮大な浪花節に……と、これぞ香港映画というしかないごった煮展開に! シリアスな役もしっかりこなせるんだけど、何がしかの面白さが常に漂うニック・チョン、ルイス・クーの両雄の個性が映画を成立させている。

 『戦狼』の時も思ったのだが、製作会社が五つぐらい関わっていて、映画の始まる前にそれぞれのロゴを流すから、本編はいつ始まるのかと思ったではないか。今作もとてつもない超大作という部類ではないが、やっぱり相当金がかかっていてちょいちょいブラジルロケなんかも入れてくる。
 ブラジルで取引するシーンで、幾多のブラジル人を相手に回すルイス・クーは、やっぱりブラジル人より色黒であった。そして、二人を護衛する傭兵部隊の隊長は、イップ・マンの弟子の人ことシン・ユー! 腕利きであり一言も喋らないしあの顔だから、さすがブラジル人傭兵役でも違和感がないぜ………と思っていたのだが、普通に中国人傭兵の役だったらしい。クライマックスでもう一回出てきた時も「ブラジルの隊長」と呼ばれてたがな……。
 そして香港の鶴瓶ことホイ・シウホンも出ている。『ゴッドギャンブラー・レジェンド』でも見たが、『暗戦』の18年前とほとんど変わらんような……。

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 これは本当にアベレージ通りの香港映画という感じで、まずまず面白かった。のむコレが次にもあるなら、この水準をキープしてほしいな。映像素材には気をつけてな……。

”この世界で生きる”『ブレードランナー2049』(ネタバレ)


映画『ブレードランナー 2049』予告2

 ドゥニ・ヴィルヌーブ監督作!

 2049年、新型レプリカントによって新たな秩序が生み出された世界。人類に反抗する可能性のある旧型を処理する「ブレードランナー」であるKは、捜査の最中、あるありえない事象に行き当たる。人類、そしてレプリカントの根幹を揺るがす謎を追うKだったが……。

 まさかこの時代に続編が作られるとはな……ということで、予習してから鑑賞してきました。前作『ファイナル・カット』が劇場公開したのでチェック。劇場公開版は以前に見てたかな……。ラストを踏まえつつ新作!

 『SW EP7』ばりにいきなり冒頭のモノローグが重要で、読み飛ばすと大変なことになる。タイレル社はすでになく、後から出てくるジャレッド・レトの会社が新レプリカントと人工食料の供給で世界を牛耳る。レプリカントは反乱を起こしたレイチェルと同型の教訓を生かし、今現在普及している新型は従順に設計されている……。
 今作では「寿命が数年」という話は解決済みということで綺麗になくなっています。いや、あれはわざと寿命短めに設定してたのではなかったのか。やっぱり労働力や兵力は長持ちする方が良かったということか。前作の肝の部分がいきなりすっ飛び、実はレイチェルは寿命長かったんだ、という劇場公開版の後付け設定が公式化。

 某映画サイトが事前情報でいきなり「レプリカントに子供が生まれる」とネタバレしてたが、このネタは割と早めに出てくる。父はデッカード、母はレイチェル……。
 うーん、スピルバーグの奴が全部悪いんだけど、もうハリソン・フォードのキャラに子供出すのはやめてくれんかな……。『インディ』『スター・ウォーズ』に続き、ハリソンの旧作が復活したと思ったら毎回のようにガキが出てくる。正直、うんざりである。他に話は作れないのか……?

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 今作では「ブレードランナー」もレプリカントのお役目になっていて、ライアン・ゴズリングはしっかりレプリカント役。彼のスマートだが中身がなく見える個性にはハマっていて、仕事には忠実だが私生活と人格は空っぽ、暇な時間はAIの女の子と遊んでいるという悲しさ……。AI「ジョイ」役はアナ・デ・アルマス、『ノック・ノック』でキアヌを散々な目に合わせた女である。お部屋のプロジェクターでのみ映像出力されていたのが、中盤からは持ち出しOKになっていて、ブレードランナーの捜査情報なども見まくっている。いいのか、AIだから……。

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 中盤以降は自らがデッカードの息子なのかと考え始めたゴズリンの葛藤が中心になり、えっ、この人が父親なの……?と考えながらどつき合う展開に。最終的に「実は違いました」ということになるので、そこはちょっとひねってはいるのだが、どうもこのあたりの陳腐さがつらい。『ブレードランナー』っぽさを追求するなら、それは美術や設定にとどめ、もうデッカードやレイチェルは名前だけチラッと出ればそれで良かったんじゃないのかな。まあファンサービスと集客のためには、ハリソン・フォードが出ないと話にならんのだろうが……。

 クライマックスも妙にスケールの小さい、溺れるか否かの対決になって正直全く面白くない。ドゥニヌーブは生身のアクションに興味がないんだろうな、と思うぐらいわざとらしい回し蹴りが連発され、まるで十年ぐらい前の映画のファイトシーンだ。
 ここがあまりにつまらなかったので、やっぱり復活したジョイちゃんをオペレーターにして、デッカードの犬を引き連れて本社に乗り込んで社長と対決するみたいな展開が欲しかったな……。

 ビジュアルも旧作フォロワーの最大公約数といった趣で、それっぽいと言えばそれっぽい。数々の表現がフォロワーを生んだ中で、タイレル社の巨大社屋だけはバカバカし過ぎて淘汰されたな……と思っていたが、今作だけはきっちり継承したのも良かった。ただエルビスのくだりなど少々くどいし、「っぽさ」に腐心し過ぎという気もする。
 そこにハリソン・フォードを投入することで、確かに『ブレードランナー』っぽさは強化されるが、こういうものが観たかったかというとそうではなかったし、そもそも続編を観たかったのかと言われると……。

 しかし、こう書くといかにもつまらない長ったらしい映画のようだが、観ていて不思議と気持ちよく、ゴズリンがボンヤリした顔してジョイちゃんとアイコンタクトしてるあたりをぼんやり眺めているだけで五時間ぐらいいけそうな感覚もあり。ハンス・ジマーがボヨーン、ゴーンと大音響かき鳴らし、ドヒューンと車が飛んで……ああいい気持ち……。メリハリのなさが逆に良くて、環境映像(ただしディストピア版)に浸っているような……。

 ドゥニヌーブ作品としてはまったくもっていつもの彼の映画だな、と感じた部分もあり。「仕掛け」の作家としては話が陳腐過ぎて後退しているが、『灼熱の魂』『プリズナーズ』『ボーダーライン』『メッセージ』から連綿と受け継がれた、この世界はあまりに大きく広く、運命は時に残酷で、システムは強固で、我々はその中で無力であり何一つ動かせないという世界観に確実に通じる。されど、人も、AIも、レプリカントも何かを信じて生きるのだ、という展開をもって、ようやく旧作とは違うドゥニ版『ブレードランナー』に成り得たかな、と言う気がする。それだったらなおさら、ストーリーを妙に引き継がない外伝的映画にしてくれてたら良かったのになあ……。

”バベルの塔”『スカイ・オン・ファイア』


映画『スカイ・オン・ファイア~奪われたiPS細胞~』予告編

 のむコレ第二弾!

 密かに開発が進められていたスーパー幹細胞が、トラックでの輸送中に奪取された。かつて妻をガンで亡くし、医療の発展を少しでも助けようとその警備主任となっていたティンボは、トラックを奪回しようとするが、事態は思わぬ方向に……。

 のむコレ企画で中国映画が三本まとめて公開され、これを二本目に見た。主演はダニエル・ウー、『GF*BF』のジョセフ・チャン。

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 がん患者への再生医療を軸にした医療サスペンス……ということなのだが、監督・脚本のリンゴ・ラムがカーチェイスに銃撃戦をガンガン入れるため、ものすごい勢いでリアリティ・ラインが下がっていく。登場人物に誰一人頭のいい人がおらず、全員が無計画にその場の思いつきで行動するために、話が混沌に包まれ、盛り上げるために犬や人が死にまくる!

 そんな中で、いつもの何かが取り憑いたような顔をしているダニエル・ウーが、その調子で全員を睨みつけて憤懣を溜め込んでいく。ガンで妻を亡くした警備員だったが、ips細胞の研究所の火災から医者を助けたことで、その細胞の研究をしている巨大ビルの警備につくようになり、先進医療をバックアップしようとする。しかし、巨大ビルは利権まみれで、人の命を救うはずの幹細胞医療は金儲けの道具にされようとしていた……。

 振り返ってみるとダニエル・ウー絡みのメインの筋はわりと単純なのだが、ここにジョセフ・チャンとそのガンになっている妹が絡んできて、さらに火災で死んだ博士の息子が三角関係になる。実は二人は兄妹ではなかった……。
 香港映画らしく設定が足し算足し算で盛られて行って、さらにアクションも爆発も人死も恋愛も足されていく。こういう作劇をすることの欠点は、登場人物自身やその行動が、単に話をややこしくするための存在に見えて、自然とその世界に存在しているように見えなくなってしまうことなのだな。
 後半でジョセフ・チャンが妹と共に故郷に帰ると、急に話がすっきりしてホッとするのである。で、そうなると今度はダニエル・ウーの怨念を止める者が誰もいなくなって、ちょっとやりすぎじゃね?という大爆発が起こるのである。確かにスカイがオン・ファイアしてたわ……。

 まあこの大雑把さが、いかにも香港映画という感じだわなあ。しかし、正直、中華映画祭りのクオリティにもちょっと届かない感じで、中国映画版「未体験ゾーンの映画たち」を観たような印象。次回にものむコレがあるなら、これは最低ラインということになるかな……。

”燃えてきた、フツフツと……”『女神の見えざる手』


映画『女神の見えざる手』予告編

 ジェシカ・チャスティン主演作。

 大手ロビー会社で剛腕を振るう花形ロビイスト、エリザベス・スローン。天才的な戦略家である彼女だったが、銃規制反対キャンペーンの仕事を断り、規制派の小さな会社へと移籍。利権と莫大な財力を敵に回し、スローンは一世一代の大勝負を仕掛ける……。

 最近はもう乗りに乗っている感のあるジェシカ・チャスティン。この人も『ヘルプ』までは埋もれてたんだよな。今回はカリスマ的ロビイスト役。勝つことが全てで、少々悪どい手も辞さない豪腕ぶり。原題は『ミス・スローン』だからこの主人公の名前ですね。

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 今や選挙にせよ政策を通すにせよ、全てはイメージイメージイメージであり、実績や実効性など問題にならないぐらいにどういう印象を持たれるかこそが重要であり、その鍵を握るのがロビー活動でありロビイストである。
 で、今までもえげつない手法で数々のロビー活動を手がけ勝たせてきたミス・スローンに、所属する企業ごと持ちかけられたのが、銃規制反対のキャンペーン。規制賛成派に女性が多いので、銃に「優しい」イメージを持たせて法案を通そうという無理筋なものなのだが、資金は潤沢だし、勝利こそが至上である彼女なら当然受けてくれるだろう……と思いきや、いきなり「なめんじゃないわよ」と来たから実に痛快である。金積めばなんでもやると思ったか、見くびられたもんだな、バカヤロー! と啖呵を切って仕事を蹴り飛ばしたところで、接触してくるマーク・ストロング。銃規制キャンペーンの方を手がける会社の社長で、ミス・スローンを引き抜きに……。資金じゃ完全に負けてて普通にやったら勝ち目ないけど、どう?と言われて、ブチギレたばっかりの常勝ロビイストの闘志に火がついた……!

 早速自分のチームから希望者をごっそり引き抜き(ここでついて行く人はなぜかみんなナードっぽい)、半数が移籍。腹心のアリソン・ピルには裏切られたものの、新たなメンバーも加わってロビー活動開始!

 投票権を持ってる政治家を味方につける、キャンペーンに賛同させるのが主な目的だが、逆境にあることを水を得た魚のように感じるミス・スローンは、切れ味鋭い弁舌と、非合法スレスレの手段で賛同者を増やしていく……。いや、スレスレとは言いましたが、完全にアウトな盗聴までやろうとしてて、マーク・ストロング社長に慌てて止められる。いやいや、確かに勝てと言ったけど、そこまでやれとは言ってないし……。が、後々チーム内に裏切り者が出たのだが、それを発見できた理由は全員盗聴させてたからだ、と言われてはもう二の句が告げないのである。

 ただミス・スローンも完全無欠なキャラクターではなく、睡眠時間を削るために薬物を服用し、たまに男娼を呼び出しては息抜きをするなど、ちょいちょい隙もある人物として描かれている。結構イラチやしな……。冒頭は彼女が公聴会で散々挑発を受けているところから始まるので、そういうところを突かれたのか?と想像するところ。
 チームのメンバーに、銃によって家族を失った女性がいて、その彼女の隠していた過去を不意打ちで晒し、旗印にして運動を盛り上げるあたりは実にどぎつく、プライバシーに続き倫理の問題にも踏み込む一手。だが、その優勢も束の間、その彼女が規制反対派に襲われ、銃を持った警備員に助けられたことで再び潮目は変わっていく……。

 めまぐるしい情勢の変化の中で、時に葛藤を抱えながらもそれをねじ伏せ目的のために邁進する姿は、『コードギアス』的なピカレスクロマンに近く、キャラクターとしても悪役ギリギリ。だがこれこそが、もはや良心が死に絶えた銃社会に立ち向かう必要悪であり、ハードボイルドも任侠も廃れ、綺麗事にも共感できない複雑化した現代ならではのヒーロー像なのかもしれないですね。ラストのケジメの取り方含め……。

 ヨーロッパコープらしからぬ、切れのあるスマートな映画なのだが、一方で「悪党をズバッと凹ましてやったぜ!」という厨二感もしっかりと残っていてカタルシスをキープ。まあ実話ではないので、これぐらいのフィクション性は当然あってよしですね。

 『メン・イン・キャット』もまあまあ面白かったし(ケビン・スペイシーと共に葬られそうだけど)、ヨーロッパコープも息を吹き返してきたんじゃないかなあ。まあ『ヴァレリアン』が大コケして倒産危機だそうですが……。

テイク・シェルター(Blu-ray)

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